第221話 儀式前の騒動
彼らの去って行く後ろ姿を眺めながら、俺は松井から聞いた話について考えていた。
地球に帰れるかもしれない。
しかし、それは存在場所も判っていない他国の遺跡を使っての事だ。
遺跡を使う為に他国に侵略する予定のようだ。
侵略という事は、他国の国民を攻撃するということだ。怪我をさせたり、場合によって殺すこともあるかもしれない。
帰る為に、人を‥‥。
このままここで搾取されて一生を終えたくはないけれど‥‥。
‥‥いや、そもそも、他国の遺跡の場所が分かったとして、俺はそこまで行けるのか?
この神殿地域から出られないのじゃないのか?
グルグルと考えが巡る。
不意にぐにゃっと足から力が抜けて、膝をついてしまった。逃げ出したいという気持ちが浮かんだようだ。
俺は腕につけられた、ずっしりと重い呪具を見つめた。
そもそも帰れるような状態じゃないのではないだろうか。
絶望的な気持ちになりながら、手についた小石を払い落とした。
翌朝の早朝、何故か俺は再び地面に手を付いていた。
本木が俺を突き飛ばしたのだ。
本当に迷惑な話だ。
朝食用のパンを貰いに行った帰りに松井に声を駆けられた。松井は朝の挨拶をするつもりだけだったのかもしれないが
松井が俺に近付いて来て肩に手を触れたときには既に本木が走り出していたような気がする。
「おはよう」の「お」も発言しないまま、本木が俺を突き飛ばし、更に追撃しようとしたところに武井さんが立ち塞がった。
「やめなよ。これから儀式なんだよ。」
「ああん?引っ込んでろよ!ムカつくんだよ,コイツ!」
「今問題起こしたら処罰されちゃうよ。」
「‥‥。」
本木は怒りで頭が沸騰しそうな様子だった。何故そこ迄怒るのか理解はできないが。
「あれぇ〜?どうしたんだい?」
「勇者」の井伊さんが、マミちゃんと一緒に歩いてきた。
朝の光を浴びて、妙に爽やかな笑顔を浮かべている。
「喧嘩?だめだよ〜。怪我してない?」
井伊さんはそう言うと、マミちゃんに目配せをした。マミちゃんは頷いて俺の方に近付いて来た。
「あの‥‥。お怪我してたら治癒魔法で治療します。‥‥血が出ていると良くないので‥‥。」
「そうだよ。もし儀式の場で血なんて流してたら、追放決定らしいよ。前に騎士が返り血浴びただけで、追放されたってさ。怖いよねぇ。」
井伊さんは、そうい言って肩を竦めた。
俺は、この国に召還されて来たときの事を思い出した。血まみれの光景を見た。あのとき、血が手についた永見と河村が追放されていた。
尻餅をついた時、手に石が当り、掌が少し切ったようだった。マミちゃんが両手を組んで祈るようなポーズを取ったときに
本木が大きな声で言った。
「ええー?これから重要な儀式だっていうのに、貴重な魔力使っちゃっていいのぉ〜?そんなちょっとの傷でぇ?
そのせいで儀式失敗したって言われたらどうするのぉ〜?」
ビクッとマミちゃんが肩を震わせた。集中を解くように目を見開いた。
井伊さんは、「う〜ん。」と腕組みをして考え込む様子だ。
「そうだけどさ。少しでも、血が出てるとかまずいんじゃない?それに、少しの傷ならあまり魔力も消耗しないでしょ。」
「じゃあ、責任取れるのか? 必ず召還が上手く行くって保障するか?」
「いや、そもそも成功するか判らない儀式だろう。自分で突き飛ばしておいて、勝手ばかり言うんだね。」
「ああ?」
本木が片眉を大きく吊り上げて、井伊さんの胸ぐらを掴んだ。
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