035 騎士団思ってるのと違う

「うわぁ、思っていたより豪華! さすが王城ですね」

「リディアちゃんは3年前に来てるんだけど、さすがに覚えていないのね」

「さすがに3歳の時の記憶はありませんよ、母上」


 と言いつつ、私は思い出していた。

 記憶は何かの切っ掛けでフラッシュバックの如く表に出てくることが多いが、中でも「見る」ことは記憶を呼び起こしやすい。

 今回も部屋を見た瞬間に思い出した。3歳の頃のリディアの記憶。そして、怨霊側の記憶もいっしょに。


 うんうん、いいぞいいぞ。記憶はあるに越したことはない。

 ちなみに意外と人間の記憶は思い出しやすいみたいで、見たことのある門番とか、衛兵とか騎士とか、けっこう思い出せた。他人の記憶を思い出すとはなんとも変な表現だが、実際にそうなのだから仕方が無い。

 というか、怨霊リディアめ。イケメンの記憶だけは妙に鮮明なんだよなぁ。よその領地の次期当主様とか、騎士団のメンバーとかさ……。

 まあ、女子ってそういうものか……。私も割と好きです。


 さて、王城に着いたからといって、6歳児である私には特段することはない。

 貧乏領主とはいえ、いちおうは伯爵家。

 お付きのメイドが王城側から2人付き、こっちは自分たちで用意したメイドも2人。広い屋敷での仕事がないから、お世話係が付きっ切りみたいな状況だ。まあ、うちは弟と妹という幼児が2人もいるからメイドたちはそれなりに忙しいが。


(さて、どうしようかなぁ……)


 王家から部屋をいくつか貸していただいている関係で、それなりに自由になる空間はある。

 あるが、さすがに私は弟妹と母親と同じスペースにいることになることが多くなりそう。

 父と騎士たちは、普通に仕事だし、護衛で付いてきたガルディンさんもいっしょにいるしで、自由時間を作るのは難しいだろうか。

 いや、母親はパーティーで呼ばれてきた他の家の人たちとお茶会とかやるのかな?


 怨霊の記憶では、王城の中は治安も最高で、小さい頃のは勝手に探検とかしていたようだ。

 よし……。


 さしあたり予定がないことを確認して、私はさっさと動きやすい格好に着替えた。

 シャツにサスペンダー、短パン。髪も上げて、少年みたいなルックスになる。貴族のご息女とは思えぬワンパクさだが、実際ワンパクだから仕方が無い。ちなみに剣は持ってきていない……と嘘をついて「収納」に入れておいた。


「母上! 私は探検に行ってまいります!」

「たんけん……!? リディアちゃん、ここはお城なのよ? ここにいなさい」

「え、えええ~」


 あれぇ? 私の記憶では、許可されていたような……? いや、勝手に飛び出したとか? ありえる……。ちびっ子時代のリディアは普通のガキンチョだ。わざわざ親の許可なんて取らないかもしれない。


「あ~、じゃあ私が案内してきますよ。リディア様もずっと部屋に詰めているのは退屈でしょう。私も、暇潰しになりますしね」

「ガルディンさん!」


 さっすが話がわかるぅ! むくつけきオッサンが付いていれば100人力だ。

 私はこの城を攻略する!


「で、リディア様は何が見たいんです?」

「えっと……そうですね。やっぱり騎士団ですかね。見れるんですか?」

「あ~、騎士ですか。そうですねぇ。ま、行くだけ行ってみますか」


 頭をガシガシ掻いて、なんだか含みのある言い方だ。

 騎士舎は庭園を横切り北側にあった。怨霊も足を踏み入れたことのなりエリアだ。

 立派な石造りの建築、広々とした訓練場。うちの粗末な兵舎とは比べるべくもないが、表には誰も出ていなかった。


「休み時間なんですかね」

「そうかもなぁ」


 よく見ると従騎士らしき少年が走り回っているので、人がいないというわけではなさそう。


「王都の騎士の強さを見たかったのですが……。明日また来てみましょう」

「あー、リディア様。おそらく、明日来ても同じだと思いますよ」

「そうなんですか? 遠征に出ているとか?」

「いえ、王都の騎士はほとんど戦闘訓練なんてしないからです。彼らは『紋章』を入れるだけの魔力がある、いわば特権階級の戦士ですからね。訓練などしなくても十分強い」

「でも、ガルディンさん達は毎日訓練してますよね……?」

「本来の紋章士は紋章士が相手でも勝てるように訓練するものですから」


 訓練場は草こそ生えていないが、人の脚で踏み固められている感じは薄い。

 ようするに紋章の力に依存して平和ボケしてるということなのだろう。というか、そんなに紋章士って生まれにくいのか……。


(ていうか、だから辺境伯が反旗を翻したんじゃないの?)


 要するに、舐めてるのだ。仕事を。


「ガルディンさんなら勝てますか?」

「まあ、一対一なら負けないでしょう。ただ、あいつらは紋章が多彩ですからねぇ」

「おお……」


 それそれ!

 私のもう一つの目的は紋章集めだ。

 これは完全な偏見だが、騎士なら気楽に見せてくれそうだし、王都ならワンチャン聖癒紋を見ることも可能かもしれない。なんといっても、騎士は戦士階級。怪我だってする。となれば、ワンセットで回復役の僧侶がいたりするのではなかろうか。

 というか、王都にソレがなければ、どこにあるというのだ。


 その後は、ガルディンさんに城を案内してもらって、1日目を終えた。

 さすがに、剣の訓練やら走り込みやらをやれるような状況でもないし、これは想像以上に退屈かもしれない。


 ドッペルとクロエは元気にやってるかなぁ。

 手紙が届くのが楽しみだ。

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