やってしまった

「……見ないの?」


はっ!? そうだ、雑誌を一緒に読むことが目的なんだ。……一緒に、二人っきりで。


「おまたせしました〜」


ケーキを一口、紅茶一口で落ち着こうとする。アリシアさんか意識をそらすように雑誌を凝視する。


「クリス・プラ○ト、少し太った感じしない?」


「言われてみれば…一作目と比べたら……」


「オペラとラップ、気になるわね」


「予告のピザの下り好きなんです」


「アリシアさんは見る予定の映画あるんですか?」


「マリ○」


映画の情報や裏話だったり、驚くことやシュールな笑いまで、色々と載っている。自分の好きな事は長く喋れると良くいったものだ。アリシアさんと俺は一つ気になることがあればそれだけで次々に言葉が繋がっていく。ページを捲る音が止まらない。


……なんでスカイマンの事が載ってるんですかね。


「知らないの? 今映画業界はスカイマンの話題で持ちきりなのよ?」


「へ?」


「素晴しい勇気と運動神経。ぜひともスタントマンとして雇いたいとか、パパを救ったヒーローに私も会いたいとか、ハリウッド俳優の著名人皆SNSで発信してるわよ?」


めっっっちゃ広がってる!!! たしかクリス・ミラーの投稿が1000万回拡散されてて……今何回だ?


「今累計10億回は拡散されているね」


おく………? 億!!!!! うっそ! どうしてそこまで人気なんだよ! 悪く言えば撮影現場踏み荒らした不法侵入者だぞ!


「私もあいたいなぁ………会えるかな?」


ぎく!!!!


「あ、会えるとおもいます〜」


「この付近って事はわかってるからもしかしたらもう会ってるかも」


はい! 俺です! なんて言えるか! 10億…もしかしたらバレるのも時間の問題かもしれない。


「でもスタントマンのスカウトか〜」


「日向、嬉しそうだね」


「へ? あ、いや! 俺もスカイマンのファンなので、嬉しくて! アリシアさんも恩人がスカウトされるなんて嬉しいと思いますよね!」


「ふふ。確かに、私も嬉しいもの。もしかしたらあえるきっかけになるかもしれないし」


アリシアさんはクスッと笑う。何とか誤魔化せた。ふぅ、とりあえず話題を変えよう。


「へ、へー。今度MCUの時系列が載ってる本。今度発売なんですね」


「え? どこどこ?」


「ここ」


俺が指をさす。そこは俺側にある小さな記事でそれを見ようとアリシアも俺の方に近づき肩が接触する。


近い。すぐ左下に彼女の頭がある。いい匂いがする。せっかく気にしないようにしてたのに。


「ち、近づきすぎです!」


「ん?」


アリシアさんが俺の顔を見る。顔をそらしてしまう。顔はもう真っ赤で直にいなくなりたいぐらいだ。


「……ねえ、どうしてさん付けなの? 」



不意に問われる。アリシアさんは体制を戻すとちょっと不満気になる。俺は数日前から呼び捨てで良いと言われているが一度も呼んだことがない。


「その、失礼ですし」


「私は気にしないよ?」


「えっと……恐れ多くて、クラスの皆だって、視線も怖い」


「………やっぱり、私が俳優の娘だから」


「その………」


「……………」


アリシアさんは黙ってしまった。

言葉を間違えた。


クラスメイト皆に同じ頼みをしているって事は、有名人である以上にクラスメイトの友人として見られたいことなんだろう。でも、やっぱり有名人。特別扱いしなければいけないと心が訴える。


「あの、アリシアさ」


アリシアさんは無言で立ち上がり、レジの方へ行ってしまった。


引き留めようと思ったが手を少し伸ばすだけでそれ以上体は動かなかった。


アリシアさんが店を出る直前、俺の方を見た。その表情は、少し悲しそうだった。


………………


「やってしまった」







__________________




所でアリシアさんケーキだべ切った? 


紅茶派だという人、コーヒー飲めない人★★★お願いします。コーヒー派の人、マンハッタンカフェのコーヒーカップで紅茶を飲んでるけど許して。

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