第186話 歓迎和定食
「はー、もう極楽過ぎる‥‥。」
風呂から上がってきた彼らは、何だか毒気が抜けたみたいになっていた。
ホカホカしながら風呂の余韻を楽しんでいる様子だ。
「風呂、何ヶ月ぶりだろう‥‥。」
「落としても落としても‥‥。」
「何か色々洗い流された気がする‥‥。洗い流されて溶けてしまいそう。」
風呂を気に入ってもらえて何よりだった。さて次は夕食だ。
風呂上がりは緊張が解けていたようだったけど、夕食の為に本館の晩餐室に案内をした時には、きっちりと着替えていて緊張感がある様子に戻っていた。
「領主邸の食事って貴族の晩餐ってことだよな。どんなだろう。」
「肉‥‥とか‥‥?」
「大雑把過ぎ。」
晩餐室に案内する間に、少しだけヒソヒソとそんな会話がなされていた。さて、夕食のメニューは気に入ってもらえるだろうか。
晩餐室には長い大きなテーブルがあり、奥がライアンさんの席で、ライアンさんに近い側の側面がライアンさんの家族の席となっていた。
今日は赤ちゃんのケイン君は別の場所でのお食事らしい。
側面の奥側に先に開拓村に来たメンバーが座り、手前側に来たばかりのメンバーが腰を下ろした。
ライアンさん一家の席に食前酒が配られる。俺達は果実水だ。この国では15歳で成人なので、お酒飲んでもいいんだろうけど、飲み慣れないものを飲んでうっかり酔っぱらってしまっても困るので果実水にしてもらっている。
「ツェット領にようこそ。よく来てくれた。」
ライアンさんが挨拶をして乾杯の音頭をとってくれた。
「今日は、シェフが君達の国の食事になるべく近いものを用意したものだ。」
ライアンさんがそう言うと、料理が各席に配膳された。
野菜の煮物と人参のきんぴら、ほうれん草の胡麻和え。茶碗蒸し。豚肉の生姜焼き。キノコの天ぷら。白米ご飯。油揚げとネギの味噌汁。デザートはサツマイモ団子の小豆ソース和え
懐石料理とか考えるのは時間的にも技術的にも厳しいので、ちょい豪華定食的な献立にしてみた。
新メニューは大抵シェフにもレシピを教えて作ってもらっているので、今日の和定食みたいなものでもシェフ主導で作ってもらえるのだ。
「白米!」
「マジ、ご飯だ!」
「味噌汁〜」
「え、ここどこ〜夢〜?」
白米ご飯をみてビックリしてもらえれば大成功だ。
この日の分として、昨年収穫した数少ない米を確保してたんだからね。
和食と言ってもまだ、鰹節や煮干しが手に入らないから、椎茸っぽいキノコの出汁と、昆布出汁だけだ。昆布は、乾燥したものが何とか手に入ったのだ。
最初は驚いて,何度も料理を凝視していた彼らだったけど、一口食べたら凄い勢いで食べ始めた。
「はあ‥‥、まさかまさか米が食べられるなんて‥‥。」
「正直言って開拓村っていうから何もないのを覚悟してたのに‥‥。」
「極楽浄土じゃん。」
一気に食べてから落ち着いて来たのかデザートは少し食べる速度が遅くなった。椎名さんが木の匙でサツマイモ団子をすくいながらしみじみと言った。
彼らが食べる様子を呆気にとられてみていたディーン君がふふっと笑った。
「ニホンという国ではいつもこういう料理を食べているのですか?とても美味しいですね。」
「いや、これは少し豪華な感じですよ。」
柄舟さんがディーン君に説明をしていた。
「満足してくれたかね。」
ライアンさんが言うと、皆頷いた。元々の開拓村組メンバーも頷いている。良かった。
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