第216話 幕間 カノンクエストⅣ
どうも皆さんこんにちは。なんだかお久しぶりの気がしますね。
え? 誰かって?
嫌だなあ。スーパーオペレーターにして、ユーリ部隊のエース、カノン・バーンズです!
え? 二人しかいないだろって?
それは世界の真理に触れる事なので、口にしては駄目ですよ。
さてさて、今私はですね……なんとエルフさんの集落に近い森の中にいます。
その理由なんですが……
「おいバカノン、さっさと果物を探すぞ」
「誰が馬鹿ですか!」
振り返ったユーリさんをとりあえず殴りつけておきましょう。
えっと何でしたっけ……そうそう。私達が森にいる理由ですが、今はなんとエルフに伝わる美味なる果物を探しているのです。
果物ですよ果物! しかも天然です。この時代、中々手に入らない天然の果物、しかもエルフがありがたがる物ですからね。期待せずにはいられません。
森で果物探しなんて、まるで旧時代のビデオゲームのようでワクワクします。
「おい、ワクワクしてんじゃねぇ。遊びじゃねぇんだぞ?」
再び振り返ったユーリさんに、思わず肩が跳ねてしまいました。流石エスパーさん。私が一人ウキウキしている事を見抜いているとは……
「分かってますよ。相手が相手ですからね」
一応頬を膨らませて、知っていたアピールは忘れません。私だって果物が食べたいんです。
そう、今森に果物探しに来ているのは私達だけじゃありません。他にも何人もの方々が、果物を探して森を探索しているのです。
その理由は単純明快。今朝方リリアさんの声が出なくなってしまい、本来は帰路に付く予定を後ろ倒しにして、現在首脳会談の真っ最中なのです。降って湧いた手持ち無沙汰な時間に、ユーリさんがアルリムさんに「暇つぶしをくれ」と頼んだところ、森に果物がなる時期だと教えて貰ったわけですが……。
「粗方エルフ達が収穫してるらしいからな……」
呟くユーリさんの言う通り、森になっている果物はもう残り少ないとのことなので、食べたい人達が各自でチームを組んでこうして競争するように探しているわけです。
「お任せ下さい。今回は私も本気を出します!」
「ホントかよ……お前、めちゃくちゃ楽しそうな顔してるぞ?」
眉を寄せながらユーリさんが顔を近づけてきます。知っています。ユーリさん、本当は果物なんか興味がないことを。それなのにこんなに必死なのは、偏にリリアさんのためでしょう。少しでも美味しいものを食べさせて、心労を和らげてあげたい……意外に優しいユーリさんらしい考えでしょう。
つまりは愛――
「ぎぃええええええ!」
――急に蟀谷を掴まれて、思わず悲鳴をあげてしまいました。森の木々から一気に鳥が羽ばたきます。
「な、なにも言ってないのに」
「変な事考えてただろ」
ニギニギされる蟀谷に、「い、嫌だなあ……はははは」と笑い声を返しながら、ユーリさんの手を振りほど……振りほど……振りほどけない!
