第56話 隕石

『今、どこだ?』

「え、バイト。」

『すぐ帰ってこい。』

「え、何?何かあった?」

『‥‥‥‥っ!』

「父さん?」


電話の向こうで父さんが言葉を詰まらせた様子だ。何か起きた?ドクンと不安で心臓が撥ねる。

父さんが、絞りだすような声で言った。


『‥‥落ち着いて聞けよ。‥‥圭が‥‥圭が死んだ‥‥。』

「‥‥は‥‥?」


え?


今、なんて言った?

圭が、どうしたって?


何か、聞き間違い? 聞き間違いだよね。


「父さん、今、なんて?」

『圭が、死んだんだよ』

「‥‥。」


一瞬、頭の中が真っ白になった。

何故? 何があった?


昨日の圭の様子を思い出す。

卵焼きを褒めたら、嬉しそうにして,泣いて‥‥。明日作るって‥‥言ってたのに?

どういうこと?事故? まさか‥‥自殺とかじゃないよね。

いや、原因とかじゃなくて。本当に圭が死んだの? 


とにかくすぐに帰ってくるようにと父さんが言った。

どうやら母さんに連絡がつかなくて、叔母さんが父さんに連絡をしたらしい。

母さんにはまだ連絡がついていないという。

俺から連絡した方がいいかと聞いたら、こっちでするからとにかく帰ってくる様にといわれた。

駅に迎えに行くから、到着時間が判ったら教えろと。


通話を切ってからも数秒呆然と立ち尽くしていた。事故、らしい。詳しくは帰ってからだという。

とにかく帰らないとと、身体を無理矢理動かした。


チーフに事情を説明して帰らせて欲しいと伝えた。

言いながら俺は泣いていたらしくて、Yが駅まで付き添ってくれた。

俺もバイトを抜けてるのに大丈夫なのかと聞いたら、オープン時間前だし駅まで送ってこいとチーフから言われたらしい。


「なんていうか‥‥その‥‥。」


俺の背中に手を添えたYが、言葉を詰まらせた。


「うん‥‥。気遣ってくれてありがとう‥‥。」


見るとYも今にも泣きそうな顔をしていた。

ああ、そうだった妹さんの事と重ねているのかもしれない。

Yの妹さんは生きているかもしれない。でも‥‥。もしかしてって考えているかも。

迂闊に言葉にできないけど。

そんな状況のYに気遣ってもらって少し冷静になれた。

駅の改札まで見送ってくれて,つらかったり何かあったりしたら電話しろって言ってくれた。いい奴だな。


電車に乗ってから、到着時刻を調べて父さんにメールをした。

父さんからすぐに返事がきた。そして、帰って来てからちゃんと話をするつもりだけどと状況を教えてくれた。


圭の通っている中学校に隕石が落ちたらしい。本当に隕石なのかどうかまだ調査中らしいけど、校舎には巨大な穴が開いていてその場にいた生徒が多く犠牲になったそうだ。

ほとんどが遺体すら判らない状態になっていて、圭の遺体は酷い状態だという。

そして、従兄弟の瑛太も犠牲になったと‥‥。


「まじか‥‥。」


学校からと警察からの連絡で知った仁美叔母さんが、父さんに連絡をしてくれたそうだ。

仁美叔母さんは母さんの妹で、瑛太の母親だ。学校からも母さんに連絡が取れていないと聞いて父さんに電話してくれたらしい。

母さんは‥‥多分仕事中携帯の電源落としてるんだよな。

職場に連絡できないかな。

俺からも一応メッセージを送ってみよう。


ネットでも中学校の名前で検索したらニュースになっていた。

ーーーー隕石か?テロか?

ーーーー校舎崩壊。集団行方不明と関連が? 生徒一名死亡が確認された。


圭以外は、跡形もなくなっていて死亡すら確認できないようだ。

酷いな‥‥。それに、辛い。

瑛太も‥‥とは思うけど、圭だけは確実に死亡が確認されているなんて‥‥。辛すぎる。

ああ、死亡が確認出来ない状況というのも辛いだろうな。


これは、本当に辛い。

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