第209話 端折ってこの長さ。伊達に身体が長くない
※戦闘シーンはもっと丁寧に書きたかったのですが、皆の活躍を入れると三話くらいになるので……ただでさえ大事な所故に時間をかけてるのに、
竜神に会いに行って一話。
戦いで三話。
こりゃ駄目だ。と言うことで、端折りまくりですがご容赦を。
―――――
遥か上空で一瞬何かが光り、遅れて衝撃が山の空気を揺らした。
皆の目に映ったのは、上空から高速で飛んでくる何か――
それが
「全員散開! 各自戦闘態勢!」
サイラスの号令で、全員が一瞬でその場を離れて武器を構えた。
宙で体勢を整えたユーリが雪の上に着地。
周囲の雪を舞い上がる。
キラキラと輝くダイアモンドダスト越しに、遥か上空で再び何かが光った。
即座にバク転で距離を取るユーリ。
先ほど着地した場所に降り注いだのは、巨大な炎球だ。
雪を溶かし、地面を焦がした炎が二つ、三つと容赦なくユーリへ降り注ぐ。
「狙撃隊! 奥の一つを撃ち落とせ」
サイラスの号令に合わせて、リンファ、ルッツ、イリーナの
三人同時の一斉攻撃で、炎球が空中で霧散する。
「やるじゃねぇか」
それを見たユーリがニヤリと笑い、再び竜神目掛けて突っ込んだ。
「ユーリに続け!」
エレナの号令で近接部隊も竜神へと接近――近づくユーリ達目掛けて、竜神がその尾を横に薙いだ。
巨大な質量が、容赦なく全員を襲う。
「オッサン! ラルド、ルカ!」
ユーリの掛け声に応じるように、ゲオルグとユーリが拳を、ラルドとルカが戦鎚と大剣を、叩きつけた。
パワータイプ四人と尻尾が交差する。
尻尾を受け止め、それぞれの足が地面に深くめり込んだ。
僅かな隙に全員が竜神へと接近。
ロランとフェンの双刃、そしてエレナの刃が竜神をいち早く捉えた。
耳をつんざくような金属音に三人が顔をしかめる。
「かった!」
「クソ」
『くすぐったいな』
竜神の嘲り笑いが響き、同時に炎球が三人に降り注いだ。
先ほどよりも小さいが数の速いそれは、確実にリンファ達対策だろう。
散弾のように降り注ぐ炎を、
ダンテの二丁拳銃が
エミリアの蛇腹剣が
尽く撃ち落としていく。
「二人共助かった!」
エレナの声に、ダンテがサムズアップを返し、エミリアが僅かに口角を上げた。
その間に近接部隊第二陣が接近。
「ルチア! 合わせぃ!」
クロエの叫びに「オッケー!」と槍を構えたイリーナが竜神の脚に――
斬りつけ突き刺す二人をあしらうように、竜神がその巨大な脚を振る。
衝撃で吹き飛ばされた二人。
「チミっ子!」
「ガッテンです!」
吹き飛ぶクロエ達を飛び越え、カノンの戦斧が竜神の脚で大爆発を引き起こした。
今や火力だけならユーリに匹敵するカノンの一撃に、竜神がわずかに傾く。
それを後押しするのは、後方から放たれた高威力の魔法だ。
アデルと
ヴィオラの
二人の魔法が竜神の身体を捉えた。
衝撃で空気が震え、周囲の雪が吹き飛ぶ中――
「ディーノ!」
「……ようやくか」
竜神の足元が一瞬で泥濘へと変わった。
バランスを崩した上に、脚を取られた竜神。
崩れた竜神目掛けて、ユーリとエレナが飛び上がった。
繰り出された左拳。
振り抜かれた刃。
それらが竜神へ到達する直前、二人の身体を暴風が攫う。
大きく羽ばたいた竜神に、地面へと降り立った二人が顔をしかめた。
「やっかいだな」
「デケェだけだろ」
呟いた二人の姿が再び消える。
それを追うように全員が再び竜神へと接近――世界の重みを知る戦いが、静かな霊峰を揺るがしていた。
☆☆☆
竜神イルルヤンカシュとユーリ達が激突して既に数十分――今までモンスターの群れ相手に、長丁場の戦いを幾度となく経験してきた面々をしても、肩で息をするほどの激しい戦いになっていた。
そのくらい強大な存在なのだ。竜神の名は、神の名は伊達ではない。
幾度となく斬り掛かっては、弾き飛ばされた近接部隊。
全員が満身創痍で、要の一つと言って良いエレナは先程から殆ど回復要員だ。エレナの回復がなければ、早々に戦線が崩壊していた事を考えれば、エレナ様々かもしれない。
何度となく魔弾や魔法を撃ち込んでは、
すでに全員の
加えてその巨体を振り回すだけで、前衛後衛の区別なくまとめて攻撃できる巨体も、皆の疲労を加速させている。
相手が軽く尻尾を薙ぐだけで、全員の体力がゴリゴリと音を立てて削られていくのだ。
あまりにも強大な存在に、サイラスさえもエレナ達に交じり剣を振るっている。それでもチームの疲労ぶりは、先のイスタンブール襲撃の比ではない。
「これが竜神か……」
愛剣の柄を強く握りしめたサイラスが、その割れた眼鏡越しに竜神を見上げた。ところどころ鱗がめくれ、血が滴っている姿は、満身創痍といっても十分だ。それでも四本の脚で大地を踏みしめ首をもたげる姿に、纏う闘気に陰りは見えない。
『中々楽しませてくれる』
上空で笑う竜神に、全員が表情を引き締めてその武器を握りしめた。
『我をここまで追い詰めた褒美だ……受け取れ――』
上空に光が集まっていく――それを見たサイラスが表情を歪め、「全員緊急回避!」大声で叫んで大きく飛び退いた。
今まで見せたことのない我武者羅な表情で。
服が汚れるのも構わない程地面を転げて。
飛び退くサイラスが居た場所を一筋の光が走った。
一瞬。ほんの一瞬だ。光が走ったのは、ほんの一瞬。
光に遅れるように、まずは音が全員の鼓膜を破らんが如く響いた。
同時に衝撃と熱風。
立ち上る火柱は、天を焦がすほど大きく、周囲の雪を全て溶かして蒸発させる。
光が走った後に残ったのは、一筋の裂け目と溶けた剥き出しの地面。
あまりの光景に誰しもが言葉を失った。
これが神の力……こんなものを相手にまともに戦って勝てるのか。
全員の脳裏に浮かぶ「死」という一文字。
「まだだ!」
叫んだエレナがその気配を振り払うように、刀を杖に立ち上がった。エレナの気迫に応えるように一人、また一人と立ち上がる。
皆知っているのだ。膝を折ろうと、前に進もうと、いつかは「死」がその身を包むことを。ならばその時までは、希望を棄ててはならない。その時までは歩みを止めてはならない。
絶望しか見えない状況でも、希望を掴んでここまで来たのだ。
希望がないならば、自らが希望となればいい。一度は瞳から失われかけた光が再び燃え上がる。そんな瞳を見た竜神が『ほう?』と楽しそうに笑った。
『面白い。面白いぞ、貴様ら!』
尊大な言葉と高らかな笑い声が頭上から降り注ぐ。地響きかと思う笑い声……に被るのは、聞き覚えのある「ケケケケ」という悪い笑い声だ。
「面白ぇのは、こっちの台詞だ」
腰を落とし、左手を突き出すユーリ……見覚えのある構えに、全員が狼狽えた。なんせこの状況で破壊光線だ。一撃必殺の魔法を放てば、ユーリは暫く動けない。最悪相手のブレスを避けられない。
「どうやら本気を出しても良さそうだな」
それでも誰も止められない。竜神のブレスと真っ向勝負できるのは、ユーリの破壊光線くらいなのだ。
耳を刺すような高い音が、霊峰全体に響き渡る。
ユーリの左手に集まる荒れ狂う魔力。
紫黒色のそれが、ユーリの左手の中で球状に圧縮さてていく。
魔力を圧縮していくユーリの全身を黒い闘気が包みこんだ。
――夜を纏うもの。
竜神の言葉を借りれば、なるほどと思える光景を、皆はただただ見守っている。何故か分からないが、この一撃が両者の最後になる……そんな予感がその場を包んでいるのだ。
そして竜神もまた、ユーリに応えるように先ほどよりも長く光を集めている。両者の集める魔力が共鳴を起こし、霊峰全体を揺らす。
大きく深呼吸をしたユーリが、その口角を上げた。
「いつまでも上から見下ろしやがって――」
『ならばひれ伏させて見よ』
ほぼ同時に両者から閃光と黒閃が解き放たれた。
空中で激突したエネルギーの奔流が、周囲を白く照らす。
衝突し、破裂したエネルギーが空間を揺らす。
霊峰全体が共鳴するように揺れ、当たりで巨大な雪崩が起きても二人は止まらない。
「がああああああ」
気合とともに、わずかに押し始めたユーリの破壊光線。その様子に全員が拳を握りしめた。
「行け……」
誰かの呟きに、皆が乗っかるように声を上げた。
「行けーーーー!」
声に後押しされた破壊光線が、竜神のブレスを突き破り空へと吸い込まれた。
空へと……そう、竜神は回避したのだ。とっさに首を後退させ、渾身の一撃を回避――
「おい――」
――回避した竜神の頭上でユーリの声が響いた。
それに竜神が気が付き、視線を上げようとしたその時には、竜神の頭にユーリの左拳が叩きつけられていた。
ガクン、とたわむ竜神の首。
ユーリ渾身の拳骨が、竜神の頭をちょうど真ん中付近まで叩き落としたのだ。
それでもひれ伏すまでには……その瞬間ユーリが再び竜神の頭上に現れた。
「――さっさと……」
一瞬で間合いを詰めたユーリの左前回し蹴りが竜神の延髄を叩く。
地面すれすれまで落ちる竜神の頭。
それでも、地面へ叩きつけられるのを回避……もちろん頭上には三度目のユーリ。
「落ちろ!」
延髄切りの勢いで回転したユーリの左後ろ回し蹴り。
踵落としのような形で、再び竜神の頭を強かに叩いたそれが、ついに竜神の頭を地面へ叩きつけた。
轟音と舞い上がる砂塵。
ダメ押しとばかりのユーリの右前回し蹴りが、竜神の頭を地面へめり込ませる。
地面に大きく亀裂が走った。
薄れていく砂塵の中、
「まだやるか?」
ユーリが黒い闘気を纏ったまま肩で息をする。目の前には、地面にめり込む巨大な竜神の頭だ。その瞳は閉じられ、何かを考えているようにも見えなくない。
少しずつ薄らいでいくユーリの闘気に、ついに竜神が口を大きく開けて笑い声を上げた。
『面白い。確かにそなたらの覚悟を見届けた』
何事もなかったかのように首を上げた竜神が、ユーリを見下ろす。
『質問に答えよう。小さき……いや、強き者よ』
満足そうに頷いた竜神を前に、「始めっから素直にそう言えよ」とユーリが笑みを浮かべて尻もちをついた。
「それとな……」
見上げるユーリを、竜神が訝しげに見下ろした。
「……『答えよう』じゃねぇ。答えさせて下さい、だバカが」
ユーリがそう言って笑えば、『どこまでも面白い男だ』と竜神の高らかな笑い声が、霊峰全体に響いていた。
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