「頭……頭が潰れるぅぅ」
私の悲鳴をかき消すように、周囲の草や木々が揺れて――
「カノン! 大丈…夫……」
「みたいだね」
――飛び込んできたヴィオラさんとアデルさんが、呆れた顔を浮かべて私達を見ています。そして少し遅れて別の方角から現れたのは
「……二人共」
「紛らわしーだろ」
ルカさんとリンファさんです。いつもは優しいルカさんが、完全に呆れた表情を向けていますが、見間違いだと思いたいです。
ジト目のお二人に、「いつもの事だろ」とユーリさんが鼻を鳴らしています。いつもの事で、命の危機に晒されては困るのですが。蟀谷を擦りながらユーリさんにジト目を向けますが、私の視線にもユーリさんが鼻を鳴らした頃
『リーリンファ隊員。問題ないであるか?』
全員の耳にゲオルグさんの声が届きました。今回私が一番ライバルだと思っている方です。
「問題ねーよ。いつも通りナルカミとバーンズがじゃれてただけだ」
肩をすくめたリンファさんに、「命の危機でしたけどね」と口を尖らせておきましょう。本当に頭が潰れる所でしたから。
『そうであるか……ユーリ・ナルカミ、他チームの妨害行為は駄目であるぞ』
呆れ顔だろうゲオルグさんの声に、全員のジト目がユーリさんに突き刺さります。
「不可抗力だろ」
頬を膨らませるユーリさんですが、実は一番果物が欲しいことを皆が知ってます。それを出さずあえていつも通りに振る舞ってる事も。それを唯一分かっていなそうなのが、ゲオルグさんなのです。
『それでは皆、早く捜索を再開するのである』
ゲオルグさんの掛け声で、駆けつけてくれた人達もバラバラとまた森の中に散っていきました。
「とりあえず、急ぐぞ。あのバカ達には負けられん」
溜息混じりに進みだしたユーリさんに、「了解です」と続きます。私も果物は気になりますからね。
☆☆☆
ユーリさんと進むことしばらく……少しだけ甘い匂いが立ち込めてきました。
「近いな」
「でしょう」
思わず上がる口角を押さえきれず、ユーリさんと走り出します。この匂いの先に、求める果物が――期待を胸に、木々の間をすり抜け、辿り着いたのは少し拓けた場所でした。
「こりゃまた。梨……か?」
「みたいです……けど」
私達の目の前には、一本だけ見える梨の木とそれを取り囲むエルダートレントの群れ。どうやら眠っているようで、まだ私達には気がついていないようです。
「モンスターがいるなんて聞いてねぇぞ」
ユーリさんが眉を寄せた頃、別々の方角からヴィオラさん達のコンビ、リンファさん達のトリオがほぼ同時に飛び込んできました。
「うえぇぇ! モンスターかよ」
思わず叫んでしまったリンファさんのせいで、眠ってたエルダートレントが目を覚ましました。
「バカリンファ! テメェのせいで起きちまっただろ!」
「う、うるせーな! 不可抗力だろ!」
顔を赤らめるリンファさんですが、気持ちは分かります。ユーリさんに「バカ」と言われるのだけは納得しかねますからね。思わずウンウン頷いてしまいました。
「カノン」
そんな私の頭をユーリさんが抑え込みます。
「お前はジッとしてろ。森が吹き飛ぶ」
「し、失礼な! 力加減くらい――」
「いいから。じっとしてろ」
ジト目のユーリさんが「どう頑張っても、梨は飛ぶだろ」と痛い所をついてきました。ここで言い返さねば、また爆弾娘だのなんだのと――
「おい、バカ娘コンビ。お前らもだぞ!」
――私を無視して今度はアデルさん達に声を張り上げています。
「誰が馬鹿娘よー!」
腕を振り上げプンスコ怒るヴィオラさんは、ユーリさんより一応年上だったはず……いえ、今は止めておきましょう。ユーリさんに「バカ」呼ばわりは…以下略です。
「お前らの魔法も危ねえんだよ!」
それだけ叫んだユーリさんが、「ルカ、オッサン」とメンズ二人に呼びかけて一気に加速します。
「ぎぇええええ! 真っ二つ!」
「だから、何でお前が叫んでんだよ!」
思わず叫んでしまった事を許して欲しいです。なんせ、飛び上がり手刀一閃でエルダートレントが真っ二つですから。ユーリさんの一撃に触発されたのでしょうか、「僕も」と叫んだルカさんが、思い切り大剣を薙いで――別の一体を叩き斬ってしまいました。
うーん。ユーリさんと違って、正統派な強さです。顔も良いですし、私達の活躍が物語になる時は、絶対に主人公でしょう。そうなると、エミリアさんがヒロインになるんでしょうか。それは、何となく駄目ですね。エミリアさんは悪役令嬢ですから。
