第165話 おもてなし料理

「俺達とライアンさん一家の分くらいだよね。それでも何日分になるかな‥‥。」


食べて良い分と決めた量は5kgあるかどうかだ。一日の消費分ずつに分けようとしていたら、尾市さんから声がかかった。


「それ、もうちょっと後で食べる分もわけておいてもらえないかな。」

「‥‥うん?」

「国境の方から、こっちに来る奴らがいたら食べさせてやりたいんだ。」

「‥‥ああ‥‥。そうだね。とっておくよ。」


俺達が、ツェット領に来てから半年以上経つ。国境近くの街にまだ滞在している召還者達の内で,ツェット領に呼ばれる人も出てくるかもしれない。

少なくとも、江角さんと柄舟さんは、こちらに来るかどうか意思確認がされるんじゃないかな。

でも、尾市さんの念頭にあるのは椎名さんの事だと思う。


国境近くの街に残った人達の状況は、こちらには全く知らされていない。

順調に生活できているのかとか、救出作戦を再度行ったりしているとか。

知ってもここから何かできるわけでもないんだけど。


米の収穫が終わった二週間後くらいに、村で収穫祭が開催された。

俺達の村で収穫した物も量は少ないが、振る舞った。

振る舞うものについてはディーン君とライアンさんとも話し合って、今後、村の人達が作って行きたいと思えるものがよいということで

甜菜から作った砂糖をつかったものにすることにした。

そして出来たのはおしるこだった。


小豆も砂糖もある。餅米は量が少ないので、サツマイモと一緒に潰して丸めたお団子にした。

小豆もだけど、サツマイモやジャガイモの種芋もあったんだよ‥‥。


それとパン。今はもう村人から募集したパン職人に焼いてもらえるようになっていた。

そのパンにソーセージを挟んでマスタードを添えたホットドック。これも好評だった。


マスタードの種を栽培したら育ちが早くて、すでに「粒マスタード」と「マスタードペースト」として製法を商業ギルドに登録してある。

収穫した種を使って村の他の畑で秋撒きが行われている。粒マスタードやマスタードペーストは少量だけど隣のイグリック領でも販売を始めた。


ツェット家の直営で、マスタードを使ったベーコンドックとソーセージドックの店をイグレック領にオープンしたそうだ。

商品名聞いただけで美味しそうだ。俺も買いに行きたい。


収穫祭が終わって少し経った頃、村に豪華な馬車の隊列がやって来た。

イーリアさんのご両親のイグレック侯爵夫妻の乗った馬車だった。

先月、イーリアさんが無事に男の子を出産したので、赤ちゃんに会いに来たらしい。


それだけなら「へーそうですか」で終わるんだけど,何故か俺達にも会いたいっていうんだ。

なぜ?って思うんだけど。


「侯爵様って貴族の中でも高位貴族なんでしょ。どんな格好したらいいの?」

「どんな格好って、そもそも似たような普段着しか持ってないよ。」

「せめて、清潔にしとこ!あ、アイロンかけようか!」


何か皆でテンパってしまった。多分、イーリアさんのご両親だからってこともあると思う。

これが隣国の王女の前とかだったら、全然考える事違うだろうし。


俺達の事をどう伝えたのか後で確認したいところなんだけど、俺達が考えた料理を食べてみたいと言っているというんだ。考えたって言っても、ベースとなるレシピはあって、こちらの材料でちょっと工夫したってくらいだけど。

調理は屋敷の料理人がやってくれるという。

侯爵様夫妻の同行者もいるだろうし、大人数への料理なんて俺達には厳しいからな。


出来れば収穫した野菜を活かした料理にしたいということで相談した結果、カツレツのトマトソースと茄子のソテー添え。カボチャのポタージュスープ。

デザートにスイートポテト。焼きたてパンを添えて、というメニューになった。


トマトソースだとかカツレツのレシピも商業ギルドに登録はしておいた。食べたら大体作り方がわかるようなレシピは、皆勝手に作るようになるので飲食店とかで出される以外は使用料はほぼ入ってこないそうだ。


でも、レシピが広まるかもしれないので登録はしてるんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る