第7話 京都全力ひとり旅2日目―千本釈迦堂1
仏像仏像♪ と意気揚々と門をくぐると、一人のおじいちゃんが送風機を使って境内のお掃除をしていた。
ダクトを繋いでゴーゴーやっていたので邪魔にならないよう挨拶だけして通り過ぎ、すぐ右手にあった愛染明王のお堂を覗き込み、それからいそいそと本堂へ向かう。
すると背後からおじいちゃんに呼び止められた。
「ちょっと、ちょっと、ちょっと来なさい」
はじめ、自分に呼び掛けていると思わずに、立ち止まってキョロキョロしてしまったが、振り返るとおじいちゃんが手招きしていたので小走りで近寄る。
「付いておいで」
と言われて後ろをちょこちょこ付いていくと、先ほど覗いた愛染明王堂の前。細かく位置を指定され、そこから覗いてごらんと言われて覗き込む。うん、さっきの愛染明王さまが見える。
なんとおじいちゃん、お堂や境内の像、本堂や霊宝館の宝物に関して一通り説明してくれたのだ!
愛染明王さまの堂は今さっき見たのだが、説明してもらうとひとりで覗いた時には目に入ってないものが見えてくる。ついつい愛染明王さまばかり見てしまうのだが、他にも様々なものが置かれていたりするのである。
それがお向かいのお堂。
実はこちらもチラ見した。本当にチラ見。あー、なんかあるなーくらいにしか思わなかった。そこには"おかめさんのなんか"があったのだ。
お正月の熊手から熊手の爪部分を無くしたようなかたちのなんか。扇子を丸く配置して、真ん中におかめさんのお顔を貼り付けた"なんか"。
ひとりでチラ見したときは、おかめさんの飾りかな? くらいにしか思わなかったそれは、関西の住宅にはわりとポピュラーな物なのだそう。新築の屋根裏にはそのおかめさんの付いた飾り(御幣というらしい)を置いて、その家の繁栄を願う慣わしが今も続いているのだとか。
関西の皆様、お宅におかめさんいらっしゃいますか?
また、こちらの境内には弓道場が併設されており、事前に申請を出すと師範付きで弓のご指導をいただけるらしい! 昨日の三十三間堂と同じく、県外の人間でも可能だそうだ。
そして国宝の本堂をおじいちゃんと外から見る。本堂の向かって右手側にはたくさんのおかめコレクションが収蔵されていて、霊宝館の拝観料を払えば誰でも気軽に見られるとのこと。
しかしおじいちゃんは、そのおかめコレクションのところの引戸を開けて、縁側に出ることを提案してくれた。縁側の奥まで行くと、そこにもまた、石造りの羅漢さまがいらっしゃるのだった。羅漢さま……だったよな(ちょっと記憶が曖昧)。
教えてもらわなければおそらくは気付かなかった。だって、引戸を開けて、外に出て良いのか思わず聞き返したくらいなんだから!
文化財、しかもここは本堂全体が国宝。勝手に手を掛けて良いという発想がすでに私の中にはなかったのである。教えてもらったからには是非とも拝見せねば!
霊宝館には入る? と聞かれたので、もちろんそれが目当てなんだ! と力強く頷いたものだから、霊宝館に入る前に、展示物に関する説明もすごく丁寧にしてくれた。
こちらの千本釈迦堂はガイドブックなどでも小さく載ってるくらいで境内に人はいなかった。けれど、本堂も仏像さまも結構すごいんだぞ!
こちらには六観音菩薩像の他に、十大弟子立像というのが収蔵されている。拝観料を払いながらその説明を聞くと、十大弟子立像とはお釈迦様の十人の弟子を模した十体の像で、ひとつだけ肌の色が違うのだという。少し青みがかっているその肌の仏像さまは、ひとりだけ出身地が違うのだそうだ。
また、その十人の弟子の中にはお釈迦様の実子もひとりいて、彼はお釈迦様が出家される前に生まれた子なのだという。
お釈迦様、子持ちか……。まあ、元は王子だもんな……、そりゃ一人くらいいるか。
おじいちゃんにお礼を言ってから、本堂の中へと向かう。鎌倉時代に建てられたこの本堂は、度重なる戦禍や大火をくぐり抜け、京都市内では唯一創建当時のまま残っているお堂である。派手さはないけれど、どっしりとした立派な本堂の中に入ると、まず驚いた。
柱や天井に、色や模様が残っている! これまでも京都だの奈良だのあっちだこっちだと色々寺社仏閣訪れたが、ここまできれいに残っているところは珍しい。
大抵は永い年月を経て退色してしまい、模様や赤い色などは特に失われてしまうが、ここのお堂は本当にきれいに残っている箇所がたくさんあった。どこもそうだが、創建当時はさぞかしきらびやかな内装だったのだろう。昔の色は原色ばかりだしね。
そして本堂の中を横切っておかめコレクションのエリアへ。
真正面にはどかーんとでっかいおかめさんの像。脇にはおかめの人形がこれでもかっ! と並べられている。ちょっと怖い。お人形が苦手な方はスルー推奨。
おじいちゃんに教えてもらった通り、そこにある引戸を開けて縁側に出る。引戸はもともと風が通るように少し開けてあった。古い建物ゆえに慎重に開けないと、戸を外してしまいそうで怖かったが無事縁側に出ることができた。
奥に進むと、石造りの羅漢さまが良く見える。本堂の影になるような場所に設置されているため、教えてもらわなければ目に留まることはないだろう。とはいえ、すぐそばまで行けるわけではないので、その場で背伸びしたり、しゃがんだりして観察する。傍目にみれば不審者みたいだが、誰もいないのでセーフ。
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長くなるので続く。
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