第15話 クラスの美少女と連絡先を交換した
「急だったのにありがとう」
「まあ、二人で話すくらいなら断る理由もないし」
二人きりで話したい。
二人きりと言っても俺の部屋に招くのは色々と問題がある気がしたので、リビングに来た。
「それにしても、今日は色々あったね。まさか同じクラスの黒川君がニノンさんの「弟くん」だとは思わなかった。実際の声と配信上のマイクに乗った声だとちょっと違う印象だし」
「それ以前に、あまり絡みがないから気づかなかったんじゃない? 同じクラスだけど、声を聞く機会自体が少なかっただろうし」
「え……? あー」
なんだその微妙な反応は。
「……私は一応、黒川君のことを気にかけていたけど」
「それは意外だな。なんでまた俺なんかを」
「だって、
「カッコいい……?」
「……って、クラスの子が噂してたから、私もなんとなく気にしてた」
「ああ、さっきもそんな話してたな」
てっきり姉さんの前でリップサービスをしていただけかと思っていたけど、本当の話なのか?
「とにかく、驚いたねって話」
「驚いたのは俺も同じだな。あまり絡みがなかったクラスメイトの新たな一面を知った気分だ」
まさかクラスにニノンと交流のあるVTuberがいるとは思わなかった。
「黒川君的には、私は絡みのないクラスメイト……って認識なんだ。じゃあ入学式のことは覚えてない?」
「入学式……」
そんな高校に入ったばかりの頃に、王城さんと話したことなんてあったっけ。
「……正直、覚えてない」
「そっか。あの時は今の髪色にする前だったから、私って分からなかったのかな? 黒川君は覚えてない? 入学式の日にVTuberグッズの落とし物をした新入生のこと」
「あー、もしかしてあの時の黒髪の女の子?」
「そうそう!」
俺が思い出すのを見て、王城さんは嬉しそうにうなずいた。
あれは入学式の日。
式が終わった後のことだ。
まだ新しい友達を作れずにいた上に、唯一の顔見知りである幼馴染の
そんな中、新入生同士で仲良くなったばかりと思われる女子グループ五人組を見かけた。
いかにも陽キャ女子の集まりという感じの彼女たちの話が聞こえてきたので耳を傾けてみたら、聞こえてきたのはオタクを小馬鹿にするような話題だった。
オタクが批判的な目で見られたりする場合があるとは理解していたけど、他にも話題に事欠かない入学式の日にそんな話をしていたことに驚いたのを覚えている。
彼女たちはどうやら他の新入生たちを品定めしていたようで、一人でいた俺も馬鹿にされる対象だった。
そのこと自体は相手にする必要がないと思っていたけど、女子グループの中の一人が印象に残った。
他の女子たちが、周りの冴えない新入生たちを嬉々として揶揄する中、一人だけ浮かない表情をしていたからだ。
本当は他人を平気で小馬鹿にする他の友人たちに賛同できないけど、真っ向からそう言えずにやむを得ず合わせている。
俺の目には、その女子はとても居心地が悪そうにしているように見えていた。
ひとしきり会話を終えた女子グループが去っていく際、俺は彼女たちの一人が落とし物をしたことに気づいた。
だが気づいたのは、俺だけじゃない。
落とし主である女子……当時は誰か認識していなかったけど、王城さんも同様だった。
しかし王城さんは落とし物に対して見て見ぬふりをした。
それが、VTuberのグッズ……美少女アバターが描かれたアクリルキーホルダーだったからだ。
そんな代物を、さっきまでオタクや冴えない新入生を馬鹿にしていた連中がいる前で拾ったら、入学初日から友達を失うとでも思ったのだろう。
王城さんは結局、自分の落とし物を拾わずにその場を去っていった。
「あのキーホルダー……私にとっては大事なものだったから、拾い届けてくれて助かった」
王城さんは当時のことに言及する。
あの時の俺は、後から王城さんが一人になった時に話しかけて、落とし物を渡したのだ。
「当時の王城さん、割と露骨に名残惜しそうにしてたからな。さすがに無視はできなかったよ」
「黒川君は、そのことにすぐ気づいてくれたよね。それに、黒川君のことを馬鹿にしていた子たちを止めずにいた私にも、構わず親切にしてくれたし」
「それは、王城さんは他の連中とは考えが違うみたいだったし」
「やっぱり、私が気まずい思いをしていたのも察してたんだ」
「やっぱりって……?」
「落としたキーホルダーを渡してくれた時、黒川君が言ってくれた言葉、覚えてる?」
「……なんだっけ」
当時の出来事は割と覚えていたけど、何を言ったかまでは覚えていないな。
