037 パーティー会場でポヤポヤ少女とお友達になる
父と母に連れられて、私も参加する。子どもも参加できるようなパーティーはちょっと珍しいような気がするのだが、建国記念パーティーはわりと砕けたスタイルらしい。護衛であるガルディンさんも参加OKという具合だ。まあ、彼は騎士爵だから身分的にも問題はないんだが。
ちなみに、さすがに弟と妹は不参加である。幼児だからな。
会場に到着する。参加者が多いからか、基本は立食スタイルのようだ。
会場と続きになっている部屋も開放されていて、そっちで座って寛いでもいいらしい。
「では父上、母上! 私は大丈夫ですので、楽しんで下さい!」
「えっ!? あっ!」
「リディア、待ちなさい!」
「待ちません! ガルディンさん、行きますよ!」
せっかくの6歳児である、誰にも咎められることがない、情報収集しながらスイーツをゲットだぜ!
さすがに、こっそり『収納』するのは無理だろうが、待ちに待ったご馳走である。
怨霊の記憶が確かならば、料理は争奪戦。出た端からどんどん無くなっていくし、貴族といえどもみんなかなり食い気がある。
「ガルディンさん、だっこだっこ! 全然見えない!」
「はいはい。リディアお嬢様はパーティーでも食い気なんですねぇ」
「こういう時しか食べられないものが多いと思うので!」
情報収集もいいが、それに関してはパパンもママンも自主的にそれとなくやってくれているだろう。私もやるが、こんなところでたいした情報など得られるはずもない。
そんなことより今は食べることである。
(おほ~。謎の肉のローストに、謎の魚のフライらしきものに、謎の野菜スティックも美味しそうですね~。この身体は量を食べられないし厳選しないと)
やはり野菜関係はスルー1択か? ハッキリ言ってしまうと、領主である私たち家族でも、肉は頻繁に食卓に上がるわけじゃないんだよ。どちらかというとタンパク源は魚が多い。個人的にはエビがよく出るので元日本人的にはそこが高ポイントだったりする。
海洋資源がまだまだ豊富だからエビなんて取り放題っぽくて、普通に毎日伊勢エビ食べられるみたいなノリ。まあ、もちろんうちが領主だからってのは大いに関係しているだろうけど。
「よし! ガルディンさん、あそこの肉とあっちの肉を取って下さい!」
「あいよ。リディア様は肉が好きなんですねぇ」
「そりゃあもう!」
言外に、子どもなのに肉が好きなのは珍しいという意味が込められていそうだったが、確かに自分が子どものころはあんまり肉は好まなかったかもしれない。
今は中身が大人だからか、お肉大好きっ子だ。品種改良されていない動物の肉なんて美味しくないかと思いきや、案外イケるのだ。
それが王城で出る肉となれば、さらに美味しいに違いない。
私を降ろしてガルディンさんが、料理に突撃していく。どこの貴族だか使用人だかわからないがライバルが多い。だが、我らがマッチョに掛かれば、料理をゲットするくらいワケがなくてよ!
「ほら、取ってきましたよ」
「ありがとうございます。ごちそうさまでした」
「食べるの早ッ!」
もう見るからに美味しそうだったし、香りも良かったし、食べ放題だし、僻地で頑張ってるドッペルとクロエの分まで食べなきゃだからね。もっしゃもっしゃ。
どうやら味はマジで期待できそうだし、全種類制覇めざしちゃうか!
◇◆◆◆◇
「ふぅ~、食べた食べた。ガルディンさんもかなり食べましたねぇ」
「こんなもんはそうそう食べられませんからねぇ。ひさびさに堪能しましたよ。酒が飲めないのだけが残念です」
「あら? 別に飲んでもいいんですよ?」
「ははは、これでも私はリディア様の護衛ですからね、さすがに酒はまずいでしょう」
ガルディンさんってば、意外と真面目なのよね。
というか、毎日ちゃんと訓練しているという点でも、彼の真面目さがうかがえるというものだ。
なにせ、この国の騎士ときたら、すごくおざなりな戦闘訓練しかしていない。
2日おきに1時間だけ、剣を振る程度のことしかしていないみたいなのだ。もちろん、他にもいろいろ仕事が忙しいとか理由が在るのだろうけれど……。なんたって、王都の騎士なわけだし、うちみたいな田舎とは違うと言われてしまえばそれだけの話であるが。
「さてさて、お腹も膨れましたし、そろそろ情報収集でも……あら?」
お子様も多いパーティーだが、さすがは紳士淑女の集まる建国記念パーティーというべきか、みんなガキンチョのくせに大人しく大人についてまわっているのだが、一人、私より少し年上くらいの少女がオロオロと立ち尽くしている。
栗毛でなんだかポヤポヤした印象の可愛らしい子だ。
しかし、迷子……ってことはないだろうが、どうしたんだろ? 話しかけてみるか。
「どうしたの?」
「ケーキ。食べたいのだけど、どうしたらいいかなって」
「どれ? 取ってあげる」
私がガルディンさんに頼んでいるように、低身長には立食パーティーは厳しいのだ。
ガルディンさんにケーキを取ってもらい、少女に渡す。
「わぁ……美味しそう……! ありがとう!」
「どういたしまして。もしよかったら、他にも取るよ? 私はもう食べたから」
「いいの?」
「もちろん。それに、早くしないとなくなっちゃうからね」
私はほとんど一番乗りで料理を取っていったから、好みのやつはぜんぶ食べられたけど、人気の肉料理なんかはすでに品薄の模様。
まあ、これからまた補充されるかもだが、されなかった場合も見越したほうがいいだろう。ビュッフェは戦場だよ!
「じゃ、じゃあ、あっちのお魚も食べたい」
「よしきた!」
迷子の子はお腹が減っていたようで、それなりにいろいろと食べた。
私もまだ食べられるような気がしてきて、いっしょにケーキなんかを食べた。
女の子の名前はマルグレーテといって、年齢は私より2つ上の8歳らしい。
地元には仲の良い同い年くらいの女の子がいないので、ちょっと新鮮だ。
もしかしなくても初のお子様フレンドかもしれない。
精神年齢が大人でも、やっぱり脳は子どもなわけで、けっこう肉体に引っ張られるんだよね。単純に身長だって低いし、さすがに大人と対等というわけにはいかない。そうすると、やっぱり子ども同士って気楽だ。地元でも、もうちょい子どものコミニティに溶け込んでもいいのかもなぁ。
「リディアちゃんはどこから来たの?」
食後のお茶をしながら(子どもでもお茶を飲むぞ! 貴族だからね)、ちょいと雑談。
「私はラピエル領ってとこだよ。王都から馬車で10日もかかるの」
「ラピエル……? わかんない。湖より向こう?」
「そうだね。アイスバーグ公爵領もパレット湖も超えた先。辺境伯領の隣って言えばわかるかしら」
「わぁ……! そんな遠くから! 私、湖の畔までしか行ったことない」
「ふはは、普通はそうでしょうね。あ、マルグレーテちゃんはどこの子なの?」
「私はここの子だよ」
「なるほど」
王城勤めの文官貴族の子ってとこかな。
ドレスはけっこう高そうだし、けっこう高位貴族のご息女かもしれない。
まあ、6歳児にはそんなの関係ないけど!
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