第15章 瑛太6
第184話 ようこそとおかえり
「だから〜、皆での方がいいと思うよ。」
「でもさぁ。彼らは直接圭を知ってるわけじゃないじゃん。」
日本カレンダーで3月半ば近くの午後。ぐつぐつと鍋で小豆を煮ながら、藍ちゃんと話をしていた。
手書きカレンダーで今日は3月13日。明日は3月14日。
日本ではホワイトデーとかでお菓子屋さんが賑わう日だけど、俺達にとっては、この世界に召還されてしまった日であり、そして圭の命日でもある。一周忌だ。
圭の命日をどうするかで藍ちゃんと話し合っていた。俺としては、お坊さんを呼べるわけでもない。お墓があるわけでもないから静かに祈りを捧げるだけなので
生前の圭の事を知っている俺と藍ちゃんで、和菓子でもお供えして祈ろうと思っていたんだ。
でも、藍ちゃんは、緒方さんや真希さん、ワイちゃん、ライアンさんも呼ぼうという。
でも彼らは、圭の死後に知り合った人達で、圭を直接知っているわけじゃない。
呼ばれても困るんじゃないかって思ったんだ。
「ねえ、声だけでもかけてみようよ。ね?」
藍ちゃんが俺の顔を見上げて小首を傾げた。くっ‥‥可愛い。
藍ちゃんの可愛さに絆されたわけではなくっ‥‥、声をかけてみて、線香の一つでもあげようとする人がいればそれでいいじゃないかと思い
声をかけてみることにした。まあ線香はないんだけどね。
そんな話をしていたらワイちゃんが台所に飛び込んで来た。
「ねえ!尾市帰ってくるって!なんと!江角さん、柄舟さん、椎名も一緒!あとピーラギも!」
「ピーラギ?」
「あ、柊のこと!そういうあだ名だったんだ。今ね、先触れって奴でお知らせがあったんだって。後1刻と少しくらいって言ってたから、2時間ちょい過ぎくらい?」
「おお‥‥!」
「急に大所帯になるね!」
俺と藍ちゃんは顔を見合わせた。ワイちゃんに少し小豆の鍋を見ていてもらって、食糧在庫のチェックを始めた。
「お豆腐あるけど全員分の冷や奴には足りないかな。」
「そうだね。それじゃあ‥‥!」
「あー!ワイちゃんも!私も何か作る!」
「ワイちゃん、小豆の鍋見てて〜!」
「あいよー!」
バタバタと騒ぎながら出迎えの準備を始めた。
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日暮れ前には到着するかと思ったけど、商隊の馬車が到着した時には日はとっぷりと沈んでいた。
先触れを出した後にこちらの出迎えの準備に余裕を持たせる為に少し休憩をしたらしいんだけど、休憩途中で魔獣が出る騒ぎがあって、思ったより時間を費やしてしまったそうだ。
「おかえりなさーい!」
ワイちゃんが屈託なく両手を大きく振って出迎えた。「おかえり」なのは尾市と商隊の人達だけで,江角さん達は「ようこそ」だと思うんだけど、歓迎の意を汲んだのか皆笑顔だ。
とっぷりと日が暮れた村は、家々の窓から灯りが溢れて見えるけど、畑の方角は真っ暗だ。
もう少し早く着けば、畑を見せてあげられたんだけどな。まあこの時期は種まきの時期だから、見てもなにもないけどね。
「ようこそ。尾市さんはおかえりなさい。」
「瑛太、元気だったか?皆ホント日焼けしたなぁ。」
「あはは、まあ外に出てる事が多いですからね。」
江角さん達だって多少日焼けしてると思うんだけど、俺達の方が断然日焼けしてる。こちらの方が日差しが強いのかな。
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