おっと、それ以上は止めておきましょう。怒られてしまいますからね。
そんな事を考えている私の前で、エルダートレントの巨体が砕けました。文字通りボロボロに。それはもう……ええ。ゲオルグさんのパンチは、凶器そのものですね。
ゲオルグさんと一緒にモンスターの群れと戦った日が懐かしいです。あの時も強かったですが、今じゃ
そしてルカさんとゲオルグさんの背後を守るのが、リンファさんの精密な射撃です。今も、「ナルカミ、邪魔だ!」と叫びながらも正確にエルダートレントを撃ち抜くリンファさん。
「こうして見ると、
「なんか、
いつの間にか私の横まで来たお二人が、色々教えてくれました。
「これ、私達の分はないかなー」
「だね」
既に勝負がつきかけている現状を、お二人がボンヤリと眺めています。
「大丈夫ですよ」
私の言葉に「え?」とお二人が同時に見てきます。
「その辺、ユーリさんは意外に律儀ですから」
二人に微笑みかけておきましょう。何だかんだ昨日の態度をユーリさんは気にしているはずです。なんせ、お二人ともリリアさんを思って声をかけてくれていたのですから。その善意を足蹴りにしたまま、平気な顔なんて出来る人じゃありませんからね。
加えてお二人がここに来た本当の目的も勘づいているでしょうから。
そうこうしている間に、勝負も終わったようで「よっし、余裕だな」とユーリさんの高らかな笑い声が響いてきました。
「結構なってるな……オッサン、ここは全員で分ける方向でどうだ?」
「うむ。異論はないのである。皆が頑張ったからこその成果であるからな」
頷き合う二人を前に、何もしていないアデルさん達が尻込みするように一歩下がりました。
「ひーふーみー……一人二個か」
梨を数えていたユーリさんが「おい、そこのおバカコンビ」腰が退けてるお二人に悪い顔を向けています。
「誰がお馬鹿コンビよ!」
口を尖らせるヴィオラさんに、「そういうのは要らねぇからよ」ともぎ取った梨を四つ放り投げました。それをキョトンとした顔で受け取るお二人。
「お前らの取り分だ」
笑ったユーリさんが更に二つ、梨を放り投げました。
「そっちはリリアの分……お前ら、気にしてたから来たんだろ?」
と溜息混じりに口を開けば、お二人が「何で知ってるの?」と驚いたように目を見開いています。
「お前ら食いもんに群がるタイプじゃねぇだろ。分かりやす過ぎんだよ」
肩をすくめるユーリさんに合わせるように「でしょう」とお二人の隣で頷いておきます。お二人が昨日必要以上にリリアさんに気を使ってしまい、空気を重くしたと思い込んでいる事などお見通しです。
リリアさんもユーリさんも気にしていないでしょうが、口で言っても納得するような方々ではありませんからね。
それでも呆けたままのお二人に、
「これで俺が、昨日お前らを馬鹿呼ばわりした借りは返したぞ」
そうユーリさんが笑います。二人に悪かったのは自分だと、付け加えるフォローぶり。意外に人
思わずユーリさんと目が合ってしまいました。そうしていつものように見せる笑顔で――
「カノン、お前も『待て』が出来たご褒美だ」
「ペット扱い!」
――放り投げられた梨をキャッチします。
恋人では絶対にありませんが、不思議な関係なことは間違いないです。もしかしたら、お兄ちゃんがいたらこんな感じだったのかもしれませんね。……めちゃくちゃ馬鹿なので、友達には紹介しづらいですが。
とりあえず戦利品を手持ちの水で洗い、皮もさっと剥いてそのままガブリと……
「うまい!」
……流石エルフの森。普通じゃ育たないはずの環境だと思いますが、そこはそれ、美味しいのでオッケーでしょう。
「お、マジかよ。じゃあジジイの目の前で『シャクシャク』音立てながら食ってやろうぜ」
「また馬鹿な事を言うのである」
「アタシはパスだかんな」
「ぼ、僕もいいかな――」
「連れねぇな、ルカ。一緒にジジイをからかおうぜ?」
「おい止めろ。うちの良心を悪に引き込むな」
「さっすが元悪徳衛士、言うことが――っぶねぇ!」
リンファさんの
「ここでお前を殺してオーベル嬢の心労を和らげてやるよ」
「バカ、早まんなって!」
正確無比な魔弾を避け続けるユーリさんに、「馬鹿だね」「だね」とヴィオラさんとアデルさんが溜息をついています。
「いつものことですよ」
楽しい仲間と楽しい思い出。あと少しかもしれない人生ですが、いっぱいまだまだ思い出を作りましょう。
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