第33話 悪夢が続く

背後から、金髪の女性の声が聞こえた。


「森まで行け。神聖な場所にそのような物を残しておくな!神聖な場所を汚すのは許さん。森に捨ておけ!」

「な‥‥。」


俺は絶句した。なんだ?圭をこんな風にしておいて要らないものみたいに。


「承知しました。」


鎧の男が胸に手を当てて応えた。


「ライアン‥‥お前も穢れてしまったな。清らかとなるまで神聖な場所に戻る事は許さん。」

「‥‥はっ。」


ライアンと呼ばれた人は、もう一度胸に手を当てて返事をすると、一礼してから、布の上に圭の遺体を乗せて、抱え上げるようにして担架に運んだ。

担架を持って来た人達は、簡素な感じの鎧を着ていたけど、顔だけ出すような兜を被っていた。その兜から出ている顔が、日本人みたいにみえた。


これ‥‥。もしかして‥‥。なの‥‥?


現状認識が全く追いつかない。呆然としているうちに、圭の亡骸を担架に乗せて日本人顔の兵士らしき人達が担架の両端を持って立ち上がった。

そこで俺は慌てて声をかけた。


「ま、待って!俺も!俺も行く!」


俺がそう言うと背後から男性の声が聞こえた。


「召還者はまず、この水晶に手を触れよ!そこの御前もだ!」


振り向くと豪奢という感じの鎧を着た銀髪の男が俺を指差していた。金髪の女性が両手に大きな水晶を持っていた。

その女性は俺に目線を向けると、もの凄く嫌そうに眉をひそめた。


「穢れしものは、もうよい!そのように穢れた姿で神聖な水晶を触らすことはできぬ!捨て置け!」

「アラナ様。よろしいのですか?魔術師10人の命と引き換えに呼び寄せた勇者ですよ。」

「大して力も感じられん。また愚鈍な者達まで勇者に引き寄せられただけであろう。勇者だけでよいというのに。

穢れを洗い流す水も惜しいわ。」

「然様でございますか。‥‥おい!そいつらは、森へ!神殿領域には入って来させるな!」


銀髪の男がそう言うと、ぐいっと俺の腕が誰かに掴まれた。

無言で引っ張られる。慌てて頭を動かして藍ちゃんの姿を探した。藍ちゃんも泣き顔のまま引っ張られている。

そのままずるずると引き摺られるようにして、神殿跡みたいな建物の外に出されたら、いきなり大きな布のような物がかけられて

訳が分からないままグルグル巻きにされて、ドサッとどこかに置かれた。振動が床から響いてくる。

馬車か何かで運ばれている?ガラガラと音がして、振動が容赦なく背中に響いた。


「藍ちゃん?無事?」

「‥‥瑛太ぁ。怖い‥‥。」


藍ちゃんも布で巻かれているのか、くぐもった声で返事があった。藍ちゃんが引き離されてないと判って少しだけ安堵する。


「静かにしてろ。」


ライアンらしき声が聞こえた。

どうしよう。この後どうなるんだろう。

捨て置けって言われた?森に?


ぐるぐると頭を巡らせていたら圭の顔が思い浮かんだ。

圭‥‥、これって異世界召還ってやつなの?解説してくれよ?

どう見ても、どう考えても、これは日本ではなさそうだし、彼らの風貌からして現代地球のどこかという気がしない。

あの金髪の女性は「勇者の皆さん」って言った。

圭が「異世界、異世界」って言うから、俺だってちらっとラノべで読んだ事はある。

いかにも、な異世界召還じゃないか。

で、ラノべだとどうなってたっけ。魔王を退治してくれとか言われていたな。

訓練して仲間と旅をして魔王と戦うんだった。そして、地球に戻るかというとき、お姫様と恋をして残る事を選んだんだった。

うん‥‥、今の状況だと絶対そんな未来はないよな。捨て置けって言われたんだぞ。


ふと考えてゾクっと背中に寒気が走った。

もしかして、俺と藍ちゃんも森に連れて行かれた後、殺されるのか?

や、やばい!逃げなきゃ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る