第183話 国境の街を後にして

はぁー‥‥‥。それじゃあ石倉は、越前麻美が三輪に想いを寄せてはいるけど、三輪の好みのタイプじゃないってことがわかってたのか。それなのにわざわざ、三輪に越前の気持ちを知らせたのか。それも同級生達が何人も居る前で‥‥。


なんだ?それって‥‥。石倉自身が三輪の事が好きだったんだよな。だから、皆の前で越前の三輪に対する気持ちを公表することで、三輪に越前を振るように仕掛けたってことなのか?酷くないか?

何でそんな事をする必要があるんだ?


異世界召還で中断しちゃったわけだけどさ‥‥。


だから罪悪感なの? ‥‥それって、本当に罪悪感? 


石倉の真意は知らんけど、石倉が召還者の救出にこだわってるのは、越前に対してだけで、他はどうでもいいんじゃないのかな。日本人全員を救いたいなんて言ってたけどね。越前が見つかったら、もう他の人を救出しようって言わなくなるような気がしてきた。


越前は気の毒だけどさ。石倉がそんな超個人的な気持ちで江角さん達を引き止めようとしてるとかだったら、全く意味判んねえよ。泣き落としとかしてないで自分でやれって話だよなぁ。


石倉が黙ってしまったので暫く沈黙が流れた。御者さんが出発して良いか判らずに困ったように振り返ってる。


どうしようかと思ったら、江角さんが御者さんに目配せをした後、石倉と三輪に向かって言った。


「それが石倉ちゃんの救出したい理由かどうかは置いておいて‥‥。俺らはさ。自分で選んだ人生を生きたいんだよ。あの国の事情に振り回されずにね。」

「‥‥。」

俯いていた石倉が、顔を上げて江角さんを見た。ちょっと泣きそうな顔をしている。江角さんは優しく諭す様に言葉を続けた。


「だから‥‥、今はここを去るよ。君達も、ずっとあの国の事に振り回せていても辛いだろう?今後の事はさ、もう一度良く考えてみてごらんよ。」

「‥‥。」

「ね?」

「‥‥。」


少し力が抜けたように石倉と三輪が頷いた。江角さんは微笑んで、御者さんに向かって頷き、馬車の扉を閉めた。そして窓から顔を出して小さく手を降った。


「じゃあね。またいつか。」


馬車が再び動きだした。

見送っている石倉と三輪の目は、なんだか切なそうだった。



ルース達はかなり前方の方に移動していて、馬車が近くを通るのを待っていた。

馬車が彼らの傍を通ると元気に手を振ってくれる。笑顔で見送られる方がやっぱり気持ちがいいね。

ルース達がいてくれてよかったよ。


馬車が宿から遠ざかり、見送ってくれているルース達の姿が小さくなって行く。俺は窓から身を乗り出してルース達が見えなくなるまで手を振った。


石倉達やルース達の姿が完全に見えなくなってから俺は座席に座り直して、大きく息を呼吸をした。そして馬車の中を見回す。江角さん、柄舟さん、柊さん。皆穏やかな表情で馬車に揺られている。


柊さんは後から加わってたけど、最初に神殿地区から逃れて来たメンバー全員がツェット領に向かう事になった。



ここからまた新たな日々が始まるような気がした。

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