第169話 帰還を待つ

実のところ、以前にも一度ツエット家の商隊が何度か国境付近に赴いていて、その度に商隊は国境の街に寄って彼らの様子を見に行っていたらしい。その際に召還者達の何人かに領地に来るかどうかの意思を確認していたんだそうだ。何人か、と声をかけるのが全員でないのは領地に呼んでも良いと思える人物にだけ声をかけているからだそうだ。誰がどうとかは聞いていないんだけどね。


しかし、過去に訪れた際には国境の街での生活を切り上げてライアンさんの領地に行くと意思表明をした人がいなかったらしい。


江角さんと柄舟さんも、だ。でも彼らは緒方さんへ手紙を書いて商隊に預けていた。


「もう少しだけ、召還者の救出する方法を探る。」


手紙にはそんなことが書いていたそうだ。納得いくまでやるのか、彼らの中で期限とか条件を決めているのかはわからない。


だから、危ない事をしないかは気がかりだけど、いずれはこちらに移り住む意志があるように感じていた。

でも、椎名さんを含む他の人達からは特に何のメッセージもなかった。それで尾市さんは椎名さんの事を心配していたのだ。今考えると、こちらからも手紙を送れば良かったのかもしれないけどね。


何か事件や事故があったら江角さん達の手紙にも書かれるだろう。特にそう言う知らせはないから、そう言った事ではないんだろうとは思ってはいたけどね。様子が分からないから心配ではあるよね。


そうして春が近くなったとき、尾市さんは自分で様子を見に行こうと思い立ったらしい。ツエット家の商隊が国境の街に行くという予定を聞いて、尾市さんは商隊の馬車に同行することを志願したんだ。出発してから結構日にちが経っているから、そろそろ戻ってくるのかなと思うけど。‥‥待っていると時間が長く感じるよね。


「‥‥まさか、あっちが気に入って残りたいって言い出すとか?」

「ないない。」


俺が少し不安になって呟くと、緒方さんが笑った。


「米求めて帰ってくるだろ、あいつなら。」

「確かに。」


尾市さんの米への思い入れは結構強い。

昨年の秋はまだ米の収穫量は少ないというのに,脱穀機やら米関連の道具類の作成にかなり力を注いでいた。

尾市さんDIY得意なんだよね。色々な道具を作ってくれたんだ。


他の召還者達がもっと早くツェット領に来るかなと思ってたのに全然来ないし、尾市さんが戻ってくるのかちょっとだけ心配になる。

まあ,他の召還者を助けたくなったり、狩猟ギルドでの魔獣討伐に専念したいとかだったら仕方ないんだろうけどさ。


でも、尾市さんは今ではすっかり大事な仲間になっているから、ちゃんと帰って来て欲しいなとは思うんだ。


帰って来たら、藍ちゃんにもう一度度桜餅を作ってもらって尾市さんに食べさせて上げたい。いやもしかして柏餅の時期になっちゃうのかな。

そんな事を考えながら、桜餅を口に頬張った。

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