第171話 同郷探し
受付のお姉さんに洗濯袋の中の衣類を確認してもらっている間、客室に続く通路の入り口をチラチラと見て確認していた。
椎名とか江角さんとか知っている人が出てくるかもしれないとちょっと期待を込めて。
「はい。シャツが12枚とボトムズが6枚ね。こちら間違いなければサインをお願いね。」
台の上に重ねられた衣類の数と受付票の記載を確認してサインをすると受け取り札を渡された。
渡しながら受付のお姉さんが嬉しそうに笑った。
「ラッキーね。ちょうどツェット商会が来たから、洗剤が入荷したの。洗い上がりが凄く良くなるわよ。」
「そうなんですか?」
「そうよ‥‥って、あら、ツェット商会の方ね。失礼しました。」
受付のお姉さんの話ではツェット商会で何ヶ月か前に発売した洗濯石鹸が、非常に良く汚れが落ちると人気で品薄なんだそうだ。
ツェット商会がこの宿を定宿にしている繋がりで優先的に卸してもらっているらしい。
すでに前回入荷分が底をついていたそうで、商会が到着するのを待ちわびていたそうだ。
「あの石鹸は本当に良いわぁ。真似した製品が出始めているけれど、泡立ちが違うのよぉ。」
「好評なようで良かったです。」
受付のお姉さんがべた褒めしている洗濯石鹸は圭君が遺した資料を元して作った物で、原料の植物油も圭君が用意していた種から育てたって話だ。
種を用意してたってどういうこと?って思うんだけど、そのおかげで俺達の生活は劇的に進化してる。主に食生活だよな。
米が食べられるようになったのは本当に感動したけど、それだけじゃない。味噌や醤油も作れるようになったし、菜種や大豆から植物油が採れるようになって揚げ物も食べられるようになった。当然、味噌や醤油の作り方も圭君の資料からだ。
圭君って何者?って度々思う。ワイちゃんは、「サスケイ、サスケイ」って言っているけど、ホント、サスケイだよ。
瑛太達が召還されて来た時は俺も椎名も呪具で制御されていて思考力が低下していた時だったし、召還の儀式の場の中心からはかなり離れた所にいたので
あの時は血が飛び散って誰か亡くなったという認識がぼんやりあった位だった。
だから顔さえ見てないんだけど、存在感は大きい。
他県で発生していた行方不明事件を異世界召還だと考えていたから準備万端だったってことみたいだけど、
それにしたって、ここまで準備するって驚く程だ。あの家族からの手紙や動画とかもね。あれは本当にありがたかった。
全く交流すらなかった圭君が家族の手紙を俺達に見せてくれようと思って準備してくれていたんだと思うと涙がでそうになる。
あの動画が何故、呪具を解呪できるのかは謎だけど、動画自体は今でも時々再生してみている。
バッテリーが完全に切れてしまったらもう見られなくなるんだろうけどね。それまで目に焼き付けておこうと思う。
そんな圭君資料から開発された商品をツェット家の商会が定期的にこの国境の街までも運んできていて、今回は俺はその商隊に同行させてもらったわけだ。
洗濯石鹸のおかげか、フレンドリーな態度の受付のお姉さんに、椎名達の事をちょっと聞いてみるか。
「あの、ここに俺の同郷の人達ってまだ泊まってますか?ツェット家が宿を紹介してたんだと思うんですけど。」
「ツェット家ご紹介の方達?ずいぶん前に宿を出られたわよ。」
「‥‥あ、もう宿を出てるんですか。」
すごくうっかりしていた。てっきり椎名達はまだこの宿に泊まっていると思っていたんだ。
よく考えたら、俺だって初日から宿を出て部屋を借りる事考えていたっていうのに。そりゃ長く街に居るなら、部屋を借りた方が生活費は安くなるよな。
俺がショックを受けた顔をしていたからか、受付のお姉さんが心配そうな顔をしてみていた。
落ち着くように自分に言い聞かせる。
そうだ、ロッシュさんは普通に会えそうな事を言っていた。何ヶ月か前もここに来ているはずなのに、だ。ということは居場所を知っているのではないか?
前回、確か江角さんと柄舟さんから緒方さんへ手紙を預かって来たって言ってたよな。
そうだ、きっと江角さん達には連絡が取れるはず。
自分に言い聞かせるように呟きながら早足で馬車の所に戻って行った。
「うん?彼らの連絡先?エスミとエフネのは知ってるよ。他の子は知らないけどエスミ達が知っているんじゃないかな。まあ、この街にいて狩猟ギルドに出入りしていそうなら、
狩猟ギルドで伝言頼めば伝えてもらえると思うよ。」
馬車の所で積み荷の確認をしていたロッシュさんに声をきいてみたらそんな事を言われた。なるほど、狩猟ギルドに伝言か。
一応エスミさん達の連絡先は教えてもらって、後で狩猟ギルドに行ってみることにした。
宿での荷運びや手続きの手伝い等が終わってから、狩猟ギルドに向かおうとしたら呼び止められた。
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