第293話 バッテリー残量

柄舟さんがバッとドアの方を振り向いた。


「そういえば、ピーラギもバッテリーが切れるとか言ってたよな。

やっぱりバッテリー残量、戻ってたのか?」

「どうだろう。‥‥確認するにしても後でだな。」


柊さんは何年か振りに家族からのメッセージを受け取って、それを読んでいる最中だものな。

メールの場合にこちらから送信出来るのかわからないけど、受信だけだってじっくり一人で読みたいだろう。

江角さんもそう思ったのだろう。柊さんに確認に行くのは落ち着いてからにすることにしたようだ。


それから江角さんは立ち上がって皆のバッテリー残量を見て回っていた。

俺のスマホは予め充電していたし、皆の携帯のバッテリーだって、どのくらいだったのか覚えていないと参考にならなさそうだ。

でも、誰もバッテリー切れではないようだった。

江角さんは顎に手を当てて目をきょろりと動かした。


「‥‥もしも‥‥全員のスマホのバッテリーが自動的に復活するようになってたとしたらさ。

国境近くにいる彼らのスマホも同じようにバッテリーが戻ってるのかな。」


緒方さんが眉をピクリと上げて言った。

「それは、あり得るけど‥‥。そうでない可能性だってあるぞ。圏外とか。」


「そもそもここは元々圏外だっただろう? 全員に同じ現象が起きている可能性はあるんじゃないか?」

「まあ、あるかもな。繋がる仕組みとか全く不明な現象だし‥‥。とりあえずは、バッテリー残量を暫くチェックしておくか。

この先も自動的に復活するのかどうか。今だけって事もあり得るし。」

「まあどういう理屈でそうなるか謎だしな。」


スマホのバッテリーが自動で戻るならかなり便利になる。

今だって、ソーラーモバイルバッテリーで充電はできるけど、ケーブルに一度に繋げられるのは2台までだから、

順番待ちになる。充電に時間がかかるけど、貸出はせずに俺が部屋にいる時にしてもらっているし。


バッテリーが戻っているように見えると言っても、100%になっているわけじゃなくて、80%くらいとか微妙な感じなので

少しの間、チェックした時間と残量を記録しておくことにした。


「バッテリーが自動で戻るようになっていたら‥‥、国境近くの彼らの様子も見に行くか。‥‥ずっと自動的に戻るのじゃなくても、

一時的に復活した時にピーラギみたいにメールを受信していたりするかもしれないし。」


江角さんがバッテリー残量をメモしながら言った。緒方さんがスマホから目線を上げて江角さんを見た。


「国境近くに居る彼らが家族と連絡が取れたかどうかって、確認する必要あるのか?」

「何か情報があるかもしれないだろ。」

「そうかもしれないけどさぁ。‥‥俺らだけでも情報は十分じゃないか?江角はまだアイツらのこと心配してるんじゃないか?」


緒方さんが少し片眉を上げて首を傾げた。

江角さんが軽く肩を竦める。


「まあ、どうしているのか気にはなるけど。もう面倒を見るつもりはないよ。彼らの為にもならないと思うし。

ただ、情報は少しでも多くあった方が良いんじゃないか?」

「まあな。俺らだけが、日本と連絡取れてるなんてことになってたら、揉めないか? そもそも全員スマホを保持してるわけじゃなかっただろう?」

「俺達が家族と連絡が取れたということは黙っていれば‥‥。うーん、それはずるいかな‥‥。」

「ずるいってことはないと思うけどさ。」


なんだかんだ江角さんは、国境付近に残っている人達の事を気にかけているみたいだ。交流していた期間が長いからかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る