017 依頼を受けてみた
(ん?)
掲示板の隅っこに分厚い紙に書かれた古い依頼があるのに気付いた。
・微睡のクロエ 金貨300枚
(なにこれ? 金貨300枚って、一生遊んで暮らせるような額なんだけど……)
「依頼主は……えっ、国王?」
署名は、現在の王ではない。セディアとある。いつの王だろうか。
場所はカリアグラ山、山頂。
レッドホーンと同じ場所だ。
「お~、坊主。その依頼が気になるのか?」
私が依頼書をマジマジ見ているのが面白かったのか、酔っ払いの大男が絡みに来た。
てか、やっぱり坊主なんだ。
髪を切っているとはいえ、女の子に見られないのは何故だ……。
「そいつは、もう何百年もカリアグラ山の山頂で眠り続けている変わりもんの魔族でな。強い結界魔法で護られていて誰も触れることすらできねぇんだが、討伐依頼だけはずっと出されたままになってんだよ。興味があるなら、見に行ってみたらどうだ?」
「魔族……なんですか?」
「ああ。だが、すげえ美人だぞ。たまに用もねえのに、見学に行くバカが出るくれぇだ」
「へぇ……」
魔族というのは「知能ある魔物」のこと。
見た目も人間に近い場合が多く、社会性もあり、魔族の領土では魔族の社会が形成されているという。
私たちの暫定的な敵とされる辺境伯は、この魔族の領土との国境を護っており、魔族との戦闘もそれなりに行われているらしい。全面戦争という感じではなく小競り合い程度という話だが、とにかく魔族は魔物の仲間。
肉体を欲し、人間に襲いかかる性分は変わらないのだとか。
「結界を壊せれば倒せるってことですか?」
「たぶんな。だが、過去に何人もの紋章士が挑んだが、誰1人として結界を破れた者はいないって話だ」
なるほど。触らぬ神にたたりなりというやつか。
ちょっと興味があるけど、近寄らないでおこう。
酔っ払いの大男から逃れるように、私は受付のお姉さんのところに向かった。
「あの、あそこの討伐依頼を受けたいんですが、私でも討伐者登録ってできますか?」
「えええ? あなたが?」
「あーはい。ちょっと父が来れないんで、代わりに登録だけしてこいって言われまして……。あ、でも私も収納紋がありますから、討伐のサポートをしますし、実質、私が半分は私が倒したって感じなると思いますんで……」
「ん~、まあ別に年齢制限はないからいいですけどね。お名前は?」
「あ~、えっと。レ……レオです。レオ」
「レオ? 変わってるけど、可愛い名前ね」
勢いで前世の名前を口走ってしまった。
私の前世の名前だが、まあ、偽名にはちょうど良いかもしれない。
「じゃあ、これが討伐者証になります。この番号で登録されているから、なくしたりしないでね」
「わかりました」
なんだか、普通に討伐者登録が出来てしまった。
討伐依頼は「紋章士」なら普通に受けられるが、そうでない場合は実力が認められなければ受けられないらしい。
格差社会である。
登録がすんなりできたのも、たぶん私が紋章士だからだろう。
魔法使いは貴重なのだ。
「じゃあ、この依頼受けます」
レッドホーンの討伐依頼票を受付嬢に渡すと、彼女は驚きを露わにした。
「えっと……、これって討伐依頼で、すっごく大きくて強くなった魔物を倒して欲しいって依頼なんだけど……レオ君、わかる? さすがに、君ひとりで決めちゃうのはどうかなぁ」
「あー、えっと。大丈夫です! お父さんに魔物の討伐依頼を受けてこいって言われてますので! どういうのでも大丈夫だって言ってましたので!」
「え~。う~ん……。でもなぁ~」
まあ、そうだよね。私って紋章士ではあるかもだけど、6歳児でしかないわけだし。
親が紋章士だって言ってみたところで、討伐依頼をギルドが下請けに出していいかどうかは、判断が難しいだろう。
だいたい、持って来た魔物の外皮だって、最弱魔物のものばっかなわけだし。
「では、成功した場合に報酬をくれるという感じでもいいです。倒して外皮を持ってきますので」
「あ~、それはできないのよ。その間に誰かが依頼を受けたらそっちに権利が行く仕組みだから」
そっかぁ。じゃあ、倒してきて外皮のお金だけ貰うかなぁ。
お金も欲しいけど、経験にはなるだろうし。
「……じゃあ、こうしましょう。2日だけ」
「2日?」
「ええ。明後日までこの依頼は私が預かります。明後日中に討伐証明をレオ君が持って来れたら、依頼達成とします」
「……それって、普通に私が依頼を受けるのとなにか違うんですか?」
「普通は10日間なのよ。でも、その間にも魔物は強くなる。だから、討伐の可能性が低い討伐者には依頼を受けさせない決まりなの。レオ君もそう。いくら紋章士といっても、君はまだ幼いし、なにより討伐者登録をしたばかりじゃない」
それでも受けさせてくれるのだから、かなりの譲歩だろう。
ここで成功させることができれば、今後の活動もしやすくなるはずだ。
なによりこれは私にとっても試金石となりえる。
「それで大丈夫です。ありがとうございます」
「え? お父さんに確認してこなくていいの?」
「えっと~、はい。しばらく仕事なくて暇だって言っていたので!」
いずれにせよ、討伐依頼はしばらく受けるつもりである。
父が暇だという路線でいくのは大事だ。
「そうなんだ。提案した私が言うのもなんだけど、無理はしないでね? 討伐者をやってくれる紋章士は希少なんだから」
「無理をするのは私の両親ですから!」
そういう設定になっている。
まあ、まさか受付のお姉さんだって、6歳児が剣を担いで魔物を倒しにいこうと考えているとは夢にも思うまい。
だとしても現代日本だったら、こうはいかなかっただろう。
結果が良ければ、すべて良しである。
ヨシ!
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