第30話 リセマラ無しのロリガチャでSSRの幼女パーティーを引き当てました!

 アークリル城を出た俺たちは、ひとまず宿屋へと向かった。

 たまたま空いていた二部屋を取った後、幼女たちに一階の談合所に集まってもらう。正直子供の相手というのは得意ではないのだが、唯一の大人である俺が怖じ気づいていては始まらない。


「よし、なによりまずはお互いのことを知るために自己紹介をしよう。自分の名前と就いている職業クラスを教えてくれるか?」


 職業とはパーティー内における冒険者個人の役割のことだ。たとえば執事職の俺は身の回りの雑務をこなす、といった具合だ。

 こうやって互いに役割分担することでパーティーは運営されるのである。

 それはともかくとしてこういうのは言い出しっぺから始めるのが常識と思っていると、


「はいはーい、そんじゃあーしからするね。あーしの名前はパスト・ルルティエでーす。職業は魔術師メイジでぴちぴちの八歳、みたいな? このメンバーの中では一番年長だけど、もしも年齢のことを弄ったりしたら得意の魔法で攻撃しちゃうんで気をつけてね?」


 愛称幼女に先手を奪われてしまう。

 これまでのやりとりからも分かるように、彼女はとにかく快活で目立つ子である。よく言えばムードメーカー、悪く言えばお調子者だが、不思議と嫌な感じはしない。

 また最年長とのことだが、身長も五人の幼女の中で一番高い。その上、歳の割にはプロポーションも抜群で、どことは言わないが色々と発展途上中だ。


 そんな彼女は淡い桃色の髪を頭の左右で結って、ツインテールという髪型にしている。

 表情にはあどけなさと大人っぽさがちょうど半々で存在しており、果たしてどちらが本当の顔なのか判断がつかない。これもひとえに彼女のもつ小悪魔的雰囲気によるものなのだろうか。


「スティのなまえはスティングベル・ベルモットだ。おいそこのハゲ。べつによろしくするつもりはないが、スティはうまいめしさえつくれるやつならもんくはない」


 腹ぺこ幼女は可愛らしい見た目と違ってどうやら毒舌家らしい。眠いのか目はくてっと半眼で、反対に口は三角の形に開かれている。黙っていれば人形のような容姿だ。

 そんな彼女のふんわり切り揃えられた銀髪には、いくつか溶けたチョコレートと思わしき物体がひっついていた。


 これまで彼女が手に持っていた菓子の食べかすなのだろうが、いったいどこをどうすればそんなことになるというのか。

 執事の性か、その汚れをハンカチで取り除いてあげたい衝動に駆られるが我慢する。

 いきなりそんなことをしたりなんかすれば気持ち悪がられるのがオチだ。


 だが一つ、これだけは訂正させてほしい。

 俺はまだハゲじゃない。若干生え際の目立つ髪型をしているだけだと。

 ちなみに足りない情報は他の幼女が補足してくれた。メンバー最年少の六歳で、職業は盗賊シーフ

 好きなものは食べられる物全般で、嫌いなものは食べられない物、だそうだ。なんつーか食に対する意識がすごい。


「わ、わたしは、アーリア・ノーリスト、です。えとその、ね、パストちゃん、わたしも年齢教えなきゃダメ……? あ、うん、ダメだよね、そうだよねごめんね。……あの、わたしもスティちゃんと同じ六歳で、えと、職業は僧侶プリーステスですっ」


 噛みまくりの男性苦手幼女は相当な恥ずかしがり

屋なのか、自己紹介をしただけでもう顔がゆでだこみたいに赤くなっていた。

 その姿に庇護欲が刺激されてなんだか守ってやりたい気分に陥るが、実際には俺の方が守ってもらう立場になるだろう。

 回復魔法を自在に手繰る僧侶は正にパーティーの生命線、一家に一人ならぬ、ひとパーティーに一人はいる存在だ。


 くせっ毛なのか濃い藍色の頭髪がところどころでうねっており、それを気にしている節があった。

 俺としては似合っていると思うのだが、本人からすればコンプレックスなのだろう。

 嫌がられるかもしれないが、もし機会があったら髪を梳いてあげたいと思う。


「わたくしの名前はエヴァンジールです。本来ならば平民の男に名乗る名は持ち合わせておりませんが事情が事情なので特例ですわ。このわたくしに名前を教えてもらえることを光栄に思いなさい」


 お花摘み幼女はバラのように刺々しい印象だ。

 毛先がゆるくウェーブかかった金色のロングヘアをゆらし、立ち上がる。七歳という年齢と職業が騎士ナイトであることを告げると、再び背筋をピンと伸ばして席に着いた。さっきも思ったが丁寧な言葉遣いと立ち振る舞いから、彼女はどこかの貴族の令嬢なのは間違いない。

 

 けれど名字を名乗らないところを鑑みるに、もしかしたら没落貴族なのかもな。

 といっても別にそのことを詮索する気もないし、本人も勘ぐられたくはないだろうからひとまず口を閉ざしておくけども。


「最後はあたしね。セイ・コネット、それがあたしの名前。エヴァと同じ七歳で、職業は剣士フェンサー。言っとくけどあたしたちにはアンタみたいな執事は必要ないんだからね」


 リーダー格幼女は浅茶色のショートカットの毛先を指でつまみながら、吐き捨てるように自己紹介をする。

 これまでの言動から見て取れるように、この中の面子で一番俺に対する風当たりが強い。

 まあ出会ったばかりなのでその辺は仕方がないと割り切る。ヴィオレットさんが申したようにまずはこちらから歩み寄っていくしかない。


 そんな彼女だが、どこか無理をしてキツい態度をとっているように思えてならない。

 まあ俺の勘違いの可能性がなきにしもあらずなのだが。


 ひとまずこれで五人分の自己紹介が終わったわけだが、顔と名前を照らし合わせるためもう一度彼女たちを見た。

 人の好みはあるだろうが、どの子も端正な顔立ちではある。大きくなったら全員華やかな美人に成長するに違いない。

 おっと当たり前の話だが別に俺は幼児性愛の気を持ち合わせてないので、これはあくまでも一般的な審美眼ということを覚えておいてもらいたい。


「今度はこっちの番だよな。俺はレイド・クォーズウィル。こう見えてもディ・アークズ執事科を首席で卒業したエリート執事だ。短い間かもしれないが、よろしく頼むな」


 どうせ俺の個人情報に大して興味ないだろうから手短にまとめる。とりあえずはエリート執事ということだけを覚えてもらえればそれでいい。もちろん事実なので決して自慢などではないことだけは付け加えておくけども。


「あら、一応わたくしたちに召し仕えるだけの資格はあるというわけですわね」

「しゅせきってなんだ、くいものか?」

「えっとね、確か学生の中でもっとも優れた成績を修めた人のことだったと思うよ」

「ふーん、人は見かけによらないわね」

「でも、言われてみれば学生時代勉強しかしてこなかったような感じがするよねー」


 わいわいがやがやぺちゃくちゃぺちゃくちゃ。

 女が三人寄れば姦しいとはよく言うが、いやはやホントその通りだ。

 正確には幼女が五人だがやかましいことには変わりない。ちなみにこのやかましいには二つの意味があって、一つはそのまんまの意味でもう一つは俺のイメージに対して大きなお世話という意味である。

 ……悔しいけど当たってんだよ、学生時代に勉強しかしてこなかったって部分が。


「というか、それならあたしたちの方が普通に格上じゃない?」 

「あ、それあーしも思った。だって全員飛び級卒業者だもんね、あーしたち」

「……ん、どういうことだ?」

「おや、ご存じないのですか? わたくしたちは全員がディ・アークズ冒険科を飛び級で卒業している平民以上のエリートなのですわよ」


 ちょっと待て、その話初めて聞いたぞ。

 しかも飛び級で卒業なんて年に一人いればいい方なのに全員だと? 

 おいおい、そんなことヴィオレットさんは一言も言ってなかったぞ。


 いきなりの暴露には驚いたものの、同時に合点も行った。

 

 ――なぜこんな年端もゆかない子どもたちが王国探検隊の入隊試験を受けられるのか?

 

 簡単なことだ。ディ・アークズ冒険科を既に卒業しているからである。


 通常、冒険者になるには二種類の方法がある。

 一つはギルドと呼ばれる、冒険者の互助組合から直接冒険者手帳を発行してもらう方法だ。

 簡単なテストを受けたり、色々と面倒な手続きをしなくてはいけないが、この方法の場合だとすぐに冒険者になれるので、一攫千金を夢見る輩には割と需要がある。


 そしてもう一つは冒険者養成学校、つまりディ・アークズを卒業することだ。

 大多数の人間はこの手順を踏んで冒険者になっている。冒険者のイロハを学ぶのに学校という環境は適しているからだ。


 それで肝心の授業内容だが、男女で学科が別れており、男は執事科、女は冒険科のみ受講できる。

 その上でさらに高等科と初等科があるが基本的に十歳以下の子供は初等科に所属させられる。そこで体力作りなど基礎中の基礎を習うのだ。

 

 けれどもまれに同世代の中から抜きん出た能力を持つ者が現れる。そういった手合いは早々に学年を引き上げられ、高等科の授業を受けることが可能となる。それがこの幼女集団なのだろう。

 しっかしあのヴィオレットさんが特別扱いをするくらいだからなにかあるんだろうとは思っていたが、まさか全員が天才幼女だったとはな……。


 余談だが彼のヴィオレットさんもそうだったらしく、なんと彼女は数ヶ月単位で飛び級をしていったというから驚きだ。

 ま、それはさておき。

 彼女たちに対する個人的な見解を述べるのなら、お前ら無駄に個性豊か過ぎ! ……だ。


 そりゃないよりはあった方がいいだろう。だけど現状、生意気で問題児揃いというマイナスイメージしかない中でこいつらの相手を務めるのはいささか骨が折れる。とはいえ相手はまだ子供。それを改善するのも、執事である俺の仕事ではある。

 というわけでここからはさっそく執事の業務活動に勤しむことにした。


「とりあえず全員の自己紹介も終わったことだし、これからのことについて説明するぞ。ティールの森には明日の朝一で向かおう。歩きでも昼前には着くはずだ。で、一応聞いておくけど、みんなは自分の武器と防具を持ってるか?」

「持ってませーん」

「よし。それなら、今から俺と一緒に装備を買いに行こう」

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