撮影

誰かにその姿を重ねる事は何度かある。憧れた人に重ねたり、たまたま別の良くわからない記憶に重ねたり、それはたまにある。私は色んな人と出会って見てきた、皆ヒーローで格好良くて素晴しい人達。私はそれに憧れた。スクリーンの先にある景色に。


スマホを設置して撮影する。


作られた足場の上で走る日向は足場が無くなる前に跳ぶ。壁に向かって浮く体は、下から見上げる私にはヒーローと重なって見える。パパと重なって見える。


壁の側面に着地して走ろうとするも足をすべらせて宙吊りになる。だらんとした体は情けなく見えるが表情は凄く楽しそうでもう一回やろうとする。


上手くいくまでやるその姿を最初はパパの姿と重ねる。


「これ結構難しい。アリシアも挑戦してみる?」

 

私は首をふる。先に成功した姿を見てみたいと答える。

放課後で時間が少ないのに、それを忘れてしまいそうな熱。肌で感じる度にまるで映画で負けそうな主人公が逆転の一手をつかんだように、手に汗握ってこころの中で応援してしまう。


何度も何度も挑戦しているのに晴と日向は諦めるどころかその場で一言の作戦会議で悪い所を修正してやり直す。


気がついたら私も作戦会議に参加していて絶対に成功させようとしていた。テイク数50回以上。夏の夕日も落ちかけたころ。


日向は作られた足場の上を走り跳ぶ。鉄骨に見える。

壁の側面に着地して走りながらモデルガンを壁に向かって発砲する。ビルの側面にいるように思える。


最後は跳んできりもみ回転で壁から離れて発砲する。モデルガンからワイヤーが出ているように見える。


晴が機械を操作するとそのまま壁に体が引き寄せられ窓ガラスを割るように両足で蹴る。銃から放たれたワイヤーが日向を引き寄せてそのままビルのガラスを割るように見える。


映画のワンシーンが頭の中で流れる。その姿はとてもかっこよかった。スクリーンで見るヒーローのように見えた。


日向はマットの上に着地する。モデルガンをホルスターに入れる。静かに、冷静に、拳を握り始める。


「!…………しゃぁぁぁぁぁ!!!」


溜めに溜めて歓喜の声を上げる。


「うおおおおおおお!!」


「YEEEEEEEEEES!!」


私達も歓喜の声を上げる。たった数時間に満たない短い時間だけど、映画のシーンを再現できた。


「なあなあ! 早く見ようぜ!」


日向がそう言うと急いでワイヤーを体から外してスマホをパソコンに繋げて直に再生する。


「……すっげぇ、これを編集すればマジで映画のワンシーンじゃん」


「ねえこの動画頂戴」


「オーケー。スマホを繋げたら送れるよ」


そして私は今回の出来事を撮った動画をスマホに入れる。スマホの画面には6:45と表示されていた。


「あ………」


「………しまった」


「WAO!」


晴は顔が真っ青になって直に私達に小屋を出るように急かす。


「やべぇやべえ遅くなるって連絡してねぇ」


「またやっちまった! いそげ!」


「ははは!」


二人は焦りながら、私は笑いながら小屋を出る。鍵を閉めるとバイクで敷地を出て門の鍵もしめる。


「二人は門限とかあるの?!」


「俺は一人暮らしだから無い! 晴は遅くなることを連絡し忘れて親に怒られるの確定!」


「今日はパパ遅いから黙っていればバレない!」


日向達と途中で別れて帰路を辿る。バイクを停めて家の中に入る。パパが帰ってくる前に急いでお風呂に入ってご飯を食べる。歯磨きも済ませて自分の部屋のベットに倒れ込む。


「………」


動画をまた見ようとスマホを手にとる。再生すると日向の格好良い姿が映し出される。


「…………凄いなぁ」


もしもこれを編集したらもっと凄いことになるのかな。


何度も繰り返し見てCGを使って編集した映像を想像する。ワールドロードのワンシーンが出来上がる。当然。元々その映画のシーンなのだから同じになる。日向は…………あれ?


全く同じシーンの筈なのにパパの姿を重ねなかった。どうしてだろう。最初は重ねてたのに。


最後には私も自分の事のように喜んでた。私自身参加してたという理由もあるだろうけど。夢中になってた。時間も忘れるほど。


映画の撮影スケジュールは意外と細かい。だから時間は絶対厳守。いつもならどんなに夢中になっても時間は忘れなかった。それほどその生活が体に刻まれていたから。なのに今日は忘れた。


それだけじゃない。相手が日向だったとはいえ山奥にあっさりついて行っちゃってたし、アメリカでやれば一発アウトなのに。


再度動画の日向を見る。飽きずにかっこよいと思えた。


「………」


自分が思っている以上に日向の事を考えてるのかな。


そう考えてスマホを胸の上において天井を見る。するとアクビが出た。初めての事に興奮した反面、疲れたのかな。眠くなってきた。


日向……前からこういうことやってたみたいだし、他の動画もあるのかな…


名作……ミッション〇〇ポッシブルとか………あったら……見て……み………




__________________


バイオハザ〇ド デスアイラ〇ド見ました。主人公組5人中3人人間やめてました。


面白かった人は★★★お願いします。













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る