第223話 追放

王女がゆっくりと頭を動かして周囲を見回した。

王女自身も消耗しているのか、掠れた声を絞り出すようにして言った。


「‥‥何も‥‥起きていないではないか‥‥。また失敗したのか。」

「‥‥そのようでございます。」


ガン!と王女は手にしていた杖を神殿の床に打ち付けた。

「『勇者』や『聖女』も呼び寄せたのだぞ。何故成功しない!」

「ま、誠に遺憾でございます‥‥。」


ガン!王女はもう一度、杖を床に打ち付けた。そして杖の先で俺達を指し示して行く。

「『魔導士』『勇者』『聖女』までは成功した。なのに次は『やや有能』ばかり。なぜ『賢者』が出て来ないのだ!」

「‥‥誠に遺憾でございます‥‥。」


魔導士の偉い人が頭を下げたので、俺達も頭を下げた。姿勢を変えるのが辛いが、穏便にこの場をやり過ごさないといけない。

王女は怒りで顔を真っ赤にして、もう一度杖で床を打った後、大きく溜め息をついた。


「このままでは弟のティムトに先に越されてしまう。『勇者』!『聖女』、そしてお前達!ヴェスタリコラルに行け!

潜入し、遺跡を見つけたら一気に侵攻するのだ!遺跡を占拠するのだ。抵抗する者は皆殺しにせよ!」


王女の言葉にその場に緊張が走った。

今迄他国の遺跡を探していたというが、隣国のヴェスタリコラルに遺跡があるのか?


呆然として考えていたら、不意に背中をドンと押された。思わず床に手を付いてしまう。


「そこ!何をしている!」


指示を出し終えて、去ろうとしていた様子の王女が振り向いて、鋭い目線で睨んだ。


「おおっとぉ。この者が〜。大変失礼をいたしました〜。」

「うっ!」


本木がいきなり俺の怪我した右手を踏みつけて来た。俺は思わず呻いた。


「おや?もしかして、怪我、してるんでしょうか。まさかぁ。神聖な神殿でぇ、血を流したりぃ?」


本木が俺の腕を掴んで、布を巻いている腕を上に持ち上げた。そしていきなり布をはぎ取った。

本木に踏まれた衝撃で傷口が開き、掌から血がにじみ出ていた。本木は赤い染みが付いた布をヒラヒラとさせた。


「おお〜?これは〜?そんな、まさかぁ〜。」


本木はわざとらしい大声で悲劇的な声を上げた。武井さんが来て俺を庇うように支えて立ち上がらせてくれた。


「君、何やっているんだ!」


武井さんが強い口調で本木を諌めると、本木は悪びれずに大げさな口調で反論した。


「ボクはぁ、神聖な儀式の場を血で汚すのはイケナイことだと思って注意しただけですよぉ〜?ええ〜まさか反対意見なんですかぁ?

これ、いいんですかぁ?」


本木はねちっこい口調でそう言うと、赤い染みがついた布を、武井さんの頬に擦りつけてきた。


「ああ〜、血で穢れちゃったかなぁ〜。」

「なっ!」


武井さんが本木の手を払いのけたとき、ガン!と床を杖で打ち付ける音が響いた。

王女が大声で言う。


「静かにせよ!そして‥‥穢れは許さん!‥‥その者と、その者‥‥。『やや有能』と『魔導士』か。

構わん。即刻この神殿領域から出て行け!森に行け!その者は一日独房に放り込んでおけ!勝手に騒ぎおって!」


俺は愕然とした。

俺だけでなく、武井さんまでが追放を言い渡されたのだ。

追放されても,呪具がつけられている俺達は逃げる事は出来ない。魔獣が出るという森に捨てられ、動けなくなるということだ。

騒ぎをおこした張本人の本木は騎士達に両脇か腕を掴まれながらニヤニヤしていた。


コイツ、狂ってるのか?


「広田くぅ〜ん。あ〜ん、イケメンだったのにぃ〜。」


松井は松井でおかしい。「追放=死」と判っていそうなのに、言葉で残念そうにしているだけで動揺した様子もない。


「ああ,なんて事だ。やっぱりあの時‥‥。」

「そ、そんな‥‥。」


井伊さんとマミちゃんは、ショックを受けた様子だった。だが、止めに入るわけでもない。

俺と武井さんは、騎士達に追い立てられて、神殿から出された。血で穢れた者には神殿では触りたくないらしく、神殿の中に居る間は触れずに剣をちらつかされただけだった。

神殿を出ると、状況が変わり腕を掴まれて、荷馬車の所まで引き摺られるように歩かされた。

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