第105話 また見つけたかもしれない
ああ,自分達の世界に入っちゃうと他の人はちょっと困るよな。
顔がどんどん熱くなるのを感じる。ここで言わない方がよかったかなと、少し反省していたら、藍ちゃんとワイちゃんが手を取り合った。
「良かったね。ちゃんと言ってもらえて。」
「うん!」
そう言って喜び合ってる。‥‥あ、俺、もしかして藍ちゃんを不安にさせてたのかな。
ちゃんと言うのは必要なことだったようだ。
思いがけず解散直前パーティみたいになった昼食を終え、少し山道を通ったり、浅い川を歩いて渡ったりしながら、ようやく国境前に到着した。
山道の途中に門があって門の所に二人。少し離れて均等に兵士が並んでいる。
その光景を見て緊張が走る。ちゃんと出国できるだろうか?
「あ‥‥!」
ワイちゃんが小さい声を上げた。
「同級生、かも‥‥。」
門近くに兵士の待機場所のような小屋があり、複数人の兵士や騎士がいた。
その中に見知った顔を見つけたようだ。
こんな場所で?
口の中が一気に乾く。思わず周囲に目線を投げた。
ワイちゃんの声は近くにいた俺と藍ちゃん、尾市さんにしか聞こえていなかったらしい。
仲間を救出したいと言っていた石倉さんは今の所気がついていなさそうだ。
藍ちゃんがワイちゃんの肩を抱いて耳元で言う。
「落ち着こう。今は声を上げたらだめだよ。危険な気がする。気付かれないように見るだけ。見るだけだよ。」
ワイちゃん知り合いと思われる人物に呼びかけでも始めたら出国する前に全員捕まってしまうかもしれない。
頼む、冷静になってくれと祈るような気持ちでワイちゃんを見た。
ワイちゃんがコクリと頷いた。
「見るだけにする。」
国境の門の前、順番待ちの列に並ぶ。荷馬車を降りて、乗って来た荷馬車の後ろに並ぶ。
ワイちゃんは列の左端。兵士の待機小屋に近い位置を陣取っていた。何気なくストールのような布をかぶって布の陰からチラチラと観察をするようだ。
俺も、なんでもない風を装って周囲を見回す。
国境に沿って並んでいる以外にも、荷運びをしている兵士もいる。
鈍い色の鎧を着て兜からは顔だけ出すような格好をしているから、髪色で探すということはできない。
髪色といってもブリーチしている人もいるし、元々茶髪の人もいるだろうから、召還者全員がガッツリと黒髪というわけではないけど。
ワイちゃんが同級生の可能性があるという人物らしき人を観察する。
顔が確かにアジア系の顔立ちに見える。木箱を抱えながら何か他の兵士に言われている。
喉元は鎧で見えない。呪具を使われているのがあれば、確率が高そうなんだけど。
何か言われているだけで、当人はしゃべってはいなさそうだ。
呪具でしゃべれない、かもしれない?
チラチラ見ているうちに、国外に出る手続きをする順番になった。
身分証を見せるだけであっさり手続きできるようだ。
懐から身分証を出す。ちらりと待機小屋の方を見ると、同級生疑惑君が木箱を抱えたまま通りの奥へと歩いていく姿が見えた。
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