036 ドッペルは別行動

 地元居残り組のドッペル・リディアです。

 

 私はクロエといっしょに本体とは別行動をしている。というのも、今回の王都行き、ガルディンさんも騎士さんたちも付いているし、危険はないのだ。

 だったら、これを気に完全自由行動で魔物狩りとか情報収集をして過ごしたほうがいいじゃん! ということになったのである。


 さすがに地元はもうだいぶ魔物を買っていて、ギルドにもめぼしい討伐依頼はなくなってきたので、ちょっくら辺境伯領のほうへ行ってみるかということになった。

 クロエは人間にも化けられるし、お金さえあればどうにでもなる。


「クロエ~。さすがに日が出てきたら、地面を走ってよ? っていうか、顔が割れてるんだから、ネコかイヌかなんかの姿で走ってくれたほうがいいんだけど」

「嫌よ。飛んだほうが楽だもん」

「ワガママ魔族~!」


 夜中でほとんど明かりがないことをいいことに、クロエは魔族姿のまま空を飛んで私と並走している。

 私はといえば、元々の時空紋の他に、太陽紋と、火炎紋を身に付けており、辺境伯領でなにかあってもだいたいどうにかなるだろう。なによりクロエがいるし。


「時間があったら、へパルモ大陸のほうも見てみたいわね。あっち、私が魔王やってたころに、東伐の名目で魔族が渡ったんじゃなかったかな。魔族領になってるってことは、うまいことやったってことなんだろうけど」

「え、ええ? クロエの指示で魔族が渡った……の?」


 いきなり、そういう歴史の真実みたいな話するのやめてくんないかな。


「あのころ、向こうって未開の地だったのよ。当時、人間の王に頼まれてね。魔族ってほら、ヒト族よりずっと強いからさ。『ま、いいよ~ん』くらいの感じで」

「か、軽すぎる…………」


 おかしい……私の受けてきた教育と違う……。

 魔族は知性のある魔物で、ヒトに仇なす存在なんじゃなかったの……?

 

「私たちって、ヒト族と違って家すらいらないのよね。私は汚れるのは嫌いだけど、それも人によるし。魔族って、そのへんで寝れちゃうし。前に偉そうなヒト族のオッサンに言われたよ、獣と変わらんってね。ははは、ヒト族が脆弱すぎるだけだってーの」


 まあ、そうなるともしかすると魔族領にはクロエの知り合いの魔族なんかが生き残ってたりするのだろうか。

 なんか魔族の証みたいな杖持ってたし、そこまでいけば、さらにディープな歴史の真実が聞けちゃったりするのだろうか。

 知りたいような怖いような……。


「……ま。とにかく、今は辺境伯領をかる~く探るくらいでいくから。クロエもよろしくね」

「はいは~い。なんか美味しいものあったら食べたいわね。食べさせてくれるんでしょう?」

「やっぱ国境の街だし、ちょっと変わったものがありそうだよね」


 何しに行くんだって感じだが、現地での情報収集は大事だ。

 兵の強さとかだってわかるかもだし。


 私は夜明けを待ってから、本体への手紙を書いた。

 手紙を「ストレージ」に入れておけば、本体へと届く。時空を超えた「ストレージ」を共有しているから、こういうことができるのだ。

 ある意味では、ドッペルゲンガーと同等以上のチートだとすら思う。

 

(さて、本体は王都を楽しんでるのかな? 私は私で頑張らなきゃ!)


 ◇◆◆◆◇


 両親といっしょに王都のお城へやってきてから数日。

 ハッキリ言って、城での日々はかなり退屈だった。窮屈というか、自由がないというか……まあ、私たちは来賓だし、仕方ない部分もあるだろうが。

 

 ドッペルからの手紙は毎日届いた。

 どうやら無事に辺境伯領には到達できて、魔物退治なんかの活動を開始しているようだ。

 ドッペルが消えなければ記憶は私へと受け継がれないから、向こうの様子は手紙だけが頼りだ。

 自分から日本語で手紙が届くとかかなり不思議な感じだが、日本語はこの世界ではかなり優秀な暗号として機能するだろうし、そういう意味でも抜かりない。

 まあ、読んでるところを誰かに見られるようなヘマはしていないつもりではあるが。所詮は一般人の6歳児だし、もし王城に忍者とかいたらバレバレかもしれない。

 ……いないよな? 忍者。

 天井を「くせものォ!」って、槍で刺したりしてみたほうがいいかしら。


 ――冗談はさておき、ゾクゾクと各地からパーティー参加者たちが訪れ、パーティー前の前哨戦というか単に情報収集という名の暇潰しか、お茶会やらサロンでの喫煙会やら、大人達は毎日忙しそうだ。

 私はといえば、ガルディンさんといっしょにお城を探検したり、騎士隊が訓練しないと遠くから様子を見たり、コッソリ剣の練習をしたりして過ごしている。

 王城だろうがなんだろうが、所詮は人間が生活する場だ。現代日本人の価値観や常識に照らし合わせれば、かなり緩いと言っていい。

 もちろん、警備はちゃんとしているし、緩みきっているというわけではないだろうけど、城の庭で勝手に棒を振って訓練をしていても許されるし、思ったより立ち入り禁止ゾーンが少ない。

 無論、王族が住んでいる辺りとかは入れないんだけど、別にそんなところに用はない。


 そんなこんなで1週間。ついにパーティーの日がやってきた。

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