第14話 番外編〜今昔NTR男物語③〜

 今日もまたひとしきりアダルトな男女の遊びを行ったあと、俺とミスリアは宿屋の前で別れた。

 明日からは彼女のパーティーに参加して既存のダンジョン攻略に挑むんだが、早いとこ俺も元手を集めて冒険者家業とはおさらばしたい。

 いくら稼げるとはいえまだ死にたくねぇし夢も野望も命あってのものだからな――ってなことを考えていると、突然肩を掴まれた。


「よう久しぶりだな。ずいぶんとお楽しみだったみたいじゃねえか、ええこの色男さんよ」

「あん?」


 気だるげに振り向くとそこには、前に寝取ったパーティーの執事であるアルフなんたらとかいう中年がいた。


「せっかくこうして再会をしたんだ、積もる話もあるしちょっと面かしてくれよ」


 うわーこのおっさんずっと俺が一人になるのを待ち構えていたのか。暇すぎるだろ。

 女との約束の一つもねえのか、さもしいなあ。年取ってもこうはなりたくねぇわー……。


「悪いけど、男と遊ぶ趣味はねぇんスわ」


 とりあえずそんな風に断ってから肩を掴む手を振りほどこうとするが、


「まあそうつれないことを言うなって。先輩たちから生意気な後輩に、一つアドバイスしてやろうと思ってな」

「は?」


 路地裏からぞろぞろと、黒い燕尾服を着た野郎集団が出てきやがる。

 いずれもさなかまらドブネズミみたいな雰囲気のおっさんどもばかりだが、どこかで見たことがあるような気が。


「……その様子だと、見覚えあるようだな。彼らは俺と同じくてめぇのようなクズNTR野郎に愛着あるパーティーを奪われ、冒険者人生を滅茶苦茶にされた被害者たちだ」


 この集まりの発起人なのか、アルフ中年が代表として前に出る。

 あーあいい歳した大人がマジでダセェな、一人じゃなんもできねえのか。

 しかも俺を守る女が近くにいない瞬間を狙ってやってくるとかさ、カッコ悪すぎったらねぇわ。

 おかげで笑っちまいそうだよ、つか笑ってやるか。


「被害者ねぇ……そりゃお門違いってもんスよ。確かに俺はそうなるように働きかけたっスけど、最終的に捨てる決断を下したのはあんたらが在席していたパーティーの女連中っスよ。だから一番悪いのはイケメン好きのビッチでしょ、ははっ」

「なんだとお前、元凶のくせによくもまあそんな言葉がはけるな!」


 連中を鼻で笑ってやるとその中の一人が途端に大声を上げた。

 顔まで赤くしてさあ、猿かよまったく。


「おいそうはやるなってシゲさん。ここに集まったみんなの気持ちは同じなんだ、一人だけ抜けがけは駄目だって」

「すまんアルフレッド、でもよコイツのムカッ面を見てると腹が立ってしゃーねぇったらねぇや。さっさと袋にしちまおうぜ」

「おうともさ。……そういうわけでなクソ野郎、今からこの場にいる全員でテメェにお灸を据えてやる。恨むんなら自分のやらかした行為を恨むんだな」

「なあに安心しろ、殺しまではしない。せいぜい施術院びょういん送りで勘弁してやるさ」


 はあ。やっぱりお礼参りってか。

 嫌だねぇ、これだから嫉妬深い連中は。

 自分たちには他の受け入れ先がなかったからかパーティーを奪われたらこうもキレるってか。


 ……でもいいさ。こういうことには慣れてる。

 

 実の姉妹にまで手を出しかけて親父に半殺しにされた経験もあるんだ、この程度の修羅場なんざ屁でもねぇよ。

 だからすぐにでも逃げおおせてやるさ。

 なあに、こういう時にいつも使うとっておきの手があるんだよ。

 よし、そうと決まればさっそく実行だ。


「あ! あれはなんだ⁉」


 俺はあらぬ方向を指差し、全員の注意がそっちに向けられている隙に逃げ――ひょい、ぱしっ、ぼきっ!


「ぎゃあぁあっ⁉」

 

 指折られた? 指折られた! いってぇぇぇっ‼


「どこ行こうってんだ、クソ野郎」


 人の指を酷い有様にしてくれた張本人は両手を合わせて骨をパキパキと鳴らしていた。


「や、やめっ、暴力反対……」


 最初の攻撃から一転して自分の声も細くなる。

 だってこちとら指折られたんだぞ⁉ 強気に出る気力も同時に折られたっての!


