第292話 メール

ピロピロリン


「え?まだ鳴ってる?‥‥なあ、‥‥‥ピーラギのじゃない?」

「へ?」

ワイちゃんがスマホを握りしめながら,周囲を見回して、スマホを手にしていなかった柊さんに言った。柊さんは驚いた様子で目を見開いた。

「だって、僕はMOINEをやってないんだよ。バッテリーだってもう切れて‥‥。あれ‥‥?」

柊さんは首にぶら下げていたスマホを出してみて、一瞬動きを止めた。

「起動してる‥‥。」

柊さんが明るくなっているスマホの画面をこちらに向けてみせた。確かに電源が入った状態だ。


ピロリン


「わ、え?僕?え?」

柊さんは慌てて、スマホを取り落としそうになった。それから、画面を凝視して、驚いた様子で目を見開きながら皆の顔を見回した。

「‥‥メールが来てる‥‥。家族から‥‥。」

「ええ?」

「ほら、これ‥‥。」


ピロリン


「わ、また。」


柊さんは、メールを受信したというポップアップ画面を見せてくれた。その間にもスマホから受信音が鳴る。

「ピーラギがMOINEやってなかったからメール?それとも皆のメールもか?」


緒方さんの言葉で、俺を含めて皆がメールを確認し始めた。

「うっわ!メールも家族からしか届いていないんだけど‥‥、100通くらい来てる‥‥。」

「わぁ!私も家族からのメールだけ受信してる!」

ワイちゃんだけでなく、皆家族からのメールを受信しているようだった。

MOINEに続き、今度はメールが繋がるようになったのか?

ここって異世界だよね?今更だけど、何で繋がるんだ?


「おうぅぅぅ‥‥。‥‥ちょっと部屋行って読んでくる‥‥!」

柊さんはスマホの画面を凝視していたけど、顔を上げないまま部屋を飛び出して行った。

バタバタ駆けて行く足音が響いた。緒方さんは、柊さんが去って行ったドアの方に目を向けて言った。


「ピーラギ、あまり態度に現さなかったけど、一人だけMOINEで家族と繋がれないの辛かったんだろうな‥‥。」

「そうだろうね‥‥。まあ、しばらくそっとしておこう。」

江角さんが言った。

「ねえねえ。」

ワイちゃんはスマホを弄りながら言う。

「バッテリーが復活した気がするんだけど!」

「残量が増えたってこと?」

「そう!半分くらいだったと思ったのに、ほとんど満タンなんだよ。皆はどう?」

ワイちゃんに言われて、スマホのバッテリーの残量をチェックしてみた。確かに満タンに近いんだけど、今朝充電したはずなので

残量がたっぷりあっても不思議じゃない。


「おお?そう言えば‥‥。俺のも残量増えているかも。」

尾市さんがスマホの画面を皆に向けた。

「勝手に残量が増えるなんてことないだろ?」

椎名さんが訝しげに言った。そういえば椎名さんも今朝充電していたはずだ。


「でも‥‥。普通繋がらないはずのMOINEやメールがつながったんだよ。バッテリーが戻るとかもあるのかも。」

藍ちゃんもバッテリー残量が増えていたのか、こちらに画面を見せて来た。

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