第167話 もうすぐ一年
いつのまにか赤ちゃんの名前が、圭の名前にあやかったっていう名前になってしまったみたいだ。よかったのかな?
元々幾つも候補があって、近い名前で選ばれただけだから、無理にその名前になったというわけじゃないけどね。
なんか圭のことを「大いなる知識をもたらした者」って賢者っぽいイメージを持たれているようだ。
圭も地球の知識を書き留めただけではあると思うんだけど、俺達も恩恵にあずかっているから、すごい功績だよなぁ。
圭、ここに居たらよかったのに‥‥。
考えるとまた鼻の奥が熱くなってきてしまう。
いかん。
そんな流れで翌日ライアンさんとイーリアさんの次男の命名式というものが行われた。
教会から司祭様が来て、名前の書かれたものをと赤ちゃんの前で司祭様が祈るという儀式だ。その場で身分証も発行されるそうだ。
庶民の場合は、自分達で教会に出向いて行って儀式を行うんだって。
教会が市役所の窓口みたいな役割をしているのかな?
命名式は領主邸の一室で行われた、俺達も隅っこの方で参加させてもらえたんだけど、参加しちゃってよかったんだろうか。
厳かな雰囲気だった。離れた場所からだけどライアンさんの腕の中に抱えられた赤ちゃん、ケイン君の姿が少しだけ見えた。
遠くからだし髪の色とかもわからなかったけど、ライアンさんはとても大事そうに愛しそうに抱えているのがわかった。
祝福されている赤ちゃん。その子に圭にあやかった名前がつけられたんだ。どうか幸せになって欲しいと、願った。
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春。
毎日付けている手製カレンダーでは,3月2日。
こちらの世界も偶然なのか季節の巡りは、少し似ていて冬が明けかけた時期だ。まだ寒いし所々地面が凍っていたりするけど
時折温かい日もある。
この地に来てもうすぐ1年。
去年の今頃は,日本にいて、まだ圭もいたんだよな。
圭がもう居ない事がまだ信じられない。それでいて別の世界の出来事のようにも感じている自分がいる。
圭の異世界ガイドノートを読んでいると、まるで圭と会話しているような気分になる。
なんとなくだけど圭がまだ日本にいて、異世界ガイドノートを通じて俺と遠隔で会話しているみたいな。
そんなだったらいいな、と思っているだけだけど。
あの日、約1年前のあの日。
真っ二つになった圭の姿は今も目に焼き付いている。あれは単なる悪夢で,実は圭は日本にいるというならどんなに良かったか。
去年の今頃、圭が異世界について熱く語った事があった。
俺は呆れ気味に聞いていただけだったけど。
圭が夢見ていた異世界に、俺達だけ来ちゃってごめんね、って言えたらどんなに良かったか。
「瑛太ー!」
畑に佇んでいたらエプロン姿の藍ちゃんが呼びに来た。
「さくらもち作ったよ! 桜の葉っぱなしだけど。食べよ!」
「ああ、うん!」
3月といったらひな祭りでしょう、といって、小さい雛人形を作って飾ったり、季節のお菓子を作ったりしている。
月日の感覚を忘れたくないからだ。
月日と言えば、日本にいたら中学3年の3月。もう卒業する頃なんだよな。俺も藍ちゃんも。‥‥圭も。
高校受験していない、なんてことは、「そもそも帰れるのか」ってところに行き着いて落ち込むだけなので考えないようにしている。
でも、さ。いつの間にか歳とっていて、例えば実年齢20歳を超えても中学生のつもりだったらヤバそうなので、時間の経過は自覚していかないと、と思ってる。
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