039 王女だったの!?
「リディアちゃん、明日、王女さまがピクニックに行くらしいのよ。あなたも暇ならご一緒なさいな」
「ピクニックですか」
パーティーも終わったし、やれやれやっと帰れるのかなと思ったら、せっかくだからともう少し逗留するらしい。
しかも、王女様とピクニックときた。まあ、子どもにはあのパーティーは退屈だっただろうし、今度は子どもだけで楽しいことをやろうみたいな企画なのかもしれない。
(しかし、王女……王女か。怨霊の記憶をサーチしてみるか)
私はこの国の王女はまだ見たことがない。私が憑依する前の幼リディアももちろんないから、知っているのは怨霊リディアだけだ。
……ふむふむ。怨霊の記憶によると、どうやら王女は私と同年代らしい。
名前はサンドラ。ゴージャスな巻き髪の美女で、怨霊リディアも何かが切っ掛けでそれなりに面識ができて、それからは王都に来た折には毎回ちゃんと挨拶していたようだ。
もしかすると、このピクニックが知り合うキッカケなのかもしれない。
正直、脳内年齢20歳超えの私からするとピクニックなんて、それこそ退屈なんだが、これからのこともあるし、同年代なら王女だろうがそんなに気を遣うこともないだろう。取り巻きみたいのもいるだろうし。
なにより、王女と仲良くなっておくに越したことはない。もしかしたら、辺境伯の侵攻計画を事前に入手して軍を出してもらったりできるかもだ。
この国は、継承権1位が男女問わずの第一子であるから、王女はいわゆる王太子というやつだし。縁を結んでおくことにしよう。
ということで、当日。ピクニックに参加することになったのだが――
「あなた。初めて見る顔ね。どちらの馬車にお乗りになるの? もちろん、こちらよね?」
「え? どういうこと?」
知らん少女にいきなりそんなことを聞かれる。
馬車は3台用意してあるようだ。少女の側に二台。
向こうにもう一台。護衛の騎士もいるが、彼らは騎乗して付いてくるようだ。
「こちらの馬車がサンドラ殿下の馬車よ! こちらにお乗りになるのでしょう?」
「他にもなんかあるんですか?」
「なにあなた、知らないの?」
知らない。ピクニックにはガルディンさんも随伴してくれないし、私はメイドも連れて来ていない。怨霊の記憶だけが頼りだが、頭の中を探ってみても何も出てこない。
チラリと見ると馬車の中から、赤髪のゴージャス美少女が見下ろすようにこちらを見ている。
ピンときた。怨霊の記憶と合致する姿。あれがサンドラ王女だろう。
なかなか堂に入った王族ムーブだ。偉そう~。
「悪いことは言わないからこちらの馬車にお乗りなさいな。ね」
「そう言われてもね」
目の前の少女は王女の取り巻きか何かだろうか。
まだ10歳くらいかな。精神年齢が高い私からすると、微笑ましいとしか言い様がない。
あっちの馬車に対立している誰かがいるということなのか?
「第一王女派か、第二王女派か、サンドラ殿下は今日見定めるつもりなんですわよ。新参のあなたは何も知らないのかもしれないけど、なら、なおのことこちらにするべきよ」
少女が身を寄せて小声で教えてくれる。
(ん? 第一? 第二?)
王女って一人じゃなかったっけ?
少なくとも怨霊の記憶では、王女は一人だったはず……。
なんだろう、怨霊の記憶。継ぎ接ぎのピースが点々とあるのに、もどかしく思い出せない感じだ。
6歳の記憶。まして他人のソレなんて思い出したくても思い出せないのは、仕方ないが、なにか大事な……思い出さなきゃならないなにかがあるような……。
「どうしたの、急に黙って。それで、どうなさるの? 早くなさらないと馬車の定員も決まっておりましてよ」
「えっと、少し待って」
ダメだ。思い出せない。
と、その時、向こうの馬車から見知った顔が出てきた。
「あ、マルグレーテちゃん。来てたんだ」
パーティーでお一人様だったマルグレーテが、馬車から出て近くにいたメイドに話しかけている。
「知り合いがいたんで、向こうにしようかな」
「あなた……第一王女派でしたの」
「第一王女派? なんで?」
「マルグレーテ王女殿下と知り合いなのでしょう?」
「うん。……って、え? は?」
王女殿下!? あの子、王女だったの!?
おい! 怨霊! アホお前! どうしてそんな大事な記憶がないのよ!
っていうか、こんなお子さんのうちから派閥とか……。平和な国だからこそなのかな。
「まあ、いいや、とにかく私は向こうに行きます」
「お待ちなさい。あなた――」
呼び止められて振り向くと、赤髪の美少女サンドラが馬車から降りてくるところだった。
「これはサンドラ殿下。お初にお目に掛かります。ラピエル領主バルトロイドが娘、リディアです。以後お見知りおきを」
「……リディア。後悔なさいますわよ?」
サンドラは私より2つ3つ上くらいの年齢だろうか。
こんな年から政治ゲームとは、これから国が滅ぶことを知っている私としては、んなことしてないで他にやることないの? ってなる。
まあ、どちらにせよ怨霊の記憶にないマルグレーテのことも知りたいし、今回は向こうだな。
私は頭を下げて踵を返した。
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