第172話 国境の街の屋台
「ビーチ君、街久しぶりだから忘れちゃった? 一人歩きダメだヨ。」
商隊の護衛で同行しているシグマさんに注意される。
そうだった、この街は一人歩きしちゃダメだって言われていたんだった。
江角さんに以前、街中が海外旅行の先の裏通りみたいな感覚だよなんて言われたけど、海外旅行なんてした事ないから、その例えは今ひとつピンと来ない。
でも、この街に長く住んでいる人でもほとんどの人は一人歩きしないということはわかっている。
見るからに屈強そうな上位ランクの狩猟ギルド員なんかは一人出歩いていたりするけどね。
ほとんどトラブル防止の為にも一人歩きはしないんだった。
「何処か行くの?今日は予定ないし一緒にいってあげるヨ。」
「あ‥‥どうも‥‥。」
シグマさんは、20代半ばくらいで狩猟ギルドのランクも結構上の方。屈強って程じゃないけど、細身で敏捷そうな感じだ。
一緒に歩いていれば安全度は増すだろう。ああ、でも召還者同士の方が気が楽だったな。
商隊に一人で同行したことを少しだけ後悔した。
「狩猟ギルド?ボクも依頼達成報告があるから丁度行くヨ。」
「ああ、それなら一緒に行きます。」
単に俺に付き合わせちゃったら申し訳ない気がするけど、シグマさんも狩猟ギルドに用事があるなら少し気が楽だ。
狩猟ギルドに同行する事にした。
「ビーチ君は狩猟ギルドの依頼を受けてたわけじゃないんだよネ?」
「はい。友達と連絡取れるかなと思って。」
「ああ、なるほどネ。」
シグマさんはツェット商会と専任契約をしている狩猟ギルド員だ。
専属契約をすると、他の指名依頼などを受けなくてよいらしい。この街から開拓村に向かった時も同行していた人で
年も離れていたしそんなに親しくしていたわけじゃないけど、ちょっと顔見知りの安心感があった。
狩猟ギルドに行く途中に街並みを眺めていると、見覚えがある街並だけど以前より少し活気があるように見えた。
「あ、屋台‥‥。」
パンを薄く切ってソーセージを乗せた物を売っている小さい屋台があり、人が集まっている。
「この街でも人気だヨ。」
シグマさんがにこやかに行った。
あ、ツェット商会の店の出店か。よく見ると屋台の後ろの店がツェット商会の店だ。実演販売的なものだったのか。
近くに来るとソーセージを焼く香りがしてきた。
「違いがあるか試しに食べてみル?」
シグマさんが言う。そういえば、他領に店が出たとは聞いた事があるけど食べた事がなかった。
昼下がりで小腹も減って来ているので一つ食べてみる事にした。
「二つちょーだいヨ。」
シグマさんが銀貨を1枚屋台の人に差し出した。銀貨1枚で2つ分の値段だ。慌てて銅貨を差し出すと、いいヨいいヨと手で制された。
大きめのパンをスライスしたものに焼いたソーセージを乗せたものだった。普通に美味しそうだ。
「はいよ。二つで銀貨1枚だ。」
「マスタードはないノ?」
屋台のおじさんがソーセージパンを差し出すと、シグマさんが尋ねた。屋台のおじさんが「あー」と少し困り顔をする。
「すまんな。マスタードは切らしてるんだ。人気過ぎて今は店の方でも入荷待ちだよ。」
「そーなんだネ。」
シグマさんは、納得したように頷いて商品を受け取り、俺に一つ差し出してくれた。
持った感じパンも柔らかい。これを売り出すようになったんだな、とちょっと感動した。
歩きながらソーセージパンにかぶりついた。ニンニクとバジルかな。ハーブはやや控えめで塩気も薄めかな。胡椒は使っていなさそうだ。
でも肉がジューシーだしなかなか美味しい。
「旨い。」
「おいしーネ。マスタードも有ると良かったけド。」
「マスタード、人気あるんですか?」
「らしいヨ。美味しーからネ。ボクはマスターマヨも好き。」
「ああ、あれも美味いですね。」
マスタードとマヨネーズを合わせた調味料はパンに塗ってオムレツはさんで食べたりすると美味いだよな。
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