第玖話

《伶》の計画が狂ったのは、これが初めてではないが狂った例は極端に少ない。

 

 だが今回の事案は他とは違い、明らかに情報漏洩があったか?と疑うような行動を彼らはとっていた。情報運用局にマインドチェックと工作捜査を依頼したが報告書には今回の件での情報漏洩は無かったと長々と記されていた。

 外局も最初に疑ったが情報運用局がそちらも調べていたようで、そこにも問題無しと書かれていた。


 ここで考えられるのは情報運用局が黒か、今回の事案に介入した学生が危機調査局の異常波長保有者測定器を欺いた可能性が浮かび上がる。


 一応私は外局出身の人間だ。今回のことがうちの局に伝わっていない可能性を考慮して、比較的私に好意的な出雲グループの奴等と情報運用局以外の局長に報告することにした。


 報告書を読み終え、画面を切って、これから自身がするべきことを決めて甲板に出る。11時にもなると退勤用の船はもう出ていないのでヘリに乗って帰らなければならない。

 別にヘリが嫌いでは無いのだが、過去にヘリポートで待ち伏せをされて撃ち落とされたことがあるのからか逃げ場の無い空を移動するより、飛び込んで逃げれる海の移動が相対的に好きなだけだ。決して高所恐怖症だからではない。


 そんな誰にしているのか分からない言い訳をしている間にヘリポートに着いていた。操縦士に労いの言葉を言ってヘリを降りた。後ろには私と同じように残業を余儀なくされた哀れな仲間達が続々と降りてきていた。


 残業メンバーの中に見知った顔があった。

 160センチ程度の身長に、一つにまとめられた黒髪に童顔、それに似合わないスーツを着ている彼女……いや、彼は数少ない即応部隊隊長兼外局情報収集室員の山本透過が見えた。「おー残業お疲れー」と彼方から話し掛けて来てくれた。彼は異者によって幼女の姿にされたらしい。


 しかも変異させた異者は変態だったらしく通勤電車で無差別に性別を反転させていて被害者全員幼女の容姿にされていたとのことだ。本人からすれば笑えないが、正直内心爆笑していた。本人からこの話を聞いた時は本人のその真剣な表情もあいまって笑いそうになっていたのは内緒の話だ。


「相変わらず死んだ目をしているなー」と可愛い笑顔を私に向けてきている。相手は一応32のオッサンだ。私はホモでは無いので彼を可愛いと感じてしまった際は変異前の写真を見ることにしているが今は見れそうにない。

 「仕事の話で頼みごとがあるんだけど」と本題に切り出そうとすると「飯を奢ってくれたらな!」とまたしても可愛い笑顔で返してくる。条件を了承すると「今から行くよ」と言われた。そこで要件を話すことに決めてエレベーターから降りた。


 まさか食べ放題じゃない方の焼肉屋に連れて行かれるとは思っていなかった。

 明らかに高そうなカウンターで端末を出して、明らかに高そうな明るい色の木製椅子に腰を掛け、明らかに高そうな机から出てくる薄く光るメニュー画面をスクロールする。

「こんなに高い店の飯を奢らされるとは……」と愚痴をわざと聞こえるように溢したが、全く聞いていないかのように注文ボタンを次々と押していく。


 頼みたいものは頼み終えたのか、こちらの方に顔を向けると笑顔で「ご馳走になります」と言ってきた。煽っているのかいないのか分からないがムカついたので要求を吊り上げることにしよう。そう心の中で決意を固めた。


「どんな話をしてくれるの?」と本題に入れと暗に言われ、当初頼もうとしていたことと少し違うことを頼んでみる「私たち法務執行局運用部が集まることって、なかなか無いじゃない?」「しかも外局の警備局にも会うとなることは無いじゃん?」そこまで言うと理解したのか「待った待ったそれマジ?」と困惑の表情を浮かべながら問いただしてきた。


 その表情を見て満足した私は本当の頼みごとを話した。「外局の人間と運用部を数人で良いから集めろねー」「なるべく早くにお願いするよ」さっきよりも表情に余裕がみられる。これなら大丈夫そうだな。「それって自分も来た方が良い?」「時間が合うなら来て貰って構わないが」調整役や実動隊の指揮をしているから時間が合うことは無さそうだが……それは他の奴等にも言えることか。


 皆、何かしらの役を兼任しているからな。「もう少し人手があればなー」とぼやくと「同期人形使いなよ」と冗談交じりに言われ「ただでさえ生産数が少ないから、それを奪い合うのに人員を使う羽目になって結局人手不足になるんだよ」と私も冗談交じりに話す。「行政改革とか言って行政専用の同期人形を作るまでは良かったんだけどねー」と後半は愚痴ばかりになってしまった。


 十万まではとどかなくても、それに近い金額になっていたことに少し驚いた。最近コピー肉しか食べてなかったからか本物の肉の値段を忘れていたようだ。昔はもっと安かった気がするんだけどな……カード端末から残高を確認したが今月は倹約生活になりそうだ。

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