第57話 駆けつけたけど
チーフからメールがきた。
落ち着くまでバイトは休んでいいとのこと。
ありがたい。正直、時間が経ったら落ち着けるのかどうかもわからない。
自宅の最寄り駅についたら父さんが改札前で待っていてくれた。父さんの顔色が凄く悪い。青白く見えた。
改札を出て駆け寄ったら、母さんとはやっと連絡がついたと言った。母さんも電車で帰ってくるところらしい。でも到着までは時間がかかるみたいなので母さんは待たずに車に乗った。
着いた先には圭の変わり果てた姿があった。
ショックを受けるから見ない方がいいかもしれないといわれた。でも、見ない事には圭の死を受け入れられない。
圭に会わせてくれといったら、父さんが本当に辛そうに圭の状態をおしえてくれた。
身体も頭も縦半分にまっぷたつになっていて。その半分は無くなっているという。
なんていうことなんだろう。
霊安室に足を踏み入れた時、膝がガクガクと震えた。
そこにいたのは、布で覆われて顔のほんの一部だけ出している圭の姿だった。
大量に出血したらしく皮膚が完全に血の気が失われていて、なんだか蝋人形みたいに見えた。
家族からの確認ということで会わせてくれたけど、まだこれから詳細な死因の確認をするので触れてはいけないという。
触れることもできない。
圭じゃないみたいにもみえたけど。圭だった。左目の下の泣きぼくろを見た時、叫び出しそうになった。
父さんがぐっと肩を抱いていてくれた。
1時間くらい経って母さんが到着した。
父さんの顔を見るなり、少し眉を顰めた。
それでも何か怒鳴り散らすとかもなく、淡々と父さんから状況を聞いていた。
遺体を一緒に確認に行く。辛いけど、もう一度圭に会っておこう。
「なんて酷い‥‥。」
母さんはすがるように俺の腕に手を添えた。
「何でこんな事に‥‥。」
声を震わせて、母さんは暫く静かに泣いていた。そして少し落ち着いてから、父さんの方を見ていった。
「‥‥もっと早く、圭を貴方に引き取ってもらっていたら‥‥こんな事にはならなかったかしら‥‥。」
「‥‥。」
父さんが何とも言えない顔をした。母さんの言葉に俺は少し苛つきを感じた。こんな状況でまだ圭を父さんにって発想でいるのかと。でも色々混乱していて、むやみに怒鳴り散らしそうな気持ちを押さえて黙っていた。
警察で状況の説明を聞いた。
目撃者に寄れば、突然光りの柱のような物が見えたと思ったら、次の瞬間、圭はまっぷたつの状態で倒れていて,教室に居た人達は姿を消していたという。
屋上から一階まで突き抜けたように穴が空いていて地面まで深くえぐれていたそうだ。
校舎が倒壊しかけている状況で今は立ち入り禁止になっているとのこと。
早朝で学校自体には生徒はまだ多くは登校していない時間帯だったが、
たまたま圭のクラスは何かの用事でほとんど全員登校していて犠牲になってしまったそうだ。
日中は駆けつけた父兄達がほぼパニック状態だったという。仁美叔母さんのところもそうだ。
父さんに連絡をくれた仁美叔母さんにも母さんから電話をかけた。
母さんのスマホから仁美叔母さんの泣き声が聞こえた。
今後の事を話し合う為に一度家に帰ることにした。父さんも一緒だ。
途中で何か食べて気持ちを落ち着けるか?と父さんに提案されて、ふと、昨晩に圭が積み上げていたタッパーの事を思い出した。
食べよう。圭が作ったもの、絶対腐らせたりしたくない。
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