第6話 弟は姉に自分を意識させたい。

 初コラボから、約1ヶ月後。

 あの配信が、ニノンのリスナーたちの間で意外にも人気を博した。

 曰く、ニノンおれの掛け合いのテンポ感と聞き心地の良さが絶妙で面白いらしい。

 『また弟くんとのコラボ見たい』とニノンの配信のコメント欄に書かれるようになり、それに応える形で俺は時折配信に登場するゲスト的存在になった。

 結果、今やニノンの配信で「弟くん」の存在はリスナーの多くに認知されている。


 一方、配信以外の生活はというと。

 両親は新婚であるにもかかわらず、仕事で朝が早く、夜帰ってくるのは遅い。

 なので夕飯はほぼ毎日、俺が姉さんの分も含めて作っていた。

 それは今日も例外じゃない。

 だけど、少し変わったこともある。


「最近は姉さんも家事を手伝ってくれるよね。正直、すごく助かる」


 とある平日の夕食後。

 俺は姉さんとリビングで別々のソファに座って雑談している。

 この家での生活にも慣れてきたのか、最近は家族が外出している間に、姉さんが家事の一部を担当してくれるようになった。


「まあ、私がやってるというよりは、機械のおかげだけどねー」


 2週間ほど前、長年我が家で使用してきた洗濯機がついに壊れてしまった際に、最新鋭の機能が備わった新品に姉さん自ら買い替えてくれた。

 それがきっかけで、姉さんは率先して洗濯をやってくれている。

 他にも、以前は俺が手でやっていた食後の皿洗いも、姉さんが食洗機を買ってくれたので手間が省けている。

 さすが人気VTuber、最新の家電がホイホイ買えるくらいには稼いでいるらしい。

 

「いずれにせよ、俺としては仕事が減るからありがたいよ」

「へへー、私も弟くんに褒められて嬉しいよー。最近はお掃除ロボットくんの活躍もめざましいし」

 

 最近、我が家のリビングにはお掃除ロボットのル○バが放流されている。


「家事が苦手なら機会に任せてしまおう……っていうのは理に適った考え方ではあるよね」

「うん。私の部屋は散らかってるせいで、お掃除ロボットくんが使えないのは難点だけど」

「そういうことなら、姉さんの部屋は暇な時に俺が片付けるよ」


 多分、本人が直接やるのは無理だろう。

 姉さんは生活力が壊滅的にないからな。

 前に一度「自分の部屋くらい自分で掃除する」と姉さんが張り切っていたことがあったけど、数十分後には部屋が綺麗になるどころか、逆に散乱する荷物が増えるという不思議な現象を起こしていた。


「ありがとー、弟くんってきっと女の子にモテるよね。家事が完璧で、料理は美味しくて優しいし……あとゲームも女の子をキャリーできるくらい上手だし」

「モテるって……全然そんなことないけど」


 むしろ、高校ではクラスの中でも地味な方だ。


「彼女とかいるんじゃないの?」

「いないよ。というか、ゲームばかりしてるから彼女なんてできるわけがない」

「えー、もったいないなー」


 姉さんは軽い調子でそんなことを言いながら、ぐぐっと大きく伸びをする。


(なんていうか……姉さんの言葉は、俺のことを異性として全く意識していないからこそって感じがひしひしと伝わってくるんだよな)


 言葉だけじゃない。

 やけに近い距離感や遠慮のないスキンシップ、無防備な服装もそうだ。

 最近は多少耐性がついてきたけど、俺ばかり姉さんの振る舞いに翻弄されるのもなんだか悔しい気がする。


(……ちょっと仕返しというか、たまにはからかってみるか)


 俺はそんな出来心から腰を上げ、おもむろに姉さんの前に立つ。


「……? どうしたの弟くん」


 不思議そうに首を傾げる姉さん。

 そんな姉さんに対し、俺は不意打ち気味に壁ドンをするような要領で、ソファの背もたれに手を突いてみた。

 姉さんの顔の近くに俺の手を添えて、逃げ場を奪うような位置取りだ。

 ついでに、思い切って顔を少し近づけてみてから、様子を窺ってみる。


「俺がモテるって思うなら、姉さんにこんなことしてみたら何か感じたりするの?」

「あ、えっと……あのあの」


 姉さんの顔が、真っ赤になっていた。


(あれ……?)


 冗談半分でやってみたのに、意外といい反応だった。


「お、弟くん……私、あんまり男の子に免疫がないから、こういうことされると困るっていうか……照れる」


 想像していたよりも、姉さんは初心だった。


(こういうギャップがずるいんだよな……!)


 そんなことを考えながら、俺は自分の体温が急上昇するのを感じる。

 ちょっとからかってみようと思ったら、姉さんの表情の破壊力が強すぎて自爆した。

 要するに、俺も一緒に照れて硬直していた。

 お互いにガチガチに固まった状態で向き合ったまま、しばらくして。


「あの、弟くん。そろそろ退いてくれると……嬉しいな?」

「……ごめん」 


 俺は姉さんから離れた。

 

「……」

「……」


 俺と姉さんは、黙り込んだ状態で向き合う。


「お、お風呂入ってくるねっ!」


 この状況に気まずさを感じたらしい。

 姉さんは慌てた様子で立ち上がると、逃げるように浴室へと駆け込んでいった。


 一人残された俺は、思う。


「これは一応、俺の勝ちってことでいいのか……?」


 恐らく、少しは姉さんに俺を意識させることができたと思う。

 俺自身も予想外に動揺させられてしまったけど、一応目的達成だ。


(それにしても、普段お姉ちゃんぶっていて余裕そうなあの人が取り乱しているのは……正直かわいかったな)


 そこまで考えてから、俺は思う。

 姉さんに自分の存在を意識させて、俺はどうしたいんだ。




◇◇◇◇◇




次回は高校でのお話。

弟くんのチームメイトでもあり幼馴染でもある新たなヒロインが登場します!

そして今回の最後に出てきた疑問への答えもチラッと出てきたり?

ぜひ作品をフォローしてお待ちください!

ついでに☆もいただけると作者がとても喜びます。

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