第16章 広田1

第189話 サプライズイベント

「『有能者』が一人も居ない?どういうことだ!」



突然、目の前がもの凄く光って、超高層ビルのエレベータに乗ったかのような重力のようなものを感じたと思ったら、

訳の分からない場所にいた。



その日の前日の夜、クラス全員が入っているグループチャットじゃなく、「サプライズイベント」と題されたグループの招待が同じクラスの本木から来た。

承認したら、「3月14日朝7:00。サプライズがあるから全員集合」と書かれていた。

何のサプライズか聞いても返事がなかった。

クラスの他の皆も大体そのグループに参加しているようで、「サプライズ楽しみ」「なんだろうドキドキ」「ホワイトデーかなぁ」など、

イベント内容が分からないことについても肯定的なコメントが多く投稿されていた。

ホワイトデー?バレンタインに何かクラスで贈り合ったとかもなかったよな?


俺、広田桜威は学級委員をやってはいるけど、クラスメートが自主的に何か動いていることについて内容も確認せずに

「知らないイベントを開催するな」と強く言える程発言権があるわけではない。

それが、何か校則に違反することだと判れば止めに入るけど、「朝少し早く登校しよう」というだけの呼びかけなのだ。

内容を聞いても答えないのだから、当日行ってみて何か問題があるようなら止めに入るということくらいしかできない。


少し気がかりなのは、グループの招待をして来たのが本木だということだ。

本木は成績はそこそこ良くて、運動部でも活躍していて女子からも人気がある。でも、何となくだが本木は性格が悪い気がしている。


同じクラスに香住圭というやつがいるんだけど、香住は小さい時の怪我の後遺症とかで足を引き摺っている。

その事について、ちくりちくりと嫌みをいっているようなのだ。でも凄く微妙なラインで、注意しても「そんなつもりで言ったのではない。」と言われてしまえば、それ以上追求できない感じなのだ。

香住は香住で、本木に言いたげな様子だけどはっきり言い返したりしない。


最初、気の弱いいじめられっ子みたいな印象を受けたけど、結構飄々としている。成績は凄く良い。大体1位なんじゃないかと思う。

うちの中学はテストの順位を発表したりしないのだけど、職員室に行ったときに、「また一位だよ。」と香住が担任に言われているのを聞いた事がある。

そう言われても香住は静かに笑っているだけで、「次回も頑張ります!」みたいな意気込みを見せたりもしていないようだった。


成績優秀だから多少本木に言われてモノともしないのかなと思っていた。

しかし今回、本木がサプライズって、何か香住が関わってるのかと気になった。

考えているうちに深夜になってしまった。香住にメッセージでもおくって見ればよかったのに、深夜に送ったら失礼だよな、と思いとどまった。


そうして、翌朝早く学校に向かう途中、道路を挟んで向こう側に香住の姿が見えた。一人だった。

いつもは、同じクラスの永見瑛太や柏木悠宇と一緒に登校していたはずだ。いつも通学時は彼らが一緒に歩いているので,待ち合わせをしているのかと聞いた事がある。

そうしたら、永見が香住の家に迎えに行っているとのことだった。


永見は香住の従兄弟らしくて、香住が足の怪我で歩くのが遅い事で、通学途中に誰かにからかわれたりしないようにガードしているらしい。

それなら安心だと思っていたのに、何で香住が一人で歩いているんだろう。

永見はどうしているんだ?


スマホを取り出し、永見の連絡先を探す。永見のやつ、グループチャットでの名前をあだ名にしていたらしくて、以前やりとりしていたメッセージの内容を一人ずつ確認しないと


どれが永見の宛先か判別できない。

連絡先を探すのに手間取ってしまったが、なんとか永見の連絡先を見つけて連絡してみた。


『朝早くクラス全員集まるのに、香住だけ一人で歩いて来ているようだが大丈夫なのか?』


永見からの返事はすぐに来た。全員集まるなんて聞いていない、と。


は?どういうことだ?何が起きている?


柏木にも同じように連絡をしてみたら、こちらも同様に、全員集まるなんて連絡は来ていないという。


慌てて、「サプライズイベント」のグループの参加者を確認してみたら、永見も香住も柏木もメンバーには入っていなかった。

どうなってるんだ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る