第31話 本音
「へへーん。ちょっと絵琉に優しくされてのぼせ上がったんだろう。欲しいって言われて、ホイホイ買って来たんじゃねえか。」
「のぼせ上がってなんかいない。返せ。」
やっぱり松井当てに買って来たってことなのか。
「ええー?私がもらったのよ。一ヶ月も我慢して付き合ったんだからお駄賃でしょお。」
松井は、くねくねと身体を揺らし上目遣いに圭の方を見た。
圭は松井と付き合ってた?いつの間に?それでお駄賃?何言ってるんだ?
「絵琉ちゃんの事も普通のクラスメートでいようって、今日言うつもりだった。のぼせ上がってた訳じゃない。気がついてたよ。」
圭は、凄く冷静そうに見えた。顔色も変わっていない。少し悲しそうな表情をして松井を見つめてた。
「えー?何それ、負け惜しみぃ?」
「負け惜しみでも結構だけど、からかわれて泣いたりしないってことだ!」
「はぁ?何それ〜。」
松井は怒った様子で眉をつりあげた。
「本木、そのゲームは御前のじゃない。何でも思い通りになると思ったら大間違いだよ。」
「はあ?なんだ?偉そうに!」
圭の言葉を聞いた本木が圭に腕を伸ばした。パーンと何か弾く音がした。え、何?
物が床に落ちる音がしてみると、箱が転がっていた。
「このオタク野郎!」
本木が圭を殴った。圭が床に倒れる。
「圭!」
駆け寄って圭の腕と背中を支えた。圭は顔を殴られたようだ。
なのに一瞬圭が笑ったように見えた。
圭が俺に少し体重を預けた形で立ち上がった。俺の肩から手をはずすと、よろける。慌てて手を伸ばそうとした。
「おい!何やってるんだ!」
広田が駆け寄って来た。でも圭は俺の事も広田の事も制止するように
掌を向けた。
本木がニヤニヤした笑みを浮かべながら言う。
「その使い物にならない足で俺に立ち向かおうってか。」
「‥‥この足を怪我した事故は、御前が引き起こしたんじゃないか。それを親の力と金で隠蔽したくせに。」
「‥なっ‥‥!」
圭の言葉に、本木の表情が変わった。
「優等生ぶりながら、何時も陰で俺をいたぶって楽しかったか?」
「何だと!」
圭は自分の頬を撫でて不敵な笑みを浮かべた。
「今日のはどうだ?これは立派な暴力だよ。僕に公衆の面前で恥をかかせる為に皆を集めたのか?失敗だったな。目撃者多数だ。
今日は隠蔽できないよ。暴行で警察に訴えようかな。」
「貴様!」
本木は大声を上げて圭につかみかかった。
「もう一度殴るのか。いいよ、やってみろよ。ずっと言いたかったことを言ってやる!」
圭は本木につかみかかられても、動じた様子はなく本木を睨みつけていた。
「いつも判らないくらいの嫌みを言って僕をからかって楽しかったかよ。
僕が気に食わないならはっきりそういえば良かったじゃないか。今みたいに! 腑抜けの卑怯者が!
御前なんか、御前なんか大嫌いだよ!」
圭が振り絞るように言った。
ああ、圭も腹を立ててたんだ。
気持ちをあらわにした圭は、何か変わろうとしているのかもしれない。
俺とももっと本音でしゃべって欲しいって、後で圭に言おう。
そう思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます