第9話 京都全力ひとり旅2日目―北野天満宮


 千本釈迦堂から歩いて5分ほど。途中矢の形の看板? が載ったお宅を見上げながらてくてく歩いていくと北野天満宮の外壁が見えてくる。


 側面から入っていく形にはなるが、北野天満宮は敷地が広いので正面まで行って入り直すと結構なタイムロスになる。それに梅や桜の時期などに何度か訪れたことがあるので、今回はそのまま境内へ。境内図を見ると、東門から入ったようだ。


 さすが菅原道真公をお祀りする天満宮だけあって修学旅行生がうじゃうじゃいる! タクシーで回る学校が多いのか、運転手さんが生徒さんたちに丁寧に説明しながら歩いている。良いなぁガイドさんいるのって。


 ほぼ本殿の裏側から正面に回り込む形になったが、三光門にたどり着くと白い作務衣の神職さんたちが脚立を持ってなにやら門を見上げていた。本殿前の国宝三光門は当然ながら参拝客の通行が多く、なにかを相談しながら門を見上げている。


 なんだろうと思ってしばらくその様子を眺めていると、神職さんたちは出入りの途切れたところで門のど真ん中に脚立を広げると、なんと門の上部の、しめ縄に下げられたさかきを交換し始めた。


 こんなレアな光景に立ち会えるなんてラッキー!  なのに参拝客さまがた、みんな素通り。珍しいよ! 見ていきなよ! と叫びそうになるのをうずうず我慢しながら見守る。


 ちょっと視線を動かした拍子に三光門の両側にいる狛犬が目に入った。向かって右側は目立っていたが、向かって左側は植え込みの木に少し紛れていて意外と目立たない。でもそこであれ? と思ったのだ。


 角、生えてる。ユニコーンみたいな一角獣。もう片方は普通の狛犬なのに、向かって左側は角があったのだ。なんでか不思議であとで調べたら、もともと狛犬は古代オリエントから伝わってきていて、ライオンが由来なのだそう。それがヒッタイト(今のトルコ)を経てインドでサイと融合し、それが一角の狛犬として伝わったのだそうだ。その前に、狛犬って片方は獅子なんですね……。知らなかった……。もしくは聞いても忘れてた。


 狛犬の観察をしていると、榊の交換が終わったのでさっそく一角の狛犬さんに駆け寄る。狛犬にも誰も興味を示さないのだが、まあ、普段神社行っても狛犬さんはまじまじ見ないもんなー、と納得。私もたまたま目に入って気付いただけだし。いや、しかし一角の狛犬さんは初めて見たので当然カメラでバッシャバッシャ撮らせていただきました!


 本殿でお参りをし、御朱印を……。むむむっ!


 特別御朱印に刀剣バージョンが出ているではないか!


 そうなのだ、このために来たのだ。桜の季節が終わると、特別拝観の始まるところが増えるので、新緑も目当てのひとつだけど、特別拝観も外せない。

この北野天満宮では所蔵の刀剣の特別拝観をやっていて、源氏の宝刀鬼切丸を観に来たのである!


 あ、わたくし刀剣乱舞は知りません。ただ単に、いにしえの工芸品並びに人様を斬ってきた武器として観たかったんです。ここだけ読むと完全ヤバイやつ。


 そんなわけで通常の御朱印と、鬼切丸の特別御朱印もいただくことに……ってデカイ! クリアファイルごとくれたのは良いけどデカイ! クリアファイルと同じサイズつまりA4。クリアファイルに入れてくれているとはいえ、私のリュックには旅の荷物一式に水筒、カメラ、そしてなにより頼まれもののカールとポテチでパンパンである。折れないように持って帰れるだろうか不安になる。パンパンだから逆に平気、かな?


 せっせとリュックに御朱印を詰めて、特別拝観の刀を目指して宝物殿へ。ここもみなさまスルーする人ばかり。中高生の女子なんか特に刀剣乱舞好きなんじゃないの? あなたの推しがいるかもしれないよー観なくて良いのー?


 入館料を払って中に入ると、もう目の前にどどーんと鬼切丸が展示されている。奥にもいくつもの刀剣が展示されているが、鬼切丸のところに係員さんが二人付いていて、撮影について説明があった。レンズの付いたカメラはダメだけど、スマホはOKとのこと。……なんで? フラッシュ? はスマホもカメラも同じだし。謎。だがありがたくスマホで撮影させてもらいました。


 私が入った時は誰もいないので独り占め。スマホで2枚ほど撮影させてもらい、あとは肉眼で観賞。平安時代に作られたというのに、この時代にあっても目映いばかりに光を反射する刀身、切れ味凄まじそう。刃こぼれもなく、波紋も美しい。これはさぞかし斬られたら痛いだろうな……。


 などと思いながら他の刀剣も一通り観賞していると、少しずつお客さんが増えてきた。なぜか分からないが、私結構お客さん呼ぶタイプらしくて、お店でも私が入ると人がたくさん入ってくることが多々ある。なお、売る側に回ると発揮されないため普段は役立たずである。


 そろそろ11時。次行くかなーと宝物館を出ようとしたら、おじさんおばさんの団体さんが入ってきた。急にガヤガヤうるさくなる宝物館。もう少し静かにしてくれないか……と思いつつ団体の横をすり抜けようとしたら、神社の方による鬼切丸の解説が始まったのでちゃっかり聞いた。おこぼれおこぼれ。


 参道から外に出て、1kmちょっと先の嵐電北野白梅町駅を目指す。腹が減ってきた。いや気のせいだ。今日はお昼ご飯の時間などないのだ私よ。



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