第8話 京都全力ひとり旅2日目―千本釈迦堂2


 本堂を一通り観終えたら、次は霊宝殿へ。体育館のような建物の壁際に沿って仏像さまがたくさん置かれている。結構広いのだが、ここの仏像さまは大きいのが多い。むしろ狭く感じるくらいかもしれない。


 一組だけご夫婦がいたので、逆回りでひとつひとつをじっくり観ていく。


 ここの仏像さまは少し距離があるのと、ガラスの衝立越しに観るようになるので、私くらいの身長(160cmない)だとちょうどお顔のところに衝立が被る。薄暗いといっても照明の光が反射するので、ここでも伸びたり屈んだりしながら観ていく。


 ガラス取っ払ってくれたら最高なんだけどなぁ……。イタズラとか、触ろうとしたやつがいたとか、まぁなんかあったんだろうなぁ……。


 などと考えながらも仏像仏像♪


 おじいちゃんに教えてもらった十大弟子立像で肌の色の違う仏像さま……あった! 舎利佛しゃりほつさま。


 それからお釈迦様の息子さん……あった! 羅ゴ羅らごらさま。(らごらのごは目へんに侯)


 そしてもうひとつ、優婆離うぱりさま。


 優婆離うぱりさまもおじいちゃんから教えてもらったのだが、この仏さま、お釈迦様の美容師さんだそうです。お釈迦様の髪を整えていたお弟子さん。


 境内に理容師の協会から、十大弟子立像の優婆離うぱりさまが理容遺産に認定された石碑があります。これも教えてもらってなかったらスルーしてた。石碑に気付いて読んだところで「なんで?」となるだけだもの。


 おじいちゃんに出会えて本当にラッキーだった。まさに一期一会。


 それにしてもこの十大弟子立像、どれもこれも本堂と同じで色や模様がとてもきれいに残っている。それもちょこっと、ではなく、結構残っている。なんなら周りをぐるぐる回ってじっくり見たいくらい、色彩豊か。かといって修復されている感じでもなかったので、当時の色なのだと思う。


 もともと安置されていた場所が良かったのか、保存状況が良かったのか。とても大切にされてきたのだろうな、と言うのが第一の感想だった。


 文化財の保護って難しい。私は大学生の時に博物館にちょこっと研修行っただけだけど、がさつな私には無理だと思ったくらい本当に神経磨り減らすような作業ばかりなんですよね。


 照明や日差しがありすぎると色褪せや退色に繋がるし、気温や湿度が狂うと虫がわいたりカビが生えてしまう。文化財はひとつひとつ置かれていた環境が違うわけだから、そのコントロールも難しいと思う。


 美しい状態で展示してもらえるのって、本当にありがたいことなのだ。だからお寺や神社、博物館などの展示に薄暗くて良く見えないとか言わないでおくれ……。


 十大弟子立像を一通り堪能したあとは、六観音像を観ていく。お顔がとても美しい。こちらは十大弟子立像よりも大型で、お顔を観るにはこちらが顔を上げなければならないのだが、観音様と目が合うと、その瞳が潤んで見える。水晶などが嵌め込まれているのだろうが、ひとつ、涙を溢しているのだろうかと錯覚する観音様があった。


 今にもこぼれ落ちてしまいそうな、観音様の涙。悲しいのか、それとも嬉しいのか。


 その涙を受け止めることはできないが、それを観てまた涙ぐむ私。涙腺壊れました。絶対にまた会いに来ます。そう思わずにはいられない。


 霊宝殿を出ると、いよいよ雲行きが怪しくなってきた。まだここから歩かないといけないのだが、さてどうしよう……。


 でもどうせ今日帰るんだし、傘も持ってるしと開き直り、先ほど拝観料を払った受付で御朱印をいただくことにした。


 あれ、受付のおじさんがいない。何回か呼んでみると、のんびりのんびりおじさんが出てくる。御朱印をお願いして書いていただいてたら、さっきのおじいちゃんが別のお客さんを案内してきた。


 おじいちゃんが受付のおじさんに「この人(連れてきたお客さん)とこの人(私)に菩提樹の種あげて」と言うと、受付のおじさんが良く乾燥させた葉っぱの付いた菩提樹の種を分けてくれた。菩提樹の木の下でお釈迦様が悟りを開いたことから、お寺には菩提樹が植わってることが多いのだそう。


 その種をいただいてしまった! 


 嬉しかった。なんだかもう、人との出会いが嬉しい。これだけで、ひとりで旅に出て良かったと思えるくらいに。


 菩提樹の種を潰さないようにして御朱印を待っていると、ふいに受付のおじさんが御朱印を書きながら「次はどこへ行くの?」と聞いてきた。私が北野天満宮から広隆寺、嵐山の清涼寺まで行く予定だと伝えると、広隆寺好きなのかと驚かれた。


 広隆寺は京都に来たら必ず寄って弥勒菩薩さまを観ると言う話をすると、なんとおじさんも弥勒菩薩さまに魅せられ、京都に移住した一人なのだと言うではないか!


 まあーここから盛り上がる盛り上がる。多分30分ほどおじさんと広隆寺と弥勒菩薩さまについてのお話をしていた。立ち去るのが惜しいくらいに。


 雨が降りそうなどというのは頭のどこかに追いやられてしまった。その間にも、空の色は変化していたのだろう。


 次の入館者さんが拝観料を払うタイミングでおじさんとおじいちゃんとお別れして、次は北野天満宮へと足を向けた。黒かった雲が、少し白くなっていた。




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