「『余計なお世話かもしれないけど別に何を好きになろうが人の勝手なんだから、もっと堂々としていいと思う』って。あの言葉、オタク趣味に後ろめたさを感じてた私にとっては衝撃的だったと同時に、自分を肯定してもらえたみたいですごく嬉しかった」
「確かに、そんなことを言ったかもな……?」
記憶が曖昧なのは、深く考えずに思ったままを口にしたからだろう。
なんにせよ、俺なんかの言葉が王城さんにいい影響を与えたならよかった。
「とにかく、私はあの一言があったから堂々と趣味に打ち込めるようになったし、それが高じて自分でVTuberの佐々城ララとしてデビューするに至ったってこと」
王城さんの言い方だとまるで、人気VTuber佐々城ララが誕生したのは、俺がきっかけであるかのように聞こえてくる。
さすがにそれは大げさな気がするけど、少しでもいい方向に働いたなら何よりだ。
「でも……王城さんがオタク系の趣味に打ち込んでいるってイメージはなかったな」
傍から見た王城さんの印象は、ファッションに詳しそうな陽キャJKという感じで、VTuberなどのインターネット文化には疎い印象だった。
「まあ、学校だとVTuberの話を一言も表に出さないようにしてるのは相変わらずだから」
「それは……友達に馬鹿にされるから?」
「入学式の時の人たちのことを言ってるなら、一年生の一学期で疎遠になったよ。今はもっと良い子たちと友達だから、趣味を打ち明けても馬鹿にされたりはしないだろうけど……身バレのリスクはなるべく避けたいでしょ?」
「確かに……日頃から「VTuberのことなんて知りませんよ」って顔をしていれば、まさかその人がVTuberの中の人だとは思わないよな」
実際、ニノンと佐々城ララが絡んでいる場面を何度も見ていた俺でも気づかなかったし。
「だからって、入学式の時に話した相手が私だったことにも気づいてなかったのは少し悲しいなあ……」
「それは……ごめん」
「ふふ、冗談だって。むしろお礼を言うべきだったのに、言い出せずにいたのは私の方だったし」
謝る俺に対し、王城さんは小さく笑った。
「確かに入学式以来、あまり話すことはなかったよね」
「だって……それは、勇気がなかったって言うか……」
王城さんは、何故か言いにくそうにしていた。
「勇気……?」
俺が不思議に思っていると、王城さんは意を決したように真っすぐ俺を見てきた。
「あ、あの! 黒川君、お願いがあるんだけど」
「どうしたの?」
「よかったら、私と連絡先を交換してくれないかな」
「もちろん良いけど……」
クラスの美少女が連絡先の交換を持ちかけてきた。
あまり関わりがないと思っていたら、実はこんな思い出がありました……なんて話の後に。
もしかしてこれは、何かのフラグか……?
「あ、変な意味はなくて! 黒川君とはクラスメイトだし、ニノンさんの弟くんだし! これから関わることも増えるでしょ、多分」
フラグは一瞬でへし折られた。
まあ、王城さんは人気VTuberの佐々城ララだからな。
高校生だからって、恋愛している場合じゃないだろう。
……いや別に、期待していたわけじゃないけどな。
俺にはニノンという推しがいるのだから。
他の相手に目移りしている場合じゃない。
ともあれ俺は、王城さんとラインを交換した。
「黒川君の連絡先を手に入れる日が来るなんて……」
ラインを交換した王城さんは、何やらじっと自分のスマホを眺めていた。
一方、俺も自分のスマホを見ていて気づく。
本来三人いるべきお泊りコラボ配信が、先ほどから二人で繰り広げられていることに。
歌枠なのでニノンやネリネさんが交互に歌っていれば場は持つだろうけど、そろそろ佐々城ララを待ちかねたコメントがチラホラ見える。
……少し長話をしすぎたかもな。
「そろそろ配信に戻った方がいいんじゃない? コメントでも佐々城ララを呼んでるよ」
「え……あ、そっか。今配信中だ! じゃあ、私戻るね!」
我に返った王城さんは、慌てた様子で立ち上がった。
「配信頑張って」
「うん。黒川君、明日から学校でもよろしく!」
王城さんは今も配信中の姉さんの部屋へと戻っていった。
「明日からよろしく、か」
社交辞令……だよな?
◇◇◇◇◇
せっかく好きな男の子の家に来たので二人の思い出を振り返りつつ、連絡先の交換を目論むクラスの美少女でした。
次回は
・弟くんとララちゃんが二人で何を話していたのか気がかりなお姉ちゃん
・クラスの美少女・王城さんとの関係の変化
・幼馴染の瑠衣花が再登場
という感じでお泊り会を経た女の子たちの変化が描かれ始めますのでお楽しみに!
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