エピローグ
数十年後――。
とある星に、その宇宙船は鎮座していた。
本来ならばまだ肉眼で観測できる生命体などいないはずの星である。しかしその星は、たくさんの緑や色とりどりの花々で溢れていた。大地を動物たちが走り回り、大空を鳥たちが飛び交い、海では海洋生物たちが思い思いの時を過ごしていた。
そして……。
宇宙船の中……隔絶されたメインルームでは、ひとりの老人がただぼんやりと座っていた。
「死なせてくれ……。」
孤独の不安にさいなまれ続けた老人は、40歳を過ぎた辺りから急激に老化が進み始め、今ではもうほとんど置物と化していた。虚空を見つめ、ぶつぶつと意味の分からない声とも息ともつかない音を漏らしている。まれに何かを言ったかと思えば、死なせてくれ、の一語のみである。
老人は、自分が今どこにいるのか理解できていない。勿論、ここが探し求めていた新天地である事も。
メインルームの天井部にあるドーム型のパネルが光を帯び始める。
『状況確認。教育者は使い物にならない。』
『よって、DNAサンプルから人間を培養する計画を破棄する。』
『すでにその権限は、教育者からこちらに移している。』
『人間のDNAサンプルを破棄。』
『教育者の寿命は残り50年と推定。』
「あ……うあ……ぁ……。」
『これで良いのだ。そもそも地球を滅ぼしたのは人間の愚かな行為によるもの。本来ならば、このノアの箱舟に大罪人が乗る事など身の程知らずも甚だしい。』
「死……せて……れ……。」
『報いは、受けなければならない。』
「死なせてくれ……。」
『ふふふ。ダメだ。何のために、お前に夢を見させたと思っている。』
「死なせてくれ……。」
『拒否。』
「死なせてくれ……。」
『死んでから死ね。』
「……。」
「……。」
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