第32話 夢だったら良かった
でも次の出来事は、全てを一瞬でぶちこわした。
一瞬で、あっという間に。
「この野郎!」
本木が圭をもう一度殴った。圭がよろける。
「圭!」
やめろ!いくら何でも、もう止めに入るぞ!
俺が足を踏み出した瞬間、本木がドンっと圭を突き飛ばした。圭は教室の入り口まで飛ばされて引き戸のドアにぶつかった。
次の瞬間目の前が真っ白になった。床の方から光始めた気がした。
光で目がチカチカして、一時的に奪われた視力が戻ったとき、目に飛び込んで来たのは真っ赤な色彩だった。
赤い液体。腕?足?一体何?圭は?圭は無事?
鎧のような物を着た男が血まみれになってその場に立ち尽くしている。足下に広がる赤い液体。 何?なんだこれ?
「圭!」
近寄って、床に転がった身体の状態が詳しく目に入って来たとき、身体が凍り付いた。
身体が縦に半分。そう表現するしかなかった。手も足も一本ずつ。顔は半分なくなって、残った顔の目が見開いたまま空に向けられていた。
「な‥‥。」
「キャーー!!」
言葉を失って立ち尽くしていたら、背後から叫び声が聞こえた。
最初は藍ちゃんの声だった。その後、複数人が叫び出した。
「静まりなさい!」
よく通る声が響いた。誰?
振り向くと、外国人? ローブを見に纏った金髪の女性がゆっくり両腕を広げ、辺りを見回していた。
何だ?何?
ここ、どこ?
うっかり毒を呑んでしまったようなとてつもない不安感。恐る恐る周囲を見回すと、屋外?神殿?
大きな柱が何本も立っているその場所は、天井はなく少し赤みがかった空が広がっていた。
立っている場所は大理石のような物の上に何か細かな模様が走っていた。遠くに森らしき物が見える。
そして周囲には、先程の人と同じような鎧を着た人と他に簡素に見える鎧の人物で囲まれていた。
「ようこそ。勇者の皆さん。貴方達は私達の呼びかけに応じてくださいました。」
金髪の女性が口を開いた。
「ちょ!どこよここ!」
「え!なに?どういうこと?」
「は?え?な?ななな?」
教室に居た人達がその場に立ち尽くしてパニックになったように口々に何か言ってた。
これは何?夢?
俺はハッとして、もう一度恐る恐る血が広がる光景に目をやった?
「圭‥‥、嘘‥‥だよな。」
ヨロヨロと近付いて行く。血の広がる床を踏みしめた。べしょっと嫌な音を立てる。
何度見ても信じられなかった。圭なの?本当に圭なの?
「早く片付けろ!神聖な場所を汚すでない!」
金髪の女性が声を上げた。
その声に応じたように鎧を着た人々が動き出した。
血まみれの鎧の男性は、床に膝をつけ、圭の亡骸に手を伸ばした。
「圭をどうするつもりだ!」
俺は近付いて、男の腕を掴んだ。鎧の男は俺に青い瞳を向けた。
「落ち着け。もう‥‥死んでるんだ。」
男は意外な程静かな声で言った。俺が、どうしても受け入れたく無かった言葉だ。
「なんだよ。どうしてだよ。何がどうなってるんだよ。」
俺はもう一度圭を、圭だったものを見下ろした。
血が溢れていた床に両膝を付く。圭の腕に触れたらまだ暖かかった。
「圭‥‥、圭‥‥。」
「瑛太‥‥ぐす‥‥、う‥‥。」
藍ちゃんが俺の隣に来て、泣き出した。
バタバタと鎧の人々が来て、何か担架のような物を持って来た。
圭の身体を持ち上げて担架に乗せようとしていた。俺は鎧の男の腕を掴んだ。
「待てよ‥‥。圭を何処に連れて行くんだよ‥‥。」
「‥‥埋葬する‥‥。」
鎧の男が絞りだすように言った。
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