旅行前

「えー、来週から夏休みですが……ハメは外しすぎないように。各教科の先生から宿題を出されたと思いますが、計画的にやるように……最終日にヒーヒー言う羽目になるぞ」


「…………」




「〜〜〜の答えは〇〇で……日向、聞いてるか? 」


「………はい。答えは木下藤吉郎です」


「源氏物語の作者だぞ」




「おーい。今数学だぞなんで現代文の教科書開いているんだ」


「………答えは156です」


「問の答えはきいてないぞー」





「日向お前マジでどうした」


「知ってるかバイク乗った状態で手を前に出すと胸が揉めるんだぞ」


「本当に何があった」


なんか日向がすっげぇおかしいんだけど。右手を凝視するし、ぼーっとしているし。何かあったとしたら休日だけど……確か『水着履いたら破れたんだけどそんな事ある!?』『草』てやり取りしたから、水着を買いに行ったとおもうがその時か?


「なあ日向、昨日か一昨日何かあったのか?」


「え〜と」


そう聞くと日向はぼーっとし、右手をみてせくる。


「こー」


「わからん」


「そー」


「会話すら成立しないんだけど……」


アリシアさんが秘密基地にすっげぇ興味持ってたし、もしかしたら休日に一緒に行ってるかもしれないし聞いてみるか………。


「………あれぇ?」  


アリシアさんが席にいない。お花摘み?


とりあえず何かと声をかけているが反応は同じ。大丈夫かな。体育の授業。






「ごばべ!」


「おい日向! ぼーっとするな! 」


「……こいつ今何やっても上の空なんで端っこで見学させときましょう」


キャッチボールで顔面直撃した日向を端に置く。さり気なく見学しているアリシアさんの横に置く。


さてと、アリシアさん相手だとどうなるか。



野球の授業で試合が始まる。皆そっちに集中している。俺は打席まちなので日向の方を見てみる。


二人は一切会話していない。あれぇ? 会話してそうなのに。今の日向はぼーっとしてるけど、アリシアさんもアリシアさんで距離を開けているというか、一切日向の方を向かない。無言のまま。たまたまその時に見てるだけなのか?



………………


いやちげえわ。5分以上見てるけど一切何も起きない。


水着を買いに行った時にアリシアさんと何かあったのか? いや、水着を買うのに誘わないだろうな。だけど何かあったと仮定しよう。


 


放課後まで待ってアリシアさんに声をかける。


「アリシアさん、日向の様子がおかしいんだけど何か知ってる? 多分昨日か一昨日のどっちかでああなったと思うんだけど」


「んー、私は知らないかな」


「そっかー」


俺のきのせいだったかな。何も白なさそうな素振りだったし……ん? 何も知らない?


待てよ。今確信した。[何も知らない]なら何で声もかけない? 本屋ではアリシアさんから声をかけたと言ってたし、連絡先、電話番号も含めて交換してる仲にまでいってる。他の奴らは電話番号までは交換してないから少なくとも日向の事は他より意識しているはずだ。


「知らないならしょうが無い。俺は日向の秘密を知っているからな。バラされたくなかったらって脅しができる。よし日向を脅しに行こう!」


「ストップストップ!!」


俺は日向に電話をかけようとするとアリシアさんは慌てて俺の手を抑えてくる。


「何かあったんだな」


「あ」


アリシアさんは頭を抱える。顔をよく見れば少し赤くなっている。え? まじで? そんな反応? 結構進んじゃった感じ? それとは違うな。日向のやつ手を出したか? それで距離あいちゃった感じが?


「あーー、あれだな。えっと、まあようわからんが、日向が悪かったな」


「いや、ちがう! 日向じゃなくて、あれは事故って言うか、そもそも原因が私だから……! だから……最後のあれは対応が悪かった……」


「さいご?」


「……き……今日のことは忘れてっていったの。そのまま離れて、その時私、混乱してて、あれは、えっと………」


何か起きたのかは言いたくなさそうだ。


「言いたくないなら言わなくて良いよ。取り敢えず何かあったって事だけはわかったから。ただまあ、こんな状態じゃ旅行なんて気まずいから、早めにアクションは取ったほうが良いんじゃないかな」


「……わかった。そうだよね」


そう言ってアリシアスマホを手にもつ。自身に英語で何かを言い聞かせて日向に電話をかけようとする。




俺は仲が悪くなったとかそういうのじゃなくて安心したので立ち去ることにした。後は当人たちの問題だし、踏み込み過ぎは良くないな。









後々知ったが結局アリシアさんは電話をかけられずに夏休みに入り旅行に行くことになった。








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