第7話Cランクパーティー【ソールの剣】
【トワの未来】の子供たちと一緒に行った初めての依頼の後、
アルテモ草は、八穂の家の近くにも生えていたので、時間のある時にリクを連れて採取して魔法ポーチへ入れておけば、いつまでも新鮮なままだった。
トワの街へ行くついでに依頼を受ければ、その場ですぐ達成ということで、Eランクへのランクアップ条件は、すぐにクリアできた。
「おめでとう、これでEランクへ昇格よ、ヤホ」
ミュレが、Eランク用の水色のギルドカードを渡してくれた。
「ありがとう。これで今年の分は安心だ」
八穂はホッとして息をはいた。
「何言ってるの。もう今年は依頼を受けないつもりじゃないでしょうね」
ミュレがあきれたように言うと、八穂は首を振った。
「いやいや、薬草摘みは家の近くでできるから受けるけど。できれば何か、やりたい仕事を見つけたいと思ってるんだ」
「そうなの? 薬草はポーションを作るのに、いくらあっても足りないから頼むわ。でもヤホが本当にやりたいことがあれば、その方がいいわね」
「まだ、何も考えてはいないんだけどね」
八穂は卒業を間近にした高校三年生の時、突然の事故で両親を亡くした。近くに親戚もいなかったため、八穂は進学をあきらめ派遣会社に登録をした。OL生活は楽しいこともあったし、決して嫌ではなかったが、好きな仕事とは言えなかった。
この世界に飛んでしまう直前、三年間の派遣契約が終了したところだった。会社側からは継続を望まれたが、環境を変えたくて新しい職場を紹介してもらう予定だったのだ。
彼女はずっとお料理教室に通っていた。料理をするのが好きだったので、新しい仕事は飲食関係を希望していた。それが、思いがけず知らない世界で再出発することになってしまった。だから今度こそ、本当にやりたい仕事をしてみたいと思っていた。
「【ソールの剣】の皆様Cランク昇格おめでとうございます」
隣の窓口の受付嬢が声を上げた。
「カテリー担当のパーティ、昇格が決まったみたいね」
ミュレは、隣にすわっている受付嬢に視線を移した。
カテリーと呼ばれた女性は、ミュレよりは年下に見えた。小柄で目がクリッとして可愛い感じだった。
「ありがとう、カテリー」
嬉しそうな声が答えていた。背の高い男性とやや細身の小柄な男性、それと、ローブ姿の女性が肩を叩きあっていた。
「おめでとうございます」
「おめでとう」
近くにいた冒険者たちからも声がかかって、ギルドの中が急に賑やかになった。
「おめでとうございます」
八穂もミュレと一緒にお祝いの言葉を贈った。
ミュレによると、【ソールの剣】は、西部地方ソール村出身の同郷パーティーで、剣士のトルティン、弓師のラング、魔術師のミーニャの三人組だった。
ラングはまだDランクで、今回はランクアップを逃がしたが、トルティンとミーニャがCランクに上がったので、パーティ自体がCランクに昇格認定されたという。
「ありがとう、みんな」
リーダーのトルティンが礼を述べた。他の二人も興奮した面持ちで嬉しそうに笑っていた。
「おまえらは結成してどれくらいになるんだ」
近くにいた冒険者が話しかけた。
「そうだな、どれくらいかな」
「二年と八か月よ」
トルティンが首をひねっていると、横からミーニャが答えた。
「早いな」
「そうなのか?」
「Cランクまでに上がるのは、実力のあるヤツでも四、五年はかかるぞ」
「へえ、それは幸運だったな、俺ら」
「幸運か、確かに。良く生き残れたって事でもあるからな、俺たちの仕事は」
トルティンが話している横で、別の冒険者がラングの肩を叩いていた。
「ちょっ、痛いですよ、ベスベルさん」
抗議するラングをからかうように眉を上げると、今度はバンバン背中を叩いている。
「ほんとに、もお」
ベスベルの荒っぽい祝福から逃れるように、ラングはトルティンの後に逃れた。それを見ていた何人かが笑う。
「あら、あまり見かけない顔ね」
ミーニャがヤホに目をとめて、近づいて来た。
「はじめまして、八穂です。まだ登録して十日余りの初心者です」
八穂は自己紹介して、ミーニャを見上げた。
背の高いスレンダー美人だ。ゆるくカールした赤茶色の髪が、肩のあたりでうねっていて、猫のようなアーモンド型の目が印象的だった。魔術師らしくフードつきの赤いローブをまとっていた。
「そうなのね。ミーニャよ、よろしく」
ミーニャが手を差し出して来たので、八穂もほほえんで握手にこたえた。
「ミーニャさんは魔術師なんですよね」
八穂がたずねた。
「そうよ、水と風の魔法が得意。魔術師の冒険者は少ないから、珍しいでしょう」
「以前私のいたところには魔法ってなかったから、興味深いなと思ったので」
「魔法がないなんて場所あるのね、知らなかった」
「あー 外国で、とても遠いところなので」
「へえ、そうなのね」
八穂はミーニャに深く追求されたら何て答えようかと思ったが、ミーニャはそれ以上聞かずにいてくれた。
「ヤホも仲間を見つければ、薬草摘み以外の依頼も受けられるのよ」
ミュレがカウンターから身を乗り出した。
「あら、ソロなの、ヤホは」
ミーニャが驚いたように目を見張った。
ランクを上げて行くにはソロでは難しい。実力があればソロだけでやっていく者もいるが、大抵はパーティを組んで協力して依頼をこなして行く。
「いやあ、登録したばかりで知り合いも少ないので。それにまだ、冒険者を続けるか決めていないし」
「あはは、そうなの。でもせっかく知り合ったんだもの、何かあったら言ってね。アドバイスできることもあるかもしれないし」
「ありがとうございます。ミーニャさん」
「ミーニャでいいわ、ヤホ、仲良くしましょう」
ミーニャは片目をつぶると、手を振りながら仲間の方へもどって行った。
「気さくな人ね。冒険者ってもっと荒っぽい人が多いかと思ったけど、気のいい人が多いね」
八穂は、昇格祝いに便乗して騒いでいる冒険者たちをながめた。
「まあね。トワ周辺は強い魔獣もいないから。冒険者も大らかな人が多いわね。これが辺境地域だと命に直結するから、殺伐していると聞くけれど」
「そうなのか。トワに来て良かった。さて、そろそろ帰る。またね」
八穂は言って出口に向かった。
「またね、ヤホ。薬草待ってるわ」
ミュレは手を振って八穂を見送った。
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