第10話 京都全力ひとり旅2日目―広隆寺


 北野白梅町から嵐電に乗り、帷子ノ辻駅で四条大宮行きに乗り換え一駅。太秦広隆寺駅で降車ボタンを押して降りると、目の前にあるのが広隆寺。京都に来たら必ず訪れる私の聖地。何年ぶりだろうか……。


 道路に面した大きな山門をくぐり抜け、広い境内を進むと本堂が見えてくる。お参りをしてから本堂の左奥へ進むと、拝観料と御朱印の小さな小屋があって、おばちゃんがひとり、座っている。


 拝観料を支払い、御朱印をお願いすると、おばちゃんが拝観料の窓口から御朱印の窓口に移動して書いてくれる。ちなみにこちらの御朱印はスタンプ式で日付を手書きで入れてくれるのだが、団体でも来ない限りはおばちゃんひとりで2つの窓口業務をこなせるようだ。


 なぜなら広隆寺はいつ来ても空いている。ガイドブックしか見ない観光客は、おそらく存在すら知らないか、または知っていてもスルーするのではないかと私は考えている。なぜなら、旅行客が一番手にするであろうあのガイドブックとあのガイドブックにはほぼ載っていないから。


 いやむしろ、お寺の方針で載せないでくれと言っているのではないかな、とも思っている。私にとってもここは確かに静かな空間を保ってほしい場所であって、観光客がわんさか押し寄せるような場所にはなってほしくない。静かな環境こそ、このお寺の良いところなのだ。


 こちらの霊宝殿には国宝第一号の弥勒菩薩半跏思惟像みろくぼさつはんかしゅいぞうがあって、私は毎回京都に来ると、必ずこの弥勒さまに会いに行く。

 

 初めてその存在を知ったのは中学生の時だった。歴史の資料集に写真が載っていたのだが、とても美しい造形と表情に、いつかこの像をこの目で観たいと強く思った。けれど修学旅行だと班行動だし好きなところは行けない。大人になってから自分の意思で行ったのが最初だった。それからは必ず京都に来る度にこちらを訪れる。


 霊宝殿はホール型になっていて、入り口を入ると左回りで壁際にずらっと仏像さまがたくさん展示されている。十二神将だったり、聖徳太子像だったり、巨大な千手観音像。照明は落とし気味で、人によっては見えにくいかもしれない。


 そんな霊宝殿の中心に、一際目を引く仏像さまがいる。これこそが弥勒菩薩さまである。右手を頬にあて、俯きがちに思案する姿は、息をのむほどに美しい。


 こちらの霊宝殿には椅子が設置されているので、ゆっくり座って観賞することもできるし、なんなら弥勒さまの前には10人くらいは並んで座れる小上がり型の畳敷きもある。時間があるのならぜひ座って観賞していただきたい。椅子に座って真正面から。小上がりの端に座ってそれぞれ左右から。


 大丈夫。ここを訪れる人の半数はガチ勢です。ほとんどみんなやるから大丈夫! 私なんか30分もいましたから!


 私のオススメは向かって右側から観ることで、こちらからだと弥勒菩薩さまの手が顔の向こう側になるので特に美しく見える。しかも目の前にももう少し小さめの菩薩さまがあって、そちらはなんとなく悲しげな表情をしていることから「泣き弥勒」、などとも呼ばれている。両方ともよく観賞できるベストな位置が、右側だというわけだ。


 本当に30分ほど霊宝殿でぼーっとしたあと、次を目指して外に出ると、青紅葉と、苔に覆われた地面が大変きれいだったので、しばらく外でもぼーっとし、カメラを向けた。霊宝殿を出たところの奥に昔ながらのトイレがあるのだが、そこの前から見る景色が結構きれいかもしれない。ただし、誰もトイレにいない時に限る。丸見えだからね!


 境内をのんびり歩いて山門を出る。はあ、今回も大変良かった。


 さて次は……、ついにバスに乗る。バスに乗って嵐山の二尊院へ。


 広隆寺から右へ曲がって少し歩くとバス停がある。そこからバスに乗るのだが……調べてきたにもかかわらず、少し巻いてしまったみたいだ。嵐電で嵐山駅まで行っても良いのだが、そこからバスに乗っても時間は変わらなそうなので待つことにした。


 20分ほどの待ち時間。そこで持っていたパインのドライフルーツを何本か齧る。これが本日のお昼ごはんとなった。


 

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