美少女と一緒に試着室にいるんだが
ショッピングモールの試着室の中。アリシアに引っ張られて入ってしまった。狭い部屋に二人、肌が接触する。体温がはっきりと感じられる。アリシアの目線は閉められたカーテンの向こう側。宮根たちの声がする。だけど俺にはその事を気にしている余裕は無かった。
俺の目線は間近にあるアリシアの横顔。焦っている。宮根の声がカーテンを挟んで1メートルと少しに迫る。息を呑む。見つかるか見つからないか、アリシアに取ってはそれだけで今日のプライベートが崩れ去る。その意識からかさらに俺にくっつく。俺の腕がアリシアの胸に当たる。水着1枚の距離感はアリシアの鼓動が伝わる。
凄くドキドキする。きっと顔は真っ赤だ。全身を流れる鼓動がアリシアのものなのか、俺のものなのか、わからないぐらい頭が真っ白になりそうだ。
別のカーテンの閉められる音がする。宮根達にはバレなかったようだ。そこでアリシアは俺の顔を見る。
「…………! …………っ!!」
自分のやったことを理解し、顔が一気に赤くなる。
「〜〜〜〜〜〜っ!!!」
必死に口を閉じる。聞こえないはずの悲鳴が聞こえる。
それで俺はやっと頭が真っ白な状態から解放された。
「…………っ!」
かと言って何か行動を起こせるわけでもなかった。試着室に引きずり込まれた事実に混乱と恥ずかしさからやっと顔を反らせた程度だ。
「…………」
「…………」
無言のまま硬直が続く。何か喋ろうにも隣りにいる宮根達にきこえてしまう。もしアリシアがいることがバレたら絶対に偶然を装って待ち伏せされる。いやここにいること自体は偶然なんだけど、最悪詰む。
いやいや、男女が一緒って、バレたら俺は社会的に抹殺されない? クリス・ミラーから殺されない?
かといってずっとここにいることは店員に怪しまれる。定期的に前を通っている。声をかけられる可能性もある。
「ごめんなさい」
ビク!
耳元で吐息が聞こえるほどの距離で囁かれる。
「動かないで」
腕に胸が触れる状態からさらに密着される。物凄く興奮する………訳にはいかない。
何とか理性を保って動かない。アリシアは囁いて周りに聞こえないように会話をしようとしている。
「本来なら私だけで良かったのに、いつもはパパが一緒だったからつい………」
そっか、親子揃って有名人だから、隠れる時は二人ともなのか。だからつい俺ごと隠れてしまったのか。だけど今回は場所が悪すぎる。
「とりあえず宮根達が行くまで待とう? 」
頷く。今度は俺がアリシアの耳に顔を近づける。
「宮根は基本着替えるの早いし、一緒にいる奴らは宮根について行くから、早く水着が決まることを願うしか無い。それまではなるべく静かに……」
アリシアは頷く。俺が言い終わるとアリシアは俺の方を向いた。目と鼻の先にあるアリシアの顔、綺麗でつい見てしまった。
互いに見つめ合う。俺は目をそらしたくなったけどそらせない。沈黙が続き耳を傾けるという名目で顔をそらせない。
俺の腕を掴んでいるアリシアの手、まだ離してないことに今更気づいてついもう片方の手で重ねるように触れてしまう。
するとアリシアはゆっくりと腕を下ろす。俺の腕を伝って、そして手先まで来たとき、そのまま離れるのではなく、指先を優しく掴んで、そのまま指を絡めてくる。
その動作にまた理性を揺さぶられる。静かにしなきゃいけない息が荒くなる。
次第に宮根が意識から消えてアリシアに向く。深くなる度にアリシアの呼吸が鮮明に聞こえてくる。
吐息がほんの僅かに自分に届いていたのがやっとわかった。
互いに無意識だったと思う。それに気づいてからほんの少し、本当にほんの少し、近かった顔をさらに近づけていた。
あと少し、間に何ミリだったのかわからないぐらい、唇が触れそうになった。
「おお! これいいな! よし! これに決めた! 」
「!!??」
宮根の声に我に返った。やっとお互いの唇の距離の近さに気がついてアリシアは咄嗟に半ば突き放す形で離れようとした。
「Way!?」
その時足元の水着を踏んでアリシアは足を滑らせた。
あぶない!
俺は咄嗟に体を支えようとするも俺も水着で足を滑らせてしまいアリシアに覆いかぶさるように倒れてしまった。
カゴド!! ドン
ムニュ
「う〜」
「……っ!」
声を出したらやばいのでなんとか痛みに耐える。
左手は床に付いているが右手は柔らかい何かに触れていた。
直に理解した。
アリシアの上半身にある2つある柔らかい部分のうちの左に着いている部分に触れていた。
直に右手を離す。ただでさえさっきの状況で顔を真赤にしていた顔がさらに赤くなり、耳まで染まったアリシアの驚いた顔。そして両腕で自身の胸を隠す。
口を開きたいが開けない。せめて行動だけでもと右手で謝る態度をとる。
「お客様、大丈夫ですか? 何か大きな音がしましたが」
しまった! 今ので店員が来てしまった! まずい………
女性物の水着ガチャカーテンの下から外に飛び出していた。右手でそれを指差す。つまりこの対応はアリシアがしなくてはならない。
アリシアは顔を真赤にしたまま少したって口を開いた。
「ごめんなさい。試着に夢中になって足を滑らせてしまったの」
「?!」
顔を真っ赤している人とは思えない程普通に喋る。それに声色も少し変えている。
「心配してくれてありがとう。でも大丈夫、受け身を取れたので。このまま試着を続けます。ここの水着は種類が多くて迷ってしまうわ。ついつい16着も取ってしまったの」
それをきいて店員も安心したのか
「それは良かったです。是非試着を続けてください。よいものが見つかるとよいですね」
「はい。わざわざありがとう」
そして店員は離れていった。宮根達も隣が女性とわかって盛り上がってたが試着数16に対し待っていても長い時間取られるだけなので用が無くなり離れていった。
「…………」
「…………」
おかげでバレずに試着室から出てこれた。
柔らかかった柔らかかった柔らかかった柔らかかった柔らかかった柔らかかった
今日何度目かの沈黙。右手にある触感が染み付いて離れない。頭からも離れない。
「今日のことは忘れて」
アリシアは速歩きでレジに向かう。おれは何も言えずにそのまま立ち止まったまま。
結局忘れられないまま今日が終わった。
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