第106話 出国まで後少し
出国だけでも必死だし、逃亡中だとばれないか、かなり緊張するのに同級生疑惑の人が現れたおかげで緊張が倍になったよ。
挙動不審で捕まっても困るから、極力なんでもないように振る舞っていたけど。
出国用の門を抜けると道が続いていて,少し先にもう一つ門が見えた。ぞろぞろと荷馬車と馬車、徒歩のメンバーが門を出ると、一度扉が閉まった。
ワイちゃんが、振り向き少し眉を歪めた。
ぎゅっと唇を引き結んでいる。
気になるんだろうな。
でも騒がないでいてくれて良かったと思う。
何となく気持ちを共有するように俺と藍ちゃん、ワイちゃん、尾市さんで目線を交差させた。ワイちゃんは俺達を安心させようとしているのか、何度か頷いていた。
入国する為の列の方が長い。
入国する為の審査の方が時間がかかるんだろうか。
門の所で話をしている人を遠目に見ながら考えていると、柄舟さんから声がかかった。
「なあ、さっき何かあった?」
ドキリとする。
柄舟さんは、他の召還者を助けたいと言っていた人だ。今知ったら戻ろうとするかもしれない。
「‥‥いや、出国でちょっと緊張して‥‥。もうすぐ、ですね。」
「ああ。」
柄舟さんが嬉しそうに笑う。
ああ。今、柄舟さんを含めここにいるメンバーは仲間だと思っている。でも、他の召還者達への事については温度差を感じているし、他の人との温度差をちょっと警戒している自分がいる。
「あと少しだな!大丈夫だよ、向こうに着いても、いつでも相談とか乗るから!」
人の良さそうな笑顔を俺に向ける柄舟さん。いい人なんだよな。なんか警戒しているのが心が痛む。
仲間を助けたいって思う柄舟さんの方が善人だと思う。俺とか自分と周りだけの安全しか考えてないのは狡いかもしれない。
落ち着いて話せる場所で話したら、柄舟さんは、俺等が望まない行動はしないだろうと思う。
今、その余裕がないだけで‥‥。
「あ、あの人!ちょっと同級生に似てるかも!」
石倉さんの声が聞こえてドキリとした。見ると、ヴェスタリコラル側の国境門を指差している。
「いや、あっち国が違うだろ。多分人違いだよ。」
「だったら!」
石倉さんが来た道を振り返った。
「あっちには、居たかもしれないってことだよね!」
緊張が走る。主に俺と藍ちゃんとワイちゃんと尾市さんの四人の間に。
石倉さんはすがるような目で椎名さんを見つめ、それから俺達周囲を見回した。
「戻れない‥‥ですか?」
入国待ちの前に並んでいたライアンさんの馬車が進み、俺達との間に距離ができる。俺達も前に進まなきゃいけないのに、両手を胸の前で汲んで目を潤ませている石倉さんが俺達の前に立ちはだかっている。
「落ち着こ!どっちみち一旦向こうに行かないと無理だし!」
ワイちゃんが石倉さんにかけよって肩を抱き、入国用の門の方を向かせた。
そして、戸惑った様子で突っ立っている椎名さんに声をかけた。
「ほら〜後ろ詰まってるよ!」
わざとなんでもない風に振る舞っているけど、抵抗している石倉さんを結構強引に押している気がする。
俺達もぼーっと突っ立ているわけにはいかない。
「そうだよ。後少し!」
「着いてから考えよ!」
そう言って周りにも前進しようと促してから、石倉さんとワイちゃんの所まで行って、まずは入国、入国と背中を押した。
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