第11話

「そう?なんかさぁ、若いしもっと楽しんだ方がいいと思うのよねー」


「そっすねぇ」


この人けっこうおばさんなのか?


「…こら!なにしてんだよ」


旦那が戻ってきた。


「私が出てきたのよ。なんか仕事紹介してあげようよ」


「え?なに、そんなしゃべった?」


「うん」


「…いやでも、あんまり長居したら怒られるよね?」


「…いや、めちゃ汚かったって言えばいいし。まだ掃除終わってねーし」


「…まじで汚くしてごめん」


「…え、まじ汚かったんすかここ?」


「…掃除したつもりだけども」


「あなたそういうのいいから!仕事紹介してあげよーよ」


「仕事ねぇ。えーと、銀行は?」


て、この人嫁の言いなりなのな。


「俺は学がないっすよ」


「だって。でもホストはだめよ」


「…そうだ。ライブハウスは?音楽聴く?」


「えー、まぁ」


「俺の弟がいるからさ、そこの受付やらない?みんなすぐ辞めるんだって」


「それ、どんなきつい仕事なんすか?」


「え?きつくないよ。給料ここより下がるけど、楽だし。あと、うちの事務所の掃除とかは?四季さん」


うちの事務所?2人で話している。


「いーねぇ!掃除してよ。金払うから」


「まじすか。まじ優しいっすね」


たぶん、これは口だけだ。適当に聞いておこう。


「あなた、名刺」


「えっ、と…はい、これが俺の。金井虎一郎かねいとらいちろうで、こっちが四季さんの。仕事したくなったら連絡ちょうだい」


え…


なん?


「ほ、ほんとの話?」


「そうだよ。それより、君の名前教えてよ」


「あ、え…っと」


「うん」


「米田、礼央…」


「へー!かわいい名前ねぇ」


「ここの人とも話ししないとね。じゃ、四季さん着替えてきて」


「はぁい」


嫁は着替えもらってトイレに。名刺もらうの、はじめてだ。しばらく見ていた。


「あ、…延長になるよね?お金はどうしたらいい?」


「いい、です…掃除、途中だし…」


「そう?ごめんね、掃除中断させて」


「はい着替えたー帰るよー」


「じゃあ、連絡待ってるよ」


仲良く帰って行った。この名刺…どうしよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る