第185話 普通の風呂
出迎えの挨拶を済ませた後は、新しく開拓村に加わった四人と戻って来た尾市さんが、領主の執務室に挨拶に向かっていった。
彼らが挨拶をしている間に俺達は、夕食の準備に加わるために厨房へと足を速めた。
ライアンさんが到着当日はライアンさん一家と一緒に夕食をとろうと言ってくれたのだ。だから、離れの厨房で下ごしらえをした料理を屋敷の本館の厨房へ運び込んだ。
ライアンさんへの挨拶が終わった彼らを離れの部屋に案内した。
「へえ‥‥。離れなんだ。思ったより立派な建物だね。」
柄舟さんが、離れの前で建物を見上げて言った。建物は少し年季は入っているけれど、二階建てでしっかりとした作りでこれだけでアパートとして成り立ちそうな感じだ。
「もっと,掘っ建て小屋とかを想像してました?」
「うん‥‥、まーね。」
前の男爵の別荘だった建物で、なんて説明をしながら部屋に案内した。
「夕食を本館でライアンさん一家と食べることになったんで、一風呂浴びて着替えてきてもらえますか?」
「おお。領主様と食事ね。オッケー。井戸どこ?」
「井戸っていうか風呂に案内しますので、部屋に荷物置いたら着替え持って出て来てください。」
「風呂!?流石、貴族!」
風呂って言ったら、江角さん達が目を丸くした。
シャツを持って部屋から出て来た彼らは何だかワクワクした様子になっていた。
尾市さんは椎名さんと柊さんを案内している。あちらの準備ができたので、合流した。
「風呂は一階です。風呂沸かし当番は交代なんで、今度担当お願いします。」
「自分達で沸かすのか‥‥。勝手に入っていいの?」
「利用出来る時間帯を決めてます。ざっくりいうと領主様一家、使用人の順です。男女別にしてあるのでそこは気にしなくて大丈夫です。今日は来たらすぐ利用してもらおうと思って調整してます。」
「おお、すげー。」
一階に降り、裏手の井戸に続く勝手口の隣に、風呂場の入り口がある。
「ぷ。」
入り口を見て、江角さんが吹き出した。
ウケるとは思ったけど、吹き出す程だろうか。風呂場の入り口は二つ。二つの入り口の前にそれぞれ「男湯」「女湯」と書かれた青と赤ののれんがかかっている。
一応ちゃんと説明しないとね。
「当然ですけど男湯に入ってくださいね。掃除も男女分けてるんで。」
のれんをくぐりガラガラと引き戸を開ける。扉を開けるともう一つ長いのれんがかかっている。そこをくぐると下駄箱があり、スリッパに履き替える。スリッパと言っても草履のように編んだものなんだけど。
「ここでスリッパに履き替えまーす。で、脱衣所です。まあ見たまんまですけど。」
入り口から一段上がった所に脱衣所があり、棚の中に籠がおいてあり、そこに着替えを入れるようになっている。
脱衣所の奥の扉を開けると、浴室があり、大きな湯船がある。そして浴室の壁には色付きの石を敷き詰めて描いた富士山がどーんと待っているのだ。
「カポーン」
柊さんが驚いた様子で変な擬音を口走った。
「まんま風呂じゃん。」
「そりゃ風呂ですから。」
大変だったんだよ!作るの!
圭が風呂釜の構造だとか、水の引き込み方の案とか、細かく書いていたからね。凄く頑張ったんだ。特に女子達は風呂への思い入れが強くって、優先順位がメチャクチャ高い案件だった。
「一応言っておきますけど銭湯と同じようなルールなんで。身体を洗ってから湯船に入ってくださいね。シャンプー、リンス、石鹸やらは置いてあります。」
「シャンプーまであるのかよ。」
「あ、一般的なシャンプーに比べると泡は立たないと思います。」
「いや、シャンプーとかあるだけでもう‥‥。」
「どうみても普通の風呂なんですけど!」
「普通の風呂ですから。」
何か妙なテンションで「普通だ」「普通だ」と言いながらあちこち見ている彼らに、夕食の時間までに上がって欲しいと伝えて、早く風呂に入ってもらうように促した。
一応、夕食後にもう一度入ってもいいから、早めに上がってくれと付け加えておいた。
かなり長い間風呂というものには入っていないと思うから何回も洗いたくなっちゃったりしそうなんだよね。
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