パーティーメンバーを寝取られたおっさん冒険者は自分に惚れている年下美少女と新たにやり直す〜NTR男が今更かつての仲間を返したいと泣きついてきてももう遅い〜
第28話 うわようじょかわいい! やっぱりかわいくないです……
第28話 うわようじょかわいい! やっぱりかわいくないです……
……幼女?
どうやら、俺はいつのまにか幻覚魔法でもかけられていたらしい。でなければこの場に似つかわしくない幼女の姿など幻視するわけがない。魔法を解くため目をごしごし擦る。
しかし目の前の光景は変わらない。
視界の先には、いつまで経っても消えない五人の幼女の姿があった。つまりはあの幼女たちは本物ということだ。
俺は無言で扉を閉めた。
「なぜ閉める」
いやだって、そりゃあねえ?
「つかぬことを聞きますけど、この部屋に俺が担当するパーティーがいるんですよね?」
「そうだが?」
「……それってもしかしてあの五人の子供だったりしませんよね?」
「そうだが?」
なにを当たり前のことを聞いているんだみたいな感じでヴィオレットさんからあっさりと肯定され、目の前が暗くなる。間違いであってほしいという俺のささやかな願望は残念ながら潰えたようだ。
ということはなに、俺の役目って文字通り子守りってこと?
えっマジで?
せっかく逆転劇が起こったかと思ったら、とんだぬか喜びだったよ!
「悪いがあまり時間がないんだ」
悲観する俺を尻目にヴィオレットさんは手ずから扉を開き、強引に応接室に押し込めてくる。
無理やりとはいえ今度こそ室内に足を踏み入れた瞬間、五人の幼女の十の瞳が俺たちを捉えた。
「みんな、待たせたな」
開口一番ヴィオレットさんがお詫びの台詞を口にすると、即座に返事が戻ってくる。
「あーもう、ヴィオ子遅すぎー。おかげであーし肩がこっちゃったぁー」
このなんとも甘ったるい声を出しているのは、ソファーに腰掛けている幼女だ。
両足を投げ出すようにぶらぶらさせ、反対に頬をぶうぶう膨らませている。いかにも年端のいかない子供がやりそうな行為だ。しかしそんなことはどうでもいい。些末な問題だ。
それよりも俺が気になったのは、その子がヴィオレットさんのことをヴィオ子などと呼んだことだ。
仮にも王国探検隊を目指すのならば敬愛して然るべき彼女に愛称をつけるだなんて、当の本人が大人の対応で済ませているからいいものの、下手したら軍法会議ものだぞ。もちろん議長は俺な。
「おい、まちくたびれてはらがへったぞ」
今度はひときわ小柄な幼女が平坦な口調で不平を漏らす。
それと並行して彼女のお腹の虫がぐーと可愛らしい音色を奏でた。微笑ましい、いかにも食べ盛りの子供といった感じである。
しかしよく見ると、空腹を訴えるその手にはチョコレート菓子が握られている。よく分からないけど、あれはいざという時の非常食なのだろうか。
「わたくしはお花摘みに参りたいのですけれど」
これはいかにも良家出身と思われる幼女から。
お花摘みに参りたい、という言い回しは主に貴族令嬢などが用いるもので、意味は「トイレに行きたい」だ。要はもれそうだけど、人前で尿意を伝えるのは恥ずべき行為と考えている身分の高い方たちが考案した、秘密の暗号である。
ここでもらされても困るからとヴィオレットさんはひとまずその幼女をそれとなくトイレに向かわせたのだが、その際トイレという単語は使わず、それがある場所の行き方だけを教えるという心遣いは俺も見習いたい。
「お、男の人……」
部屋の片隅で手持ちぶさたそうに佇んでいた幼女と目が合った瞬間、慌てて目をそらされた。どうやら俺が怖いようだ。
無理もない、普通このぐらいの年齢なら年上の男がどうしても苦手なもんだ。決して俺の顔が強面とか目つきが鋭いからではない。ないったらない。
確かに何度か「お前って人を二、三人殺してそうな顔してるよな」とカイリから言われたことがあるが、あれはきっと誇張表現だろう。だって、ちょっと俺が脅したらすぐに撤回してくれたし。
よし汚名を払拭するためにも、ここは一つ俺のさわやかな笑顔であの子の緊張をほぐしてやろう。幸いちらちらとこちらを見てくる辺り、まだ完全には嫌われてはないらしい。
だからもう一度目が合ったタイミングに合わせて俺の必殺スマイルを披露してあげた。するとその子は「ひっ」という短い悲鳴とともに勢いよく後ろを向いてしまった。ははあ、照れたか。
「えー? 男ぉ?」
この無愛想な声を発しているのは、ガラス円卓に行儀悪く片足を乗せてソファーの上でふんぞり返っている幼女である。その様子から気が強そうな子な印象を受けるが、事実俺の姿を確認するなり、刺すような視線を送ってくる。とりあえず敵意とまではいかないものの、かといって歓迎されているわけではなさそうだ。
そんな彼女の冷たく、けれども脆そうな目。
