高校時代は楽しかったな 弓道部②


 当時の弓道部の新入部員の練習内容。


 まずは弓道の基本である「射法八節」を完全に覚える。

 覚えてからは何も持たないでその動作を反復練習する。


 同時に弓道体操なんていうのも参考程度に教わったけれどそちらは覚えていない。

 なんだかお遊戯のようなものだった。


 その後「ゴム弓」を使って射法八節を繰り返す。「手の内」の感触と弓を引く感覚もちょっとだけ味わえるのだが、もちろん実物の弓とは全く違う。


 本物の弓を持たせて貰えるのは、それらがちゃんとできるようになってからだ。


「ゴム弓」は三十センチほどの握り部分だけの道具。弓弦の代わりにゴム紐がだらーんと伸びていてる。

 ゴム弓で射法八節の動作を面倒臭がらないでみっちりやるのが上達の早道だと言われていた。普通は三か月くらいやるらしい。


 しかし、この年のわが弓道部では、五月連休の頃にはゴム弓を卒業。すぐに「巻藁」での練習が始まっていたように思う。

 今から思えばかなり早い。一ケ月もやってない。おそらく半月くらいだ。


 実は「ゴム弓だけだとすぐに飽きる」と先輩たちが気を利かせて早めたのだった。


 先輩の代の部員は初めはもう少し人数が居たのだが、ゴム弓練習が長すぎて飽きた者が次々退部したらしい。だから方針変更したとのことだ。(三年生がいなかった理由もこれが遠因だった)


 こうして早々と五月には巻藁での練習が始まった。

 巻藁は、的ではなくて数十センチ先に置かれた藁の束だ。中身が全部藁でできた米俵を目の高さに置いたものだと思えばいい。

 ここへ至近距離から矢を射る。本当の的を射る前に、実弓を射る型と感覚を体に覚えさせる。


 私の「ド下手」が本格的に明らかになったのはこの頃。

 本物の弓を引く筋力がないから腕がぷるぷるするのである。

 しかも体幹が出来ていないせいで全身に震えが伝播する。

 全身ガクガクプルプルである。


 そうなると自分でも訳が分からなくなってしまう。パニックとなる。

 矢を放つのもままならない。

 それはそれは情けない姿になってたと思う。


 例えるなら生まれたての子鹿が四肢をぷるぷる震えさせて立ち上がる感じ。

 そんな可愛いものならまだ救いはあるのだが、巻き藁前で男子高校生が震えていても見苦しいだけである。


 両腕が痙攣して狙いをつけるどころではない。

「巻藁」でさえ外すんじゃないかというほど、全身でぶるぶるしてた。



 ここで少し解説。

 弓に「重さ」があるのをご存じか。

 もちろん弓自体の重さではない。


 引き絞るのに必要な力を、重さ(キロ)で表したものだ。


 当時私が巻き藁練習で引いていたのは10キロくらいの弓だった。


 10キロというのは力のない未経験女子部員が最初に引く程度といえばわかるかな。道場にあった一番軽い弓だった。

 それすら満足に引けない筋力だったということだ。


 女子部員もいる中、巻藁でぷるぷるしながら弓を引く男子。

 泣ける。

 



 そんな新入生を見かねたのか。

 部長だった先輩がくれたアドバイスを今もよく覚えている。

 言われたときは意味が分かっていなかったけれど、言葉だけは忘れずに覚えていた。

 数か月後その意味を身をもって理解できたときはうれしかった。


「大三から引分の早い段階まではある程度の筋力が必要だ。でもその先は。関節をしっかり嵌めてしまえば、体を十字に伸ばしていく感覚で「会」に入り、そのまま何分だって引いたままでいられるぞ」



 他の同期部員のみんなは、それなりに筋力があったみたいで、初めは腕力だけで弓を引けて、それなりに様になっていたようだ。うらやましい。


 もっとも、同期全員がその年の秋には初段、翌年秋には全員が二段試験に合格したのだから、早い段階で筋力頼みの「射」を卒業していたのは間違いない。


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※射法八節というのは、矢を射るまでの八つの基本動作。


 ・足踏み(立つ位置を決める)

 ・胴造り(姿勢を整える)

 ・弓構ゆがまえ(矢を番え弦に指をかける)

 ・打起うちおこし(弓を持ち上げる)

 ・引分ひきわけ(弓を引く)

 ・かい (狙いを定める)

 ・離れ(矢を射る)

 ・残心ざんしん(残身ともいう)


文中に出てきた「大三だいさん」というのは「引分」の過程である。

打起うちおこした状態で弓手だけを的方向に伸ばしていったん動作を止めた状態を指す。

ここからさらに引き分けて「かい」へと進む。

昇段試験の筆記では必ずこの射法八節の全てを列記してどれかひとつの詳細な説明を求められたと思う。今も同じだろうか?


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