 だけどもちろん俺の懇願が通じるわけもなく、


「おいおい暴力だなんて人聞きの悪いな。さっきも言っただろこいつは――生意気な後輩に対するアドバイスだってなぁ!」

「人の女に手を出したらどうなるかお前のその身で理解わからせてやるよッ!」

「そら、社会勉強のお時間だクソガキぃ!」


 なんて心にもない言葉とともにひたすらに俺は蹴られ、殴られ、転がされ、踏みつけられ。


「ぎぃやああぁあぁあぁっ!」


 そうやって野郎連中からたっぷりと集団リンチを受けながら俺の意識は混濁し、やがてプッツリと途絶えたのだった。


 ◆


「退院おめでとう。貴様はもうクビだ」


 やっとこさ怪我の治療を終えてパーティー復帰を果たした俺に告げられたのは、そんな追い打ちとも取れる宣告だった。

 前後の話がまるで繋がっていない。

 

「ちょっいきなりどうしたのさミスリアちゃん」

「馴れ馴れしく下の名前で呼ぶな、虫唾が走る」


 険の混じった目で睨みつけてくるミスリアの姿からは、まるで俺に対する好意を感じられない。

 これはもしかして、いつものアレか?


「いったい自分はどうしていたのだろう。以前の私は貴様の前であれだけ女になっていたというのに今ではそれを思い出したくない記憶だと感じている」

「だけど過去にあった事実は消せないよミスリアちゃん」

「黙れ。確かに一目見た時に眉目が整っている男と思ってしまった。だが貴様のような浮ついた男に私の操を捧げてしまったことは一生の後悔だ。隠すべき恥だ。秘匿しなければならない事実だ。よって貴様を我がパーティーから追放する!」


 やっぱりか。どうやら入院生活を送っている間にユニークスキルの効力が切れたみたいだ。

 まー入院期間が長かったからな、仕方ないか。


「異論は認めん。即刻立ち去れ」

「へーいへい、分っかりました……っとその前に最後の思い出作りに俺と遊ばない?」


 内心無駄だとは思いつつも、一応もう一度だけユニークスキルの使用を試みることにした。

 上手くいけば儲けもんだしな。


「断る。があの忌まわしきユニークスキル発動の条件なのだろう? それを知り得た今では誰が乗るか」


 が、案の定すげなく振られてしまった。

 そりゃそうだ、再び『魅了』の力で自分の心が操られると分かっていて乗るバカはいないわな。

 これまでの女連中も決まってそうだったから、よっぽど精神支配されることは嫌悪感がすごいんだろうな。


「んじゃお邪魔虫はもう去りますよっと。今までお世話になりましたー」  

「待て」

「ん? なんスか? やっぱり気が変わって俺と遊びたくなっちゃいました?」

「そんなわけあるか」


 おどけながらその場で荷物整理を始めた俺に、少しの間だけ我が主だったミスリアはこんなことを尋ねてきた。


「貴様は今後も同じことを続けるつもりか?」


 同じこととはダンサーの王子としてまたすぐに他のパーティーの女冒険者を寝取ることを指しているのだろう。


「まあそうっスね、必要な額まで金を貯めるまでは続けるつもりっス」 

「貴様もこりないな。……まあいい、だがそんなことを続けていてはいつかバチが当たるぞ。同業者から袋叩きにされて入院する程度ではすまないほどのな」

「あれ、もしかして心配してくれてるっスか?」

「そんなわけあるか。もう話は済んだ、失せろ」


 そんな風に追い立てられたので挨拶もそこそこに俺は彼女の前から去る。


「さてこれからどうするかねぇ」


 当然新たな寄生先のパーティーを探さなければならない。

 さっきのミスリアとの問答を経ても、やはり俺がNTR行為をやめるという選択肢は存在しない。

 今更この生き方を変えられないし、変える気もないからだ。

 けれど今度も簡単に見つかるかな――と思った矢先、目の前をふらりとの格好をした美女が通り過ぎていった。


「ナイスタイミング。とりあえず声をかけるだけかけてみるか。俺の誘いに乗ってくれば『魅了』のユニークスキルが使えるしな。……すみませんそこの人、ハンカチ落としましたよー!」

「はい? 私ですか?」


 この時はまだ知らなかった。

 たまたま通りがかった女に声をかけたことが、その後の俺の人生を大きく狂わせることになるとは。

 イケメンにあるまじき惨たらしくも無残な最期を迎えることになるとは、まったくといって想像できなかった。



__________


 これで番外編の方は終了となります、ここまでお付き合いくださりありがとうございました。

 本編は引き続きこれからも連載が続きますが、そろそろ物語が大きく動き出します。



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