第166話 命名
「ほう〜、これが異世界の料理なのか。」
お会いした侯爵様は、思ったより屈強そうな雰囲気だった。「敏腕社長」みたいなイメージでいたんだけど「将軍」って感じ?
青い鋭い瞳を俺に向けて来た。
「君がこの料理のレシピをもたらしたと聞いたが。料理の知識が豊富なのかね。」
「俺というより、圭が‥‥従兄弟の持っていたレシピからなんです。」
「ああ、亡くなったという少年か‥‥。オスタリコラルも酷い事をしたものだね。」
「‥‥。」
圭の事を話すと、未だに目の奥とか鼻の奥とかが熱くなってきてしまう。それを察したのか藍ちゃんがそっと背中に手を添えてくれた。
「その少年は素晴らしいレシピを我が国にもたらせてくれたのだね。この色鮮やかなソースも?」
「あ、はい。圭が野菜の種を持っていたので。栽培方法も書き残してくれていて。」
「なんということだ。豊富な知識を持っていたであろうに。本当に惜しいことだ。」
侯爵様は、悲しげな顔をして頷いた後、スプーンを手にしてスープを飲み始めた。
食事中は、あまり重苦しい話題にしないようにという配慮なのか、こちらの国の食事情だとか、イグレック領にできたベーコンドックの店の繁盛ぶりなどが
話題となった。
「あの『粒マスタード』というものが非常に気に入っていてね。焼いた肉には必ず添えているよ。長男のロアンも嵌っていたよ。
長男一家も来れれば、この料理にも嵌っただろうなぁ。」
侯爵様が話をしている間、イーリアさんの奥様は黙って微笑んでいる。イーリアさんにはお兄さんがいるそうだけど、今回は留守番だそうだ。
一家で来たいけど、跡継ぎだから留守番して領地を守っているらしい。
侯爵夫妻は食事に凄く満足してくれたようだった。
「大変美味であった。異世界の食というものは興味深いな。それに、食材もだ。
短期間の間に、これほど美味な食材を生産するようになるとは思っていなかったよ。
なんと言っても砂糖だな。国内で生産出来るようになった功績は大きい。来期の議会で推薦をしておこう。」
侯爵様は最後にチラリとライアンさんの方を見た。
「義父上‥‥。それは‥‥。」
「議会で通れば昇爵となるだろう。今後も期待をしておるぞ。」
「はっ。ご尽力感謝いたします!」
食事を終えた後の席で、そろそろ退散させてもらおうと思っていたんだけど、侯爵様とライアンさんが何か重要そうなことを話してる。
昇爵って、爵位が上がるの?
食事が美味しかったから?いや、さすがにそれはないか。
会話が途切れないと退散する挨拶もできないので、少し待っていると侯爵様がニコニコして俺達の方を見た。
「数々の製法と食材をもたらした君の従兄弟の名はなんと言ったかね。」
侯爵様が俺を見て言う。
「え‥‥、圭‥‥ケイといいます。」
「ケイ、か。ライアン、候補の名前に近い名がなかったかね?」
侯爵様がライアンさんの方に手を差し出した。
「はい‥‥。この中ですと『ケイン』でしょうか。」
ライアンさんが懐から筒状に丸めた羊皮紙を出して広げ,侯爵様に見せた。
「うむ。大いなる知識をこの地にもたらした者の名にあやかるのはどうかな。」
「はっ。ご命名感謝いたします!」
ライアンさんとイーリアさんが侯爵様に頭を下げた。ディーン君とジーナちゃんも遅れて頭を下げている。
どうやら、産まれた赤ちゃんの名前の候補の中から侯爵様が名前を選んだらしい。この国では、候補の中から当主だとか祖父母が名前を選ぶという事がよく有るらしい。
親が決められないの?って思うけど、親は候補を挙げているし、もしもどうしても親が決めたい場合は候補を一つだけにすればいいんだって。まあ、そうか。
そして明日命名式が行われるんだそうだ。
侯爵様が尋ねて来たのは、命名式に出席する為でもあったんだって。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます