第14章 尾市1
第170話 再びの街
ガタゴトと馬車が揺れる。
馬車の窓から差し込んでくる日差しが温かい。もう春が近いんだよな。
この世界に来てから2回目の春だ。何て事を季節が変わる度に考えているんだけど。
俺、尾市尚人は、今ツェット領の「開拓村」から国境近くの街まで移動する馬車に乗っている。
ドコン!ドコン!ちょっと道が悪い所を通ると振動が尻に伝わってくる。
これでも、タイヤとかサスペンションとか可能な限りの馬車の改造はしたんだけど、道が舗装されていないのはどうしようもないんだよな。
ライアンさんの領地に向かうまでの間はずっと荷馬車の荷台で旅していて、乗り心地なんて全く良くはなかったけど、大抵常に仲間とワイワイやっていたからか、そこまで気にならなかった。まあ,尻やら腰は痛かったのは確かだけど。
でも、こうして他人とあまりしゃべらずに、一人で馬車に乗っていたりすると振動とか気になるもんだなと思う。
馬車にはツェット家の使用人の人とか顔見知りの人が乗っているので、全くしゃべらないという訳じゃない。
でも父親より上くらいの年齢の大人ばっかりで、気軽に話しかける雰囲気でもなくて、必要最低限の会話になってしまっている。
「ビーチ君。」
その中でもわりと頻繁に俺に話しかけて来てくれるのは、ライアンさんの侍従のロッシュさん。侍従というには筋肉質すぎるというかボディービルダーっぽい。
浅黒い肌で、ニカッと笑うと白い歯がキラリとする。
「国境の街で同郷の人に会った場合のことなんだけどね。開拓村の詳細は言わないで欲しいんだ。」
「え?どういう意味です?」
「開拓村は君達が来る以前に比べて、数段発展している。食糧は充実しているし、農産物を領外で売ったおかげで経済的にも潤っている。でもね、『楽が出来そうだから行こう。』って思われちゃうと困るんだよ。
来てみて想像したより発展しているって思われるのはいいんだけどね。」
「なるほど。」
食糧豊富なんて言っていたら、三色昼寝付きと思われるかもしれない。でも実際は農作業したり、他の生産物だって製作したりと自分達で作り上げて行かないと成り立たないんだよな。
その認識が甘い人を連れて行きたくないということか。
「前回来たときもね。『開拓村なんかでこき使われたくない』って言っている子もいたよ。
まあ、こちらは行きたくないという人を無理に連れて行く気は全然ないのでね。
寧ろやる気のない人に来られると困るんだよ。だから何もない所からでもイチからやっていこうという気概がある人だけ連れて行きたいんだ。」
「そうでしたか。分かりました。」
以前からライアンさんの領地に誘うのは、それなりに自立していて働く意欲を見せて認められたメンバーだけだったから特に違和感はない。
ただそうなると今国境近くの街に滞在している人達は、自立はしていても開拓村に行きたくないと思っているということなんだろうか。
椎名はどうだろう‥‥。
まあ、椎名のことは仲間と思っているから気にはなるけど、人生背負えるわけじゃないからなぁ。
そんな事を考えながら、何日も馬車に乗り続けて隣国との国境近くの街に辿り着いた。
商隊の馬車三台が、見覚えがある宿の前に停まった。
宿の人達がずらりと並んで出迎えている。
ロッシュさんが宿の主人と挨拶をしている間、俺は他の人達と馬車から荷物を運び出す作業をする。
「ビーチ君、洗濯頼みに行ってくれる? 宿泊札と一緒に洗濯袋持って行けば通じるはずだから。」
「あ、はい。」
ここ数日分の洗濯物が入った袋を渡されて、宿の受付まで背負って行く。
以前なら自分達で洗濯していたけど、商隊では宿に別料金を払って依頼をする。俺のシャツも入っている。でも下着は自分で洗うので別にしてある。
「すみませーん。洗濯お願いします。ツェット商会の分です。」
「はーい。ここの台においてね。今確認するから。」
見覚えがある受付にお姉さんに言われて、宿の受付の横に置かれた台の上にどかっと洗濯袋を置いた。
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