025 報酬を貰いに行く
家に戻ってきたドッペルを労い、クロエから賜った剣を受け取る。
早朝の自室。この時間ならメイドが入ってくる心配はない。
「これ……完全に国宝とかそういうレベルのやつだよね……?」
「わかる? なんかドワーフ族が凄く大事にしてたものみたいなのよ。でも、これ私用に打ったやつじゃないからね。中古よ中古」
「中古……」
魔族、サバサバしすぎてるだろ。
なまじ、うちの騎士さんたちの剣を見ているから、これのヤバさは一目瞭然だ。
剣の良し悪しなんてわからない私でもわかる。というか、真紅の刀身は鏡面仕上げかってくらいスベスベだし。うちにある剣なんてよく見ると刀身けっこうデコボコなのに。
「でも、これ私には重すぎるんだよね。太陽紋がなきゃ運用は無理ぽいな」
「重い? 魔力を通してみた? 本人が扱えるように順応するって言ってたよ?」
魔力を武器に通すとか、ちょっと魔力の運用になれてなかったら無理じゃないのかしら。
まあ、私はできますけどね! 伊達に年単位で紋章に魔力を注ぐ実験をしていない。
剣を構えて魔力を少しずつ流していく。紋章に魔力を通すのと同じ感覚だ。
ただし、紋章と違いずっと流れ続けていくというわけではない。ある程度の魔力を受け止めたところで、反発が強くなった。
「おお~! 軽くなった! なんだこりゃ」
「ふぅん。それ高度な魔導回路が組まれてるわよ、それ。実際に軽くなったわけじゃなくて、軽く感じるように剣自体が動きを補佐しているのね」
「へぇ! すごいね。そんな技術あるんだ。この世界」
「魔導紋と似たようなものよ。擬似的な魔法をその剣に付与してるの」
「なんでそんなことわかるの?」
「私は特別目がいいからね」
どんな目をしてんだ! って思うが、魔族だからな。虫が紫外線を見る感じで魔力も目視するんだろう。
「あ、魔力で思い出した。クロエって、魔力を他人に譲渡する魔法使えないの? トランスファーマナフォースだっけ? あれを使えば、クロエの紋章も楽勝で私に入れられるんじゃない?」
「ハァ? 魔力供与? そんなんで定着させた魔導紋なんて半端なポンコツにしかならないじゃない」
「そうなの?」
「あたりまえ。……って、え? まさか、そんな方法がまかり通ってるの?」
「う、うん。あ、私は自力でやってるよ?」
知らなかったからだけどな!
「私が寝てる間にヒト族どうなっちゃったのよ……。そんなんじゃ新しい魔導紋も世界に認められないんじゃないの? 自力で魔導紋を立ち上げなきゃ巫にはなれないのよ?」
知らんがな……と言いたいところだが、実際、クロエが寝ている間に、魔力供与というズルが発見されたってことなんだろうなぁ。
「そもそもさ、魔力にはそれぞれの色があるの。それは全員が微妙に違うから、魔導紋の定着に他者の魔力を使っちゃったら、他者の魔力が混ざった分、力が薄まってしまうワケ。こんなの常識じゃない?」
「常識ではないです」
ふ~む? 確かに太陽紋を入れた時に、凄まじい効果だと思ったものだけど、もしかして、これって自力で入れたことで本来の紋章の力が使えているからなのか?
ガルディンさんたちが紋章を使ってガチで戦ってるところなんて見たことないから、比較できないんだよなぁ。
「そういえば、あなたが知ってる魔導紋も妙に古いというか、私の時代のものばっかだし……。もしかした魔族滅んだ?」
「ど、どうかな。私も見たことはないから……。魔族自体はいるっていう話だけど」
「ふ~む? 少なくともヒト族との関係は私のころとは違うの確定……か」
「でしょうね」
なんたって、クロエってば、金貨300枚の討伐対象だからね……。
◇◆◆◆◇
さて、剣もいいけどレッドホーンを討伐したわけでさっさと報酬を貰いに行きたい。
「じゃあ、ドッペルちゃんにはギルドに行ってもらおうかな。あ、目玉は残してね」
「それはわかってるけど、どうやって運ぶの? クロエに頼むのはちょっと苦しいんじゃない?」
「あ、そうか」
もうドッペルは太陽紋を入れてるんだった。
まだ複数の紋章を入れるのは成功していない。
「じゃあ、ドッペルちゃんには1回消えてもらうしかないか? 魔力的には一晩寝たからなんとかなるけど」
「それでもいいけど、クロエに紋章消して貰えばいいんじゃない?」
「クロエに? あ、そうか!」
クロエは紋章を消し去ることができるんだった!
めっちゃ便利じゃん! 基本的にドッペルは1日1回しか作れないし(魔力めっちゃ使うので)、紋章を一度入れたらそこから変更ができなかったわけだけど、クロエがいれば適宜付け替えができるというわけだ。
便利~~~!
「……なんか私のこと便利屋みたいに思ってない?」
「「思ってないです」」
「ハモって言われるとすごい嘘くさいわね……。まあ、いいけど、紋章を破棄するのってデメリットがないわけじゃないのよ?」
「そうなの?」
「あの時、気付かなかった? 魔導紋にヒモ付いた魔力ごと吹き飛ばす魔法だから、魔力かなり減るわよ。1割くらいスッ飛ぶんじゃないかしら」
「1割も!?」
10%もMPの最大値が下がるんじゃ、ドッペルならともかく私本体には使えないってことじゃん。
「で、どうする?」
「まあ……今のところは、メリットのほうが大きいのでやっちゃって」
「いいけどね。じゃあ、やるわよ。『ティ・リア・リート』」
クロエが魔法を唱えると、ドッペルに赤い魔法が飛び、紋章が破棄される。
「魔力には余裕ある? じゃあ、収納紋入れるよ?」
「時空紋って言ってくれない? ダサいのよ、それ」
「世間的には時空紋なんて名前じゃないし……。うっかり人前で『我が時空紋が……』とか口走っちゃったら終わるじゃん」
クロエはどうしても正式な名前で呼ばせたいみたいだけど、ねぇ?
とにかく収納紋をちゃちゃっと描き、起動させる。
クロエからレッドホーンの死骸を受け渡してもらう。
「じゃあ、行ってくるね」
「私はどうしたらいいの?」
「基本的にはクロエは私といっしょにいて」
「私の
「そういう意味ではないです」
護衛だって言ってあったやろがい。
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