まるで弱音を必死で耐えているかのような印象を受けるその瞳に、なぜだか意識が向いてしまう。
「ちょっと、誰よそいつ」
「君たちのパーティーに配属される執事だ」
ヴィオレットさんは極めて簡潔に俺のことを説明してくれた。
だが待ってほしい。彼女に文句を付けるわけではないが、頭文字にエリートの一文が抜けてしまっている。これでは説明として不十分ではないかと地に這いずり回る羽虫が恐れ多くも進言したい。
「執事ぃ? そんなのいらないわよ。一人増えたら報酬の分け前が減るじゃないの」
ああなるほど。俺が歓迎されていない理由はこれか。見れば他の幼女たちもうんうんと頷いている。
報酬、ざっくり言えば金目の物はダンジョン探索における目的の一つだ。
理想やロマンに燃え、まだ見ぬ未踏の地を目指す者を人は冒険者と呼ぶ。
それについて否定をするつもりはないが、やはり先立つものがなければ飯は食えない。だから冒険者は金を得るために自分の、時には仲間の命をかけてダンジョンに挑むのだ。なので報酬の分け前が減るということは、その分だけ危険に身を投じる回数が増えるのと同じわけで。だから彼女たちが俺の加入に難色を示すのも無理らしからぬことだった。
「入団試験を受けたかったら執事をパーティーに入れることが条件だと約束しただろう?どこのパーティーも同じ条件なんだ、そこまで君たちだけを特別視することはできない。それとも君たちは試験が受けられなくなってもいいのか?」
「うぐ、それは困る……。分かったわよ、そいつを入れればいーんでしょ、入れれば!」
「ま、どうせ後でクビにすればいいだけだしねー」
「いてもいなくてもどっちでもおなじだ」
「わ、わたしはえっと……」
ずいぶんと好き勝手言ってくれるなこいつら。
まあ仕方ないか、しょせん世間一般の執事の扱いなんてこんなものである。だけどせめて俺の処遇についての話し合いはひそひそ声でやってくれよ。
「お待たせしましたわ」
不意に扉が開かれ、用を足しに行っていた幼女が戻ってきた。つかつかと優雅な足取りで空いていたソファーにすっと腰かける。綺麗な所作だ、やはり育ちがいいのだろう。
「全員揃ったので、さっそく試験内容の説明に移らせてもらうぞ。君たちにはティールの森へ赴き、奥地にあるオダボイの樹から樹液を採取してきてほしい。期限日は、明日から数えて二週間だ」
ティールの森って王都の南西にある、冒険者に開放済みの森林地帯のことだよな。既に開かれたダンジョンに限り、冒険者も好き勝手に探索していい決まりになっているのだ。
「なんだ楽勝じゃーん」
「そうでもない。森の奥地に向かうにはフォレストベアの住処を通る必要があるからな」
「フォレストベアだって!?」
その名前を聞いて、思わず叫んでしまう。
「なによ急に大声を出して」
「ああ悪い。だけどフォレストベアってのは危険度ランクCのモンスターだぞ。間違っても実戦経験に乏しい初心者パーティーが勝てる相手じゃない」
「戦うのはあーしたちですけどー?」
「それはそうなんだが……」
ティールの森は危険なモンスターが比較的少ないことから冒険者の間でよく新人冒険者の登竜門と呼ばれているが、それはあくまでフォレストベアの住処まで足を踏み入れない場合の話だ。
ダンジョン探索にも慣れて分かりやすく慢心した新人が、奴らの巣に誤って足を踏み入れ、そのまま餌になった事例は数知れない。
それがきっかけでフォレストベアには新人冒険者殺しというあだ名が付けられているほどだ。
「案ずるな。つい先日、王国探検隊による定期駆除が行われている。危険は薄い」
「あ……」
そういえば忘れていた。繁殖期を終えたフォレストベアは生態系を乱さないように幼体だけを残し、奴らを危なげなく駆除できる王国探検隊メンバーによって討伐隊が組まれているというのは割と有名な話だった。この程度のことで取り乱してしまうとは情けない。
「ぶっころしたえものはどうしてるんだ。くうのか?」
邪気のない顔に似合わず発言が物騒だな、この腹ぺこ幼女は。
「彼らから採れる獣肉や毛皮は高く売れるからな。我々王国探検隊の資金繰りにも役立てさせてもらっているよ」
「……高い値で売れる?」
冒険者見習いとして耳聡いのは結構だが、どこに反応してるんだこっちの幼女は。
「さて、これで伝えるべきことはすべて伝えたぞ。後は君たちの方で自己紹介も交えつつ話し合うといい。私はなにかと忙しい身でね、少々慌ただしいがこれで失礼するよ」
入り口の扉の取っ手に手をかけたところで、ヴィオレットさんは手招きをする。
「ああレイド君、ちょっといいかな」
初めて見る彼女の可愛らしい仕草にグッときた、とくだらないことで感動している間に応接室を出て行ったので、急いでその背中を追いかける。
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