016 ギルドで討伐依頼を見る

 ということで、ドッペル・リディアです。


 外皮はクローゼットの奥底に隠してある。それを取り出して、収納紋の第1位魔法である収納ストレージに収納する。

 買い取りは多分ほとんど期待できないと思う。肝心の魔結晶は1つもないわけだし。

 とはいえ、それはそれ。少しずつでも自分のお金を増やすのが大事だ。

 収納紋はストレージにものを入れた後、なにもしなければ紋章は表に出てこない。あくまで外に出す時と、入れる時だけ術を使えばいいという形だ。実に便利だ。バックオープンの服を着ていなければ紋章士であるということもバレない。商人にはうってつけの紋章だろう。

 

 窓から這い出て森の中へ。

 いつもの岩のところで髪をザックリ切る。

 男の子みたいな服装も相まって、これで領主の娘には見えないはず。


 本体わたしドッペルわたしを生み出す時に、わざわざドッペル用の服に着替え、剣を持った状態で私を生み出す。そうすることで、服も剣も持った状態で私は生まれる。

 っていうか、この仕様。やろうと思えばすごい悪いことできてしまう。

 高価な剣を持った状態でドッペルを生み出して、その剣を売ったりとかさ……やんないけど。


 私は、森を抜けて街道に出て、討伐者ギルドへ向かった。


 討伐者ギルドは、要するに魔物の討伐を請け負っている組織である。

 魔物は「魔力によって発生」する関係で、そもそもの根絶が難しい。そのくせ、人間や動物……つまり「肉体を持つもの」に対して強い執着を持ち、節操なく襲いかかる習性がある厄介もの。


 魔物のその肉体に対する「飢え」は、基本的に満たされることがないらしく、食べられるのなら節操なく食べる。

 そうして命を喰らった魔物は、その命を自らの魔力へと変え、どんどん強くなっていくのだ。

 一定以上強くなった魔物は厄災にも等しき存在となり、人間は討伐隊を組んで倒さなければならなくなる。

 

 だから、そうなる前に魔物は逐次討伐していかなければならない。

 その業務を請け負っている組織が、討伐者ギルドである。


「しかし、歴史を感じる建物だな……」


 ラピエル領は比較的新しい街というリディアの記憶があるが、それでもこのギルドの建物は古い。

 苔むしたような大きな石を積んで外壁とし、太い木材を惜しみなく使って作られた2階建ての建築。領主の館である私の家よりも頑丈で強そうである。

 教会で習った記憶を掘り起こすと、この国は「フレイムレース国王」「アビゲイル神聖教」「討伐者ギルド」の三つが協力しあって統治を行っているらしい。どれか一つも欠かすことができないわけで、教会は当然としてギルドもかなり力を持った組織なのだという。

 魔物の討伐を完全に国主導で行うのは難しいというのは、私でもわかる。もし国がダメになった時でも魔物は変わらず出るのだ。独自に動ける組織である必要がある。


 中を覗いてみると、飲食ができるようになっており、酒場だかなんだかよくわからない作りだ。

 一見さんのお子様……私のような乙女にはかなり入りづらい空間だ。

 男達のガッハッハという野性味溢れる笑い声に、普通にビビる私である。


(まーでも、行くしかない。お金のため。お金のため)


「すみません。魔物の外皮の買い取りをお願いしたいのですけど」


 受付のお姉さん――前世の私と同い年くらい――に、用件を言う。

 こちとら6歳児である。彼女が訝しんだ顔をするのも無理はないし、酒を飲んでいた男達も興味深げにこちらを見ている。

 やめろ! 私を見るな!


「えっと……魔物の外皮……? お父さんかお母さんに頼まれたのかな?」

「そうです! 手が離せないから、ギルドで換金してこいって!」


 全力で乗っかる。


「ふぅん。まあ、問題ないけど。じゃあ、出してくれる? 見た感じ、なにも持っていないようだけど……」

「私、収納紋の紋章士なので!」


 元気にハキハキ受け答えをする。

 おつかいということなら、ギルドのお姉さんも普通に対応してくれるだろう。

 ストレージを発動し、何もないところからゴブリンとホーンラビットの外皮を取り出す。


「え? その歳でもう紋章を入れているの……? それって違法じゃ……」

「ン? 違法……? あ~、えっと、私、他の国から来たので! 両親が行商人なので!!」

「あ~、そうなの? なら、そういうこともあるのかな……?」


 あっぶねー。紋章入れるのに年齢制限あるなんて、初めて聞いたわ。

 常識すぎて誰も言わないってことなのかな。ていうか、紋章術には書いてなかったから、神殿が勝手に決めた基準なんだろうけど。

 まあいい。私は6歳児なのだし、難しい話はわからない。ゴリ押しで行くよ。


「買い取ってくれますか!」

「あ~はいはい。これならたいした金額でもないし、いいでしょ。ん? 魔結晶は?」

「外皮だけです!」

「なら、小銀貨で1枚ね」


 小銀貨1枚って。少なすぎでしょうが。

 せいぜい1000円くらいの価値というか……。食堂で一回食事したらなくなる金額だ。

 私がこないだ貰ったお小遣いでも小銀貨3枚である。

 まあ、最弱の魔物の外皮(しかも魔結晶なし)なら、こんなものなのかもだが……。


 とはいえ、買い取りは無事にできることがわかった。

 儲かるかどうかはともかく、これで稼げるということだ。


 ギルドには、魔物の討伐依頼が出ている。

 討伐は基本的に「常時依頼」だ。人間の天敵だから、即殺が基本。


 討伐依頼が出ているものは、そういった新規出現の魔物ではなく、「見つけた時には手に負えなくなっていた魔物」に対して出される。

 つまり、すでに命を喰らい強力になった魔物である。

 ただのゴブリンやホーンラビットなどの生まれたてのものは、誰でも倒せる。

 6歳児である私が棒きれで殺すことができる程度のものでしかない。

 それでも討伐報酬が出るのは、倒しておかなければいずれ脅威となるとわかっているからだ。


(依頼書はこれかな? 意外とたくさん出ているけど。ふむ)


・レッドホーン 銀貨5枚

・ロックゴーレム 銀貨6枚

・ゴブリンロード 金貨1枚 ※殲滅依頼

・フレイムドレイク 金貨2枚

・ワイバーン 金貨3枚

・ハーピークィーン 金貨3枚 ※殲滅依頼


 殲滅依頼が出ているものは、群れとなっている魔物らしい。

 出現地区についても、かなり詳しく書かれており、受付で一声かけておけばOKという簡便さだ。

 依頼に関しては、他の討伐者と被らないように受け付けをしたら、10日間、新規でその依頼が受けられない。

 あと、当然といえば当然だが、討伐報酬を受け取るには討伐者登録をする必要がある。

 この報酬は、外皮の売値とは別にギルドから支払われるお金であり、依頼そのものは土地の持ち主であったり、領主から発せられるようだ。

 実際、ここに貼ってある依頼も、ゴブリンロード以下はすべて、領主依頼となっている。


「なるほど……。受けるなら、レッドホーンかな。けっこう近くっぽいし」


 太陽紋を使って走れば、1時間くらいの山の中に出たということらしい。

 しかも、紋章士なら普通に勝てる魔物だとかで、なかなか良い。

 ゴーレムは硬そうだし、ゴブリンロードは群れという話だからパス。

 ちなみに、銀貨はだいたい10枚で金貨1枚に相当する。国がそうなるように流通量をうまく調整しているらしいが、プラマイ3枚くらいの範囲は普通に為替変動するとか。

 まあ、金貨なんてめったに使われないらしいから、あまり関係